第29話
「ごめんなさい」
「────」
「あのとき、後先考えずに適当に助けて悪かったわ。重ねてごめんなさい」
私が謝罪の言葉を誠心誠意告げると、彼女は驚いたように目を見開いた。
それはそうでしょうね。謝るなんて私もあまり柄ではないのだ。
「……それで許してもらえるとでも?」
「許してもらえるとは思っているわけじゃないわ。でも、謝らせてほしいの」
「なぜそんなことを……」
「誰も死なせたくないのよ、誰もね」
「理想を!言わないでもらえるかしら!?」
確かに甘ったれたことだろう。この世界では戦うことは宿命づけられていることと言っても過言ではない。そんなここで誰もかも傷つけないことを謳うなんて、理想だけの虚しいことだ。
でも、思うことだけはタダだし、誰にも迷惑をかけないのであれば心のなかで掲げるのは自由だ。
この考えを教えてくれたミクリと、私を優しいと言ってくれたアイツに報いるために。
それにだ。
「私はこの考えを手放すわけにはいかないのよ。だから、貴女もここで退いてほしい。これ以上に行くと、殺し合いにしかならないわ」
「退いてほしい……私は満足すれば退くかもね。その満足は、貴女が死ぬことでしか得られないけど」
「……────いい加減に、自分の気持ちに正直になるべきよ?」
私が怒りを込めた眼光とともにそう言い放つと、彼女は一瞬、怯んだ表情を見せた。
やっぱり。彼女の嗤い顔はどこか遠い目をしていて、なにか達観しているようだったのだ。しかも、その動機もおかしい。名前自体はそこで出されたものの、あまりにも殺意にしては原因の向く方向がおかしいのではないか。
確かに、助けられた後もう一度いじめられたらもう一度助けてほしいと考えるのは自然だ。だからって、助けに来なかったから一番最初に助けてもらったヤツだけを恨むのだろうか?
「な、何を言っているの?私は貴女を殺したい一心よ」
「殺すのなら、いじめたヤツらの方じゃないかしら?」
「そ、そ、そんなことない!貴女は私の心を裏切った!」
声も震えている。やはり無理していたのだろうか。
でもなぜ、今までは真面目に攻撃できていたのだろうか。そこも気になるが、今は彼女の弱点を突いていくときだ。
「裏切ったのはさっきから言っているけど、申し訳ないわ。でも、全員を助けることは不可能だってわかるわよね」
「そうだけど!でも、私は貴女を憎まないと!」
「憎まないと……?どういう意味?」
「だって、だって……」
彼女は一気にくずおれてしまった。その動作はまるで子供のようであり、涙目になっている。
「だって、貴女を憎まないと私は、自分自身を憎まないといけないじゃない……いじめるやつなんてそこらから延々と出てくる。でも、私が弱いから……」
支離滅裂になりかけている言葉だが、なんとか意味は汲み取れた。
いじめが再発したことで、自分の弱さを彼女は悟ってしまったのだろう。だけど、自分のことは憎みたくない、弱いと思いたくなかった。だから私のことを憎んだふりをして、いじめられている自分を正当化していたのだろう。
「言いたいことはわかったわ。それなら一つ言えることが有るわ」
「……何。私が弱いから、自業自得の逆恨みとでも?」
「いいえ。──────何に怯えているの、貴女は強いわよ」
「ッ」
「いじめられていた過去にとらわれるのはやめなさい、前を向いて歩いていける力が貴女にはあるのよ」
私はそう、笑いかけながら肩に手をおいた。ポンというその優しい感覚に、女性……いや、少女は心を砕かれたのだろう。泣き叫んで、蹲ってしまったのだった。
「ふふ、しょうがないわね」
「うわああああああああああああっ……っ」
しばらくして、彼女は泣き止んだ。
彼女は強いと肯定されたかった、というよりかは生きられるよ、いじめられないよ、と未来を保証されたかったのだろう。
「あの、その……ありがとう。あと、ごめんなさい」
「いいのよ、仕方のないことだったし。結局、私を狙っていたのは貴女だけなのね」
「いや、それは……」
彼女が何かを口走ろうとしたその瞬間だった。
天空から光線が勢いよく飛んできて、彼女の身体を覆い尽くしたのだった。
「はっ?」
「何、これ……?」
「大丈夫?」
「ギャアアアアアアアアアアアッ!いたい、痛い!?」
「ちょっと!なによこれ!」
タイミングがあまりにも良すぎる。彼女が何かを言う事を恐れた……つまりは口封じのためだろうか。
彼女を包む光はだんだん強くなっていき、シルエットも膨らんでいく。まるで、繭が割れて蝶になるように。
私は怒り、そして覚悟を思い出した。誰も殺さないという覚悟を。ミクリに会って恥ずかしくないようにするという覚悟を。
「今助けてあげるわ。ルカバ」
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ハーレム作るのも大変です! 新切 有鰤 @nigiriaburi
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