第19話 戦力の逐次投入
この世界に来て18日目。
俺は伏兵の仕事ではなく、無人島の空き地に設けた放牧エリアで栗毛君を休ませていた。
栗毛君は、他の天馬たちとじゃれ合いながら駆けまわって休日を楽しんでいたので、俺も木の幹にでも腰を下ろして、ゆっくりと休むことにした。
うたた寝をしていると、栗毛君は柵を飛び越えて俺の前に立って、肩をモショモショとくすぐってくる。
「うーん……何だ?」
『飽きた。遊んで~』
「俺は疲れてる。仲間と遊べばいいだろう」
そう言いながら寝返りをうつと、更に栗毛君はくすぐってきた。
『ヒマだよ~ 遊んで~』
「そっちに仲間はいくらでもいるだろう」
仕方ないなと思いながら、俺は起き上がった。
「俺とスキンシップを取ることなんて、船の上でもいくらでもできるだろう。それよりも……青菜をしっかりと食べた方がいい」
青菜と聞いて、栗毛君もハッとした顔をしていた。
『そうか……そう言えば、船の上だと保存のきくモノしか食べられないもんね!』
「そうそう。だから出港まで水兵たちも木の芽を食べたり、野草を食べたりしている」
そう提案すると、栗毛君は仲間のペガサスたちと共に青菜バイキングをはじめた。やはりウマは元気に走り回ったり、青菜を食んでいてなんぼのモノだと思う。
再び気持ちよく眠っていたら、栗毛君が寄ってきた。
「ん……今度はどうした?」
『敵の天馬騎士たちだよ! 数は9騎!』
「なに!?」
すぐに起き上がって栗毛君の視線を追うと、確かにかなり距離は離れてこそいるが、天馬騎士と思しき一団が空を飛んでいた。
その数は……彼の言っていた通り9騎いる。
「ここまで数が多いと……索敵というより強行偵察隊だな」
『どうする。僕たちも戦うべきかな?』
俺は少し考えると、首を横に振った。
「マティス隊長は、こうなることくらいは読んでいるはずだ。それで我々に待機を命じていると言うことは……何かしらの考えがあるのだろう」
栗毛君は頷いた。
『わかった。つまり僕たちは待機だね』
「ああ」
敵の天馬騎士が近づいてきたところで、オスカーアライズを中心に、騎士団長補佐や貴族階級でも腕利きの2人、更にはポールやマルタンなどの若手が一斉に襲い掛かって、敵の強行偵察隊に攻撃を仕掛けていた。
敵が9騎に対し、こちらは8騎だったが、こちら側にはオスカーという凄腕の一角天馬がいる。案の定、彼は1頭で敵を5騎も撃墜して強さを見せつけた。
「オスカーは凄いな。実質的にカラ馬だから追撃されたら一般の天馬騎士だと逃げきれない」
『そりゃそうだよね……僕たちだって逃げ切るのは難しいんじゃないかな?』
ちょうどオスカーアライズの妻である、一角獣アナスタシアが姿を見せた。
「おおアナスタシア……艦の修復の方は順調か?」
そう質問すると、彼女は落ち着いた微笑みを浮かべながら答えた。
『はい。船底の修復も終わりましたし……出港しようと思えばいつでもできる状態です』
その話を聞いて、俺や栗毛君は頷いた。
9騎もの強行偵察部隊が未帰還となれば、敵もこの島に我々がいると判断するころだろう。
大挙して押し寄せてきたときに、すでに島には誰もいないという状況を作りだせれば、敵の動きを遅らせることができる。
『かなりいい感じだね!』
栗毛君が言うと、俺も頷いた。
「ああ、もし……俺たちの行き先がバレたとしても、敵はこのやり取りで16もの天馬騎士を失っている。これだけの被害を受けているのだから……かなり部隊としての力は下がっているはずだ」
そんな話をしていたら、天馬隊長マティスが歩いてきた。
「ポニー君……今日中に艦を出航させたい。天馬や他の隊員たちを呼び戻してくれ」
「承知いたしました!」
こうして俺たちは、1時間以内に仲間たちを呼び戻すと、ミシェル号に乗り込んで無人島を後にした。
あまり夕方になると浅瀬に乗り上げる危険性があるので、迅速な行動ができてよかったと思う。
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