中二病のストーカーが現れました。


 ルカが外せない用事(懇意こんいにしているコウモリたちとの会合)があるだとかで、一人きりで帰宅する事になった日のこと。ハルトと共に帰宅する最中、不意に彼に手を引かれたかと思うと全速力で駆け出した。


「せっ、先輩!?」

「このノロマっ! つべこべ言わず走れ!」

「まっ、待って下さいっ」

「あの店に入るぞ!」


 2人は紅音行きつけのスーパーに駆け込む。


いた、か?」

「あの⋯⋯」

「よし、裏口から出るぞ」


 ハルトは周囲をうかがいながらそう言うと、再び紅音の手を取った。


(何だか今日の先輩はいつもよりおかしい⋯⋯)


 手を引かれるまま歩いていると背後に気配を感じる。


「何故逃げる?」

「ぎゃっ!」


 蛙が潰れたような声を上げて後ろを振り返ると見知らぬ男が立っていた。


「チッ、相変わらず粘着質なヤローだな」

「運命とは容易に引き裂けぬもの。たとえ立ちはだかるのが我が血族だとしても容赦ようしゃしない」

「⋯⋯ハルト先輩のお知り合いの方ですか?」


 尋ねながら目の前の男を見やる。

 ふわふわと風になびく絹のような銀髪に、左右で異なった色合いの瞳の男は息を呑むほどに美しい顔立ちをしていた。そして、如月学園の制服を着ている。


(この人どこかで会った気がする⋯⋯でもこんなインパクトのある人一度会ったら忘れられないよ)


 紅音は男の顔に妙な既視感を覚えたが、あと少しの所で思い出せなかった。



「⋯⋯そうか。言葉を交わすのは初めてだったな。俺の名は夜永チカゲ——お前の運命の花婿だ」


 チカゲと名乗る男は紅音の手を取ると、チュッと音を立てて口付けを落とす。


「!?」

「クソッ離せ!」


 突然の事に固まる紅音の手をチカゲから奪い取ったハルトは制服のすそでゴシゴシと乱雑に拭った。


「痛ッ! ていうか夜永って!?」


 痛みで我に返った紅音は不機嫌なハルトに尋ねる。


「⋯⋯不本意だがコイツはオレの双子の兄貴だ」


 舌打ちをすると心底忌々いまいましそうにそう呟いた。


(つくづく変わり者な兄弟だわ⋯⋯)


 などと思った紅音だったが、命惜しさに口にはしなかった。本性を表してからというもの、誰よりも態度のデカいハルトが末っ子な事にも驚きを隠せなかったが、その事についても触れない事にする。




「内気だった俺に光を与えてくれたのがこの蔵書——堕天使ルシフェル黙示録アポカリプスとの出会いだったのだ。お前も読んでみると良い」


 お近付きの印だと言って見せてくれたのは愛読書だという中二病全開の本。黒い革表紙に十字架にはりつけにされた天使が描かれており、見るからに怪しい代物だった。



✳︎



「そうだ、我が花嫁に此れを渡すため声を掛けたのだ」


 チカゲは思い出したように制服の上着ポケットをまさぐると、そこから銀色に光る十字架を取り出す。

 紅音を真っ直ぐに見つめる赤と青の左右非対称の瞳から目が離せなかった。


「この聖なる十字架クロスが悪しき魔物からお前を守護してくれるだろう」

「は、はあ⋯⋯」


 強引に押し切られる形でそれを受け取った紅音だが、吸血鬼と十字架という何ともミスマッチな組み合わせに困惑を隠せないでいた。すると、ハルトが横から話に割って入って来る。


「オレたち若い吸血鬼には一般的に吸血鬼が苦手とされてる十字架や聖水、ニンニク諸々は効かねえ。だが、アイツは違う」

「? ルカだって私よりちょっと歳上に見えるけど十分若いじゃない」


 紅音は言葉の意味が理解出来ずに首を傾げる。すると、今度はチカゲが口を挟んで来た。


「見た目に惑わされるな。兄上はあれでも既に千年以上の刻を生きているのだ」

「せっ、千年!?」

「フン、だからアイツはジジイなんだよ」



 紅音が衝撃を受けていると、不意にチカゲが苦しそうにうめき声を上げた。


「くっ⋯⋯右目がうずく⋯⋯これが呪われた血脈の代償だと言うのか!」


 チカゲは右目を押さえると、その場にうずくまる。いきなりの事に驚いた紅音が駆け寄ろうとすると、ハルトがそれを静止するように腕を掴んだ。


「騙されんな。コイツは偶に思い出したように右目が疼くんだとよ。要はセッテイだ、設定!」

「⋯⋯本当何なのよ、吸血鬼って」


 脱力した紅音の口からはそんなボヤきが口をついて出た。




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😈【完結】あまあま吸血鬼とおうちごはん🍴✨〜吸血を回避するために手料理を振る舞っていたら、いつの間にか吸血鬼たちに溺愛されていました!?〜 みやこ。@コンテスト3作通過🙇‍♀️ @miya_koo

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