第20話 前衛基地へ

 この世界に来て25日目。

 俺は空を睨みながら、臨時の天馬騎士となった無人島の難民少女たちに、天馬母艦での飛び方について教えていた。

「まずは、俺の後についてくるだけでいい。くれぐれもはぐれるなよ!」

「はい!」


 俺の側には3人の少女たちが続き、その後ろには一角獣オスカーアライズが控えている。

 もし、強風やペガサスの気まぐれで背中から振り落とされても、オスカーの背には誰も乗っていないから助け出すことができるというわけだ。


 元々、彼女たちは天馬に乗りなれていることもあり、問題なく艦まで戻って来ることができた。

「では、着地の訓練をする……見本をやってみせるから見ていろ」


 俺は気を集中すると栗毛君に降下を指示し、いつも通りに天馬母艦へと降り立った。

 そして手を上げると、次の少女天馬騎士が着地の体勢へと入った。やはり飛び立つ時に比べ、彼女も緊張していることがわかる。


 少女たち3人は無事に着地をこなしたが、誰しもが難しい顔をしていた。

「やはり、着地するときが一番怖いですね」

「船自体が揺れているし、滑走路も一般的なものに比べて短いからな」



 無事に訓練を終えると、俺たちは天馬たちを納屋へと戻した。

『ところで、次の目的地にはどれくらいで到着するんだい?』

 栗毛君が聞いてきたので、俺はすぐに答えた。

「この調子で進むことができれば明後日の明朝くらいらしい」

『なるほど……』


 その後も、敵の天馬隊が攻撃を仕掛けてくることは無く、27日目の朝には王国軍の前線基地へと到着した。

 基地の周囲には天馬騎士も飛び交い、数隻の天馬母艦や、中型や小型の護衛艦が停泊している。

「よし、寄港するぞ!」



 間もなくミシェル号が寄港すると、傭兵としてのポニージャヴェックの仕事も終わり、俺は艦長室へと呼び出された。

「ポニージャヴェック君。今日まで艦を守るために戦ってくれてありがとう」


 そう言うと彼は、金貨がたっぷりと入った袋を差し出した。

「契約通り報奨金を出すよ。良ければこのまま……艦に残って仕事を続けてもらえると助かるんだが……」


 艦長の提案を聞いて俺は頷いた。

「では、お言葉に甘えさせていただきます。この艦ほどきちんとした待遇で迎えてくれる場所もありませんからね」

 思った通りの言葉を伝えると、艦長も嬉しそうに微笑んだ。

「そう言ってくれると百人力だ! 引き続き頼むよ……まずはそうだな。新米の天馬騎士たちの教育からお願いしよう」


 それも業務のうちだから、もちろんやるが……少し気になることもあった。

「ところで艦長?」

「なにかね?」

「この艦が運んでいるというクリスタル……その受け渡しはいつ頃に?」

「ああ、それならじきに搬送用の船が来るから、そこで受け渡せば我らの仕事は終わりだ」


 その話を聞いて俺は意外だと思った。

 てっきり、このまま天馬母艦ミシェル号で運んでいくものと思っていたのだが……?


「それは、上層部の指示ですか?」

「ああ、あまり大きな声では言えないが……この受け渡しの件は王国第2王子が直々に行われるとのことだ」


 その言葉を聞いた、俺の中のいるポニージャヴェックは、とても低い声である懸念を伝えてきたが、俺はあえて黙殺すべきと意見することにした。


 この船が運んできたのは、グリーンクリスタルというシロモノだ。

 王国は長年にわたって冷害と飢饉に苦しんでいるが、このグリーンクリスタルの力を使えば、傾きかけた王国の飢饉をなんとかできる……それほどの力を持ったマナを周囲に放つという。


 そして第2王子は、王家の跡取り候補から外れたという噂をポニーは聞いていた。

 普通なら、国王あたりが待ったをかけそうな話だが……ゴーサインが出ているというのはどういうことなのだろう。


 王宮内の難しい駆け引きは、俺にはよくわからないが……この一件は、また次の話ということになりそうだ。



 第1部……完


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元社畜オッサン、異世界でペガサスライダーになる。強敵も多いが生き残ってみせる  スィグ・トーネ @syg20230508

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