第108話 ヤクモ参戦!
「シルフィールさん!」
僕はシルフィールに駆け寄った。
「ヤクモっ! あなたもエクニス高原に来てたの?」
シルフィールは濃い緑色の目を丸くする。
「はい。キナコたちもいます!」
そう答えながら、宙に浮いている生きている剣を見つめる。
通常の紙の一万倍の重さがある『重魔紙』が何枚も張りついているのに、まだ宙に浮かぶことができるか。
それなら――。
僕は生きている剣の周囲に新たな重魔紙を出現させる。その紙が次々と生きている剣に張りついた。
生きている剣の動きが鈍り、ゆっくりと下降していく。
「シルフィールさん!」
「わかってるからっ! 『風神斬空』!」
シルフィールは双頭光王を投げた。
双頭光王はくるくると高速で回転しながら、生きている剣に当たった。
生きている剣の刃が欠け、地面に落ちる。シルフィールは戻ってきた双頭光王を掴み、浮き上がろうとしている生きている剣に駆け寄った。
「遅いっ!」
シルフィールは双頭光王を強く突きだした。黄白色の刃の先端が生きている剣の眼球に突き刺さる。
眼球から青紫色の血が噴き出し、生きている剣の刃に無数のひびが入る。
「ヒィイイイイ!」
女の悲鳴のような声とともに生きている剣が粉々に砕けた。
「シルフィールさん。キナコがゼルディアと戦ってます!」
「わかった。私たちも行くわよ!」
僕はシルフィールといっしょに走り出す。
「ヤクモ。さっきの紙は何?」
「あれは重力系の魔法の効果がある重魔紙です。粘着性があって、普通の紙の一万倍の重さがあります」
「それで生きている剣の動きが鈍くなったわけね」
シルフィールが走りながら僕を見る。
「ほんと、あなたの能力はとんでもないわね。見た目は弱い新人冒険者だけど」
「それなら、シルフィールさんのほうが見た目とのギャップは大きいと思いますよ。見た目はきれいな女の子なのに、圧倒的な強さだから」
「き、きれい……」
月夜に照らされたシルフィールの顔の色が変化した。
足を止めて、僕の顔を凝視する。
「シルフィールさん?」
「……あっ、うっ!」
シルフィールはもごもごと口を動かしながら走り出した。
「……ヤクモっ! これからは私と喋る時は敬語でなくていいから。名前もさんづけにしなくていいわ」
「えっ? 呼び捨てですか?」
「そうよ。普通に話して」
「でも、シルフィールさんは十二英雄だし、話す時はさんづけにしたほうが……」
「シルフィールっ!」
シルフィールが僕をにらみつける。
「わ、わかったよ。シルフィール」
「そう。それでいいの」
シルフィールは満足げに小さな唇を笑みの形にした。
視線の先にキナコと戦っているゼルディアが見えた。
「ヤクモっ! 先に行くから」
シルフィールが一気にスピードを上げて、側面からゼルディアに突っ込んだ。
「むっ……お前っ!」
ゼルディアは驚いた顔でシルフィールの攻撃を避ける。
「生きている剣を壊したのか?」
「そういうこと」
シルフィールは双頭光王を連続で突く。
その動きに合わせて、キナコが前に出る。
二人の同時攻撃にゼルディアの唇が歪んだ。
「調子に乗るなっ!」
ゼルディアの背中から、八本の黒い触手が這い出てきた。
触手は黒く先端が鋭く尖っている。その触手が別の生物のようにキナコとシルフィールを襲う。
キナコは大きく上半身をそらしながら、伸びた爪で触手を斬ろうとした。しかし、触手の皮膚は金属のように硬く、爪で斬ることはできなかった。
ヘビのように動く触手の攻撃に、キナコとシルフィールはゼルディアから距離を取る。
「ならば……」
ゼルディアは素早く呪文を唱えた。
夜空に巨大な紫色の魔法陣が出現する。
「お前たち、全員まとめて燃やしてやろう」
その時、紫色の魔法陣の上にさらに巨大な魔法陣が現れた。青白く輝く魔法陣が紫色の魔法陣と重なり合い、同時に砕けた。
視線を動かすと、アルミーネが空に向かって、手をかざしているのが見えた。
アルミーネがゼルディアの魔法陣を消してくれたんだな。
「ゼルディアっ! 命をもらうのだーっ!」
狂戦士モードになったピルンがゼルディアに突っ込んだ。
ピルンは巨大化したマジカルハンマーを振る。ゼルディアは両手の甲の宝石でピルンの攻撃を受けながら、八本の触手でキナコとシルフィールの攻撃に対応する。
今がチャンスだ!
僕は背後からゼルディアに駆け寄り、魔喰いの短剣に魔力を注ぎ込む。青白い刃が一メートル以上伸びた。
一本の触手が僕の接近に気づいた。
獲物に飛び掛かるヘビのように細長い胴体を伸ばし、僕の顔面に迫る。僕は上半身をひねりながら、魔喰いの短剣を斜めに振り上げた。触手の頭部が斬れ、青紫色の血が噴き出す。
「むっ……」
ゼルディアが振り返り、赤い爪を振り下ろす。僕は強化した紙を具現化した。その紙が赤い爪の攻撃を防ぐ。
僕は魔喰いの短剣を真横に振る。ゼルディアは左足を引いて、その攻撃をかわそうとした。
その動きに合わせて、魔喰いの短剣に魔力を注ぐ。刃がさらに十センチ以上伸び、その先端がゼルディアの腹部を斬った。
「ぐっ……」
ゼルディアの表情が歪む。
「勝機っ!」
キナコが高くジャンプして、体をくるくると回転させる。
「『肉球回転掌』!」
キナコの肉球がゼルディアの角を折った。ぐらりとゼルディアの体が傾く。
そこにシルフィールが突っ込んだ。
「『神撃月虹』!」
双頭光王の刃が七色に輝き、ゼルディアの胸を貫いた。
「ぐあっ……」
ゼルディアは苦悶の表情を浮かべて、後ずさりする。
キナコとシルフィールが左右からゼルディアに駆け寄る。
「舐めるなっ!」
ゼルディアは七本の触手で二人を牽制しながら、呪文を唱える。胸に開いた穴が塞がり始める。
シルフィールの必殺技でも倒せないのか。ダグルードはあの技で倒せたのに。
でも、確実にダメージは与えている。完全に回復する前に倒す!
◇ ◇ ◇ お知らせ ◇ ◇ ◇
2024年12月27日、この小説のコミカライズ2巻が発売されます。
「雑魚スキル」と追放された紙使い、真の力が覚醒し世界最強に ~世界で僕だけユニークスキルを2つ持ってたので真の仲間と成り上がる~ 2
現在活躍しているシルフィールが表紙にいます。
ぜひ、読んでみてください。
よろしくお願いします。
漫画 藤光セキロ
原作 桑野和明
ISBN:9784575420487
◇ ◇ ◇
また、カクヨムコン10に参加中の新作異世界ファンタジー(コミカル)
も執筆中。
ぜひ、こっちも読んでみてください。
無敵で最強だけど、十秒しか能力を使えない主人公、月見秋斗の物語です。
ヒロインには、Vチューバーもいて、配信系の要素もあります。
よろしくお願いします。
https://kakuyomu.jp/works/16818093089341064454
【書籍化】「雑魚スキル」と追放された紙使い、真の力が覚醒し世界最強に ~世界で僕だけユニークスキルを2つ持ってたので真の仲間と成り上がる~【コミカライズ】 桑野和明 @momodango
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