第4話 告白も同居を迫られるのもわけわかんない

 くすくすと笑いながら返事をされ、遥の頬が染まる。その頬を宇宙がするりと指でなぞった後、ぴん、とその指で彼女の額をデコピンした。


「いったーい! 何すんの!!」

「ふふ、だって遥ちゃんってばすごい呆けた顔してるんだもの」


「だからつい、ね」そう言って笑う宇宙は、確かに引っ越していった幼馴染の面影があって。確かに戻ってきたのだ、と遥は思った。




 春が来て伸びに伸びる雑草。道端のたんぽぽ。青い空には飛行機雲が今まさに飛行機から尾を引いて出来上がっていっている。

 その中を二人は、宇宙を先頭に間を置いて遥が歩き、少しの間黙って進んでいた。


「ほんと、久しぶりだね」


 先に話しはじめたのは宇宙だった。


「うん。幼稚園ぶりだもんね」


 遥は道端の草を引っこ抜きながら応える。


「ねぇ、なんで後ろ歩いてるの?」

「えっ?!」


 宇宙は歩みを止め、遥に向き直って歩き近づくと彼女の両手を取り詰め寄った。二人の顔が近づく。遥の手から草が落ちる。まつ毛一本一本が見えるくらいになって。


「ぅ、あああああー!!」


 遥は顔を真っ赤にしながら両手を万歳の形にして宇宙の手を振り払うと、脇をすり抜け脱兎の如く逃げ帰る。


「……かわいいなぁ、遥ちゃんは相変わらず」


 宇宙のつぶやきは、柔らかな空へと溶けていった。




「び、びっくりしたぁ」


 飛び帰ってバタンと閉め帰ってきた部屋のドアを背に、ズルズルと遥は床にへたり込んでしまった。

 頬が熱いような気がして、両手で包み込む。


(ソラ、なんだか格好良くなってた……まつ毛とかばしばしだし)


「お帰り」

「ひゃぁ! もう、驚かさないでよ」


 そんな彼女に、いつの間にいたのか狐の神様が声をかけてきた。


「何かあったのか?」

「何かも何もないし!」

「てか、なんでまだいるわけ」


 あっちもこっちも心臓に悪い気がして、うんざりしながら目の前の存在に尋ねた。そう、狐の神様といかいう。消えたから、もう用事は済んで元の住処に帰ったと遥は思っていたのだが。

 彼女の疑問に、神様は答える。


「なんだか、居心地が良くてな。しばらく厄介になる」

「嫌だやめてよ、貸せる部屋ないし」

「一緒で良い」

「あたしが嫌だ、だって男の人でしょ?」

「ならば獣の姿になれば良い。そなたの側はなぜか気持ちが良いのだ」

「そんなまたたびみたいな理由で……」


 遥は呆れ返った。けど神様はそんな様子を気にするでもなく畳み掛けてくる。


「もふもふできるぞ?」


ピンポーン。


そこにチャイムの音がなった。


「遙ー? ちょっと母さん手が離せないから、出てくれない?」

「はーい」


間が悪いなと思いつつも、来客が優先だ。


「……その話は後でする」


遥は話の中断を狐の神様に告げると、階下にりてモニターを見た。


「え?!」


そこに映った人物に驚いて、慌てて玄関を開ける。


「ソラどうしたの?」

「うん、引っ越しの挨拶をしとこうと思って? 今日からお隣だから、よろしく」

「へ?」


そういえば、ソラが前に暮らしてた右隣じゃなくて左隣が、最近引っ越していったっけ。そんなことを思いながらぼうっとしていると、不意に遥の左隣のほっぺに「ちゅ」というリップ音が響いた。


「なっ!?」

「好きだよ、遥ちゃん。幼稚園の時から。また会えたら絶対言おうと思ってた」

「す、すすすすすっ」

「明日からガンガン好きって伝えてくから、よろしくね」


じゃあまた明日、と宇宙は手を振りながら左隣へ帰っていく。遥は、左頬を手で押さえたまま、しばらくその場から動けないでいた。




 数分後、ギクシャクとしながらも玄関のドアを開け、ふらふらとしながらも部屋へと入った彼女は、考えのまとまらないまま自分のベッドに腰掛けた。

 混乱した気持ちのまま、結局、遥は自分のペットを飼ってみたかった欲望と、神様の押しの強さに負けた。

 聞けばご飯はちょっとしたお供えで大丈夫らしいし、多分そんなにずっとという感じもなんとなくしなかったから、まぁいいか、と自分を情けなく思いつつも納得させて。

 そうして奇妙な自称狐の神様と遥の同居は、開始されたのだった。

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私を好きなおキツネさま 三屋城衣智子 @katsuji-ichiko

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