南の泉へ行ってみよう! 9 終

 そんな感じで、ようやくシュワシュワの湖に到着した。

 ここまで長かったよね~。

 もう早くシュワシュワの水を汲んで帰ろうよ!

 シュワシュワの泉は大きな岩石の割れ目からあふれ出していた。

 流れ出る水が下の窪みにたまって泉になっているんだね。

 強炭酸の水だけあって、たまった水がパチパチしているよ。

 時間とともに気が抜けて普通の水になるのかな?


 ミディ部隊が早速岩の割れ目から直接シュワシュワの水を採取している。

 大量に湧き出しているわけではないから、これは時間がかかりそうだね。

 父様たちが周囲を警戒する中、僕はカップを取り出して泉の水を汲んでみた。

 よくよく見れば、泉の岩底からも細かい泡が湧きでいているようだ。

 カップの中でも炭酸の泡が弾けている。

 浄化魔法をかけて飲んでみれば、微炭酸くらいになっていたよ。

 僕を真似て精霊さんたちも水を汲んて、カップを僕に差し出してくるので、みんなのカップにも浄化魔法をかけてあげた。

 交代で父様たちもやってきたので同じようにする。

 なんだか僕は人間浄化石だね……。


「これはこれで、うまいッスね」

「だな。爽快な喉越しだぜ。これがエールだったらなおいいけどな!」

 ルイスとイザークがそんなことを話していた。

「屋敷に帰ったらな!」

 父様が笑っていたよ。


 シュワシュワの水をたっぷり採取し終わると、メエメエさんは泉の側に浄化石を置いていた。

「さっきの魔物がまだ近くにいるかもしれませんからね。シュワシュワの水が汚されないように置いていきます」

「浄化された水って、魔物は飲めるのかな?」

 素朴な疑問だよね。

「魔物は嫌がるでしょうが、動物たちにとっては聖域になるのでは?」

「こんな場所にも野生動物っているの?」

「渡り鳥は来るかもしれませんよ?」

 僕とメエメエさんは首をかしげた。

 炭酸水を飲む渡り鳥って、アウルさんかハッシーさんしか思い浮かばないかも?



 こうして長い一日を終えて帰路につく。

 転移門の拠点石までは、やっぱり直線距離で三十メーテだったよ!

 しかも要所に結界石が置かれているから、安全にここまで来れたんじゃん!

「僕はもうここに来ないからね!」

 ソラタンの上で力いっぱい宣言すると、父様たちは苦笑していた。


「ああそうだな。だが後半は魔物の血を見ても気絶しなかったから、ハクにとっても実りがあっただろう? 魔物と直接戦わなくてもいいが、どんなときも周りの状況を冷静に見る力を養うんだ。場合によっては、自分より弱い者を逃がす手段を考えなければいけない」

 なんだか真面目なことを言われた。

 僕も成人していつまでも守られる立場ではないってことなの?


 そのときふと、リオル兄の言葉が蘇った。

 将来ルーク村を守るのは、リオル兄とキースだけになるかもしれないから、力をつけるためにダンジョンに潜りたいって、言っていたよね……。

 僕もいつまでも守られる立場では駄目なんだよね?

 我が家では僕が最弱だけど、村人を守らないといけない事態が起こったとき、僕は慌てずに対応できるかな?

 少なくとも気絶して足手まといになることは避けなければいけないよね。


 僕は顔を上げて父様を見つめた。

「僕は魔物や人と戦うことはできないけど、邪魔にならないようにします! もしものときは、種火魔法で火の雨を降らせるよ!!!」

「森や人里ではやめてくれ!」

 間髪入れずに拒否された。

 えぇ~?

 僕の攻撃手段はそれだけなのに。

 父様が真剣な顔で首を振るっていた。


 従士たちは「火種で火の雨? 剛毅だなぁ」と笑っていたよ。

 僕の火種魔法を見ていないから、そんなふうに笑うんだよ!


 僕が口を尖らせていると、背中に貼りついていたメエメエさんが肩口に顔を出して叫んだ。

「ご安心ください! 今日の経験で攻撃魔道具の必要性を実感しました! ハク様には飛び道具が不可欠です!! ラビラビさんと開発して、手札を増やしまッス!?」

 メッチャ燃えていた。

 今日のメエメエさんはちょっと災難があったから、いろいろ思うところがあったのかもしれない。


「ちょっとじゃありませんよ! 感電チリチリはシャレになりません! もしもそれが人間だったらと考えてください!! 即死案件です!?」

「それは駄目だよ!」

 人間に感電させたら大変だよ!

 ゴム製品を装備させなくっちゃ!!

 僕の内心を読み取ったメエメエさんが、ジト目で見つめていた。

「ゴムで解決しようなんて安直ですね。雷撃のエネルギー次第では、そんなものは紙と同じですよ!」

 裏手ツッコミをされた。

 えぇ?


「まぁ、なんだ。手札が多いほうがいいのは確かだ。我々も今回刃が立たなかった魔物に対抗する手段を、真剣に考えなければいけない。まだまだ大森林には未知の魔物が潜んでいるからな!」

 父様は従士たちを見回して告げた。

 ヒューゴたちも真剣な顔でうなずいていたよ。

 黒赤大蛇と黒羊の魔物には刃物が通用しなったかったもんね。


 クロちゃんシロちゃんも自慢の牙と爪が効かなかったことを、不満そうにしていた。

「もっと修業するニャ!」

「そうニャ!!」

 二匹は宣言していた。

 どこでなんの修業をするのよ?

「ハクの騎獣なんかしていられないニャ!」

 シロちゃんにフラれた僕はしょんぼりした。


「まぁ、名づけをおこなってパワーアップした、ソラタンを騎獣代わりにしたらいいですよ」

 メエメエさんがつぶやくと、ソラタンが小さく波打ち反応している。

 まぁ、ソラタンの上にいれば、清浄な結界に守られるから安全なのは確かだよね。

 振り落とされそうになることもないし。

 ソラタンがスピードを出しても、風圧を感じないんだよね。

 実はソラタンのほうが揺れないし、安定感があって便利かも……。

 なんてことを考えていたら、シロちゃんがジト目で僕を見ていた。

 ああは言ったものの、お役御免されると不満なんだね。

 何げに手のかかるシロちゃんだよ!


「じゃあこうしよう! 日常の移動はマシロちゃんで、非日常の移動はシロちゃんね! そしてシロちゃんが戦うときや、逃げるときはソラタンだよ! シロちゃんもソラタンもよろしくね!!」

 満面の笑みで告げると、シロちゃんは満足そうにうなずいていた。

 ソラタンも緩やかに波打っている。


「坊ちゃんもいろいろ気を使いますね」

 ヒューゴたちが僕らのやり取りを見て笑っていた。


「さぁ、屋敷に戻ろうか? 今日は好きなだけ酒を飲んでいいぞ!」

「じゃぁ、僕から温泉の入湯チケットをあげるね。お食事券もどうぞ」

 父様が従士たちに声をかけ、僕がチケットを配ると、彼らは手を叩いて喜んでいた。

 ちょうど良いタイミングでラビラビさんが転移門を開いてくれたので、僕らは連れ立って温泉に向かう。

 今日は一日お疲れさま。


 水浴びが嫌いなニャンコズやソラタンには、浄化魔御法をかけておいたよ。

 ソラタンはハンカチサイズになって畳まれ、ニイニイちゃんとは反対のポケットに勝手に収まっていた。

 あれ?

「このブーツはただのブーツになったのかな?」

 ふと疑問に思ってメエメエさんに聞いてみれば、呆れたようにため息をついていた。

「それって初期のブーツですよね? 大きくなってからプレゼントしたブーツもありますよね? そっちに履き替えてください!」

 メエメエさんはそう言うんだけど、今履いているブーツはコロンとしたデザインがかわいいんだよね。

 あとからもらったブーツはカッコイイ系のデザインで、マーサが常にこっちを用意するのよ。

 シャツも丸襟だし、膝下ズボンも裾にお花の刺繍が施されているでしょう?

 ハイソックスもかわいいデザインだよね。


「メエメエさんからマーサに伝えてくれる?」

「そのブーツに新装備をつけます! しばらくお預かりするので、普通のかわいい靴を履いてください!!」

 メエメエさんは即答していた。


 ほら、メエメエさんでもマーサには逆らえないでしょう?

 マーサとバートンは最強だからね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年7月10日 20:00

見守り人の独り言~植物魔法・番外編~ さいき @mitsuru-319

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ