南の泉へ行ってみよう! 8
「さぁ、出発するぞ!」
父様の号令で、僕の思考は中断した。
今はこっちに集中しなくちゃね。
そのあともあちこちを歩いて、何度か魔物と遭遇し、戦闘を繰り返した。
幸いあの大蛇とは会うことがなかったのでよかったよ。
それでも八メーテ級の魔熊やら、三メーテの大鬼に出会ってビックリした!
父様たちも八メーテ級の魔熊にはド肝を抜かれていたようだ。
「何を食ったらああなるんだよ!」
「こっちの森のほうが、餌が豊富なんじゃないのか?」
「さっきの大蛇だって尋常じゃねえよな?」
「そう言われてみれば、全体的にこっちの森の魔物は凶悪な感じがするな?」
うん。
僕もそう思ったよ。
ここはルーク村より南西の大森林の中で、当然北とは環境が違うから、野生動物や植物の種類が違っても不思議じゃない。
けれど、八メーテ級の魔熊はちょっと異常だろうと、父様たちが話しているんだよね。
ジジ様とアル様たちが以前こっちに来たときには、超大型化した魔物の話はしていなかったんだ。
あれから数年経って、何かが変わったのだろうか?
メエメエさんも腕を組んで考え込んでいた。
「森の魔素が濃くなっているのか、あるいは何か別の要因が合って魔物が大型化しているのか……。いずれにしても、必ずそこに大きな力が作用しているはずです。ハク様のマッピングスキルで魔力濃度まで感知できればいいのですが……」
う~ん。
僕のマッピングスキルの精度では、敵・味方・素材・地形くらいしか把握できないよね。
ミディちゃんたちが上空から、この辺の地形を調査してくれているけれど、温湿度や魔素濃度を測れるわけじゃないもの。
それはまた別のスキルが必要なんだと思う。
ちなみに大鬼はオーガとは違ったよ。
なんか大きな顔の赤鬼と青鬼が、大きな棍棒を持って襲いかかってきたんだよね。
なんだかジャポン昔話に出てくる鬼さんみたい?
聞けばオーガよりは小さくて、群れで行動する鬼種なんだって。
オーガは筋肉隆々の巨体で、大鬼の倍の体格をしているんだってさ。
「オーガと大鬼では格が違うからな。オーガに合ったら一対一では対抗できない」
父様が苦しそうに顔を歪めていた。
「大鬼はかわいいものです」
ヒューゴたちも口元を引き結んでいた。
かつてルーク村を襲った、オーガの群れを思い出したのかもしれない。
ようやく僕らはシュワシュワの泉の周辺に到着した。
この辺りは湧水が多いみたいで、ところどころに小さな泉ができていた。
ここからスウォレム山脈に向かえば、水源が見つかるかもしれないね。
きっとそこはもっと危険なんだと思う。
ここ数年でラドクリフ領周辺の大森林からは、凶暴な魔物が減ってきたけれど、そうでない地域ではまだまだ危険な森が広がっているんだ。
ふと気になって視線を走らせると、木々のあいだから見える水場で、何かが水を飲んでいるようだった。
父様たちもミディ部隊も、ピタリと静止した。
僕は木々のあいだに見え隠れするものを見つめた。
ようやくその輪郭が認識できたとき、それはこっちを見たんだ。
真っ黒なモフ毛と大きな巻角を持った、巨大羊の魔物だった!!
なんか体と角のバランスが合っていない気がする。
「父様! メエメエさんの親戚がいるよ!」
思わず叫んだ僕の後頭部に、メエメエさんの蹄スタンプが炸裂した!
あうち!
ニャンコズが猛スピードで黒羊めがけて突進していく!
黒羊の魔物は襲いかかるニャンコズを大きな巻角を左右に振るって、吹き飛ばしていた!
「生意気ニャ!」
ニャンコズは巨木を蹴って反転し、再び黒羊に迫るも、自慢の爪も牙もモフ毛に刺さらない!
「こいつモフモフニャ!」
二匹は怒っていた!!
羊だから仕方がないよ!
「黒羊の魔物なんて、初めて見たぞ」
父様は驚きながらも剣を握って構えている。
黒羊の魔物は、今度はこちらに角を向けて突進してくる!
闘牛のようなスピードと迫力があった。
種族間違ってない!?
「メエメエさん、なんとかできないの!?」
「何か勘違いしているようですが、あちらは魔物で、私は清らかな闇精霊です!」
メエメエさんが胸を張って言い切った。
清らかって、……えぇ?
自己評価高過ぎじゃない??
見つめ合う僕とメエメエさん。
グリちゃんたちは無言で僕とメエメエさんを凝視していた。
「メエエェェェ~~ッ!!」
羊の魔物の雄叫びに驚いて視線を向けると、ヒューゴの戦斧をその大きな巻角で軽々と阻んでいたんだ!
巻角のカーブに沿って戦斧が火花を散らして滑る!
ヒューゴはすれ違いざまに回転して、今度は真上から首めがけて戦斧を振り下ろした!
しかし首を覆うモフモフに阻まれて、逆に戦斧が弾かれてしまった!!
「ああ! 僕もメエメエさんにチョップを返されたことがあるよ! 同じ技だよねッ!!」
思わず叫んだ声に、イザークとルイスが反応して笑い、メエメエさんが僕に飛びかかってきた!
やめて!
ヒューゴと比べると黒羊の魔物はかなり大きい。
ざっと体長五メーテはあるだろうか?
おそらく毛の部分が多いはずで、実際どれくらいの羊毛が採取できるのだろう?
なんか気になる~!
そのあいだにも、父様とケビンが黒羊に攻撃を仕掛ける。
巻角を回避して、側面に攻撃を仕掛けるも、モフモフの弾力に跳ね返されていた。
黒赤大蛇のときと同じで、刃が立たないようだ。
「さすがは黒羊! 一筋縄ではいかないな!」
ケビンが叫びながらも、何度も剣を振るっていた。
日ごろの恨みを晴らしているのかな?
妙な気迫を感じるよ!
僕の横でメエメエさんは「ぐぬぬぬぬ」と呻いていた。
そしてソラタンから飛び上がって叫んだんだ!
「おのれ! 私が悪いように言われるのは納得いきません! こうなったら、ヤミ闇パワーでドボンでホイッ!?」
メエメエさんが変な呪文を唱えると、黒羊の魔物の足元に暗黒が広がって、魔物の足が沈み込んだ!
「今です、イザークさん! 脳天に天誅をお見舞いしてやるのです!? 高貴な黒羊を穢した魔物め! 天誅デッス!!!」
怒り心頭のメエメエさんが、蹄を突きつけてイザークに指示を出していた。
なんか偉そうだね!
そんなメエメエさんには目もくれず、チャンスを狙っていたイザークが刹那に矢を放つ!
『必ず当たる矢』は、今度はしっかり黒羊の魔物の眉間にめり込んだ!!
黒羊の魔物は暗黒の闇に足を取られたまま、その場にドウッ! と倒れ伏した!
「よっしゃ! お見事さん!」
ケビンが黒羊の魔物に近づいて確認し、マジックバッグに収納していた。
僕と精霊さんたちは拍手喝采でイザークを称えたよ!
メエメエさんは踏ん反り返って、フンスと鼻を鳴らしていたけど。
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