第18話 オスカーアライズの一手
この世界に来てから17日目の朝。
俺は相変わらず、クリステルやフロリアーヌと一緒に、森の中に隠れて敵の偵察隊の飛来を警戒していた。
「今日も……何事もなければいいですね」
フロリアーヌが言うと、俺はその通りだと思いながら頷いた。
「平穏無事が何よりもありがたいものだからな」
しかし、神様はそう何度も俺たちのわがままを許してくれる訳ではなかった。
17日の今日……遂に敵の偵察隊が姿を現した。その数は……前回よりも多い5騎だ。
「こちらよりも……数が多いですね」
「ああ、指示を出すまで動くなよ」
「はい」
俺たちは息を殺しながら、敵の偵察部隊の動向を監視した。
今の距離だと、我々が打って出ても対策もしやすいし、恐らく何騎かには逃げられてしまうだろう。
敵は今は、島の存在に気が付いたという程度だろう。だとしたら、島まで偵察隊を進めて我々がいないかどうか確認をしに来る可能性も十分にある。
「…………」
「…………」
「…………」
俺もクリステルもフロリアーヌも、黙ったまま空を睨んでいた。
もし攻撃を仕掛けるのなら、見極めが何よりも大事だ。敵がこちらの艦の存在に気付いて望遠鏡で確認しているタイミングがいい。
4人見張りがいるとはいえ、本心では艦の様子が気になるのが人情だし、我がポニー隊はちょうど真下から襲い掛かれる位置にいる。奇襲を仕掛けるのには絶好の場所なのだ。
敵の偵察部隊が近づいて来た。あともう一息だ。
俺がぐっと握りこぶしを作ると、フロリアーヌはゴクリと唾を呑んだ。
敵がそろそろ……真上にいく。視界にもミシェル号が見えるころだ。
声を出そうとしたとき、ガサガサと何かが駆ける音が聞こえてきた。何事かと思ったらテレパシーが伝わってくる。
――ここは私に任せてくれ!
そう言いながら飛び立ったのは、赤角の一角獣オスカーアライズだった。
オスカーは堂々と正面から敵天馬騎士たちに向かっていくと、敵は弓矢を構えてけん制した。
「なんだこの一角獣は!?」
『ここは我の縄張りだ……勝手に飛び回ることは許さん!』
敵の天馬騎士たちは一斉に長弓を放ったが、相手はあのオスカーアライズだ。
複数の炎球を放つと、矢を次々と撃ち落としていき、更に残った炎球が敵偵察部隊に命中していく。
「2騎撃墜……相変わらず凄いですね」
俺もクリステルに同意した。
「しかも、今のやり取りで敵の天馬が怯えた。見ろ……騎士が1人投げ出されている」
オスカーの奇襲によって、残った3騎のうち2騎のペガサスが怯えて逃げ出し、うち一人の騎士が空中に投げ出される被害を受けていた。
残された隊長もオスカーに襲い掛かったが、この判断は悪手だ。オスカーは軽く隊長の突き出した槍を角で切り払うと、すれ違いざまに顔面に蹴りを見舞って、隊長を天馬の背中から叩き出した。
天馬から投げ出された騎士たちは、重い甲冑を付けたまま水面へと墜ちた。これは……助からないだろう。
――これで逃げた騎士が、私の襲撃と伝えるだろう
オスカーのテレパシーを聞きながら、俺は機転の利く判断に唸った。
敵は無人島の存在を知らせるだろうが、襲われたのはあくまでオスカーただ1頭だ。リスクが高いとみて偵察自体を断念する可能性もある。
「なるほど……もし、味方の天馬や騎士を回収しに来たとしても、その部隊もそれほど大きな規模にはならない」
そう伝えると、オスカーは俺の側に降り立ってから笑った。
『その通りだ。大公国の母艦はお前たちを探しているのだろう。だとしたら、私1頭に対して全勢力を傾けるようなことはできない』
『僕たちの反撃を恐れているから……ということだね?』
栗毛君も言うと、オスカーは再び頷いた。
1時間後。
このやり取りを天馬隊長マティスに報告すると、彼はニヤッと笑いながら頷いた。
「なかなかの妙手だ。私がもし敵の立場だったら……とても嫌な1手だよ」
天馬補佐の騎士も頷いた。
「わかります。このパウロも、その状況だと判断に困るでしょう。なにせ部下7人を失ったうえに我らの存在も確認できていない……つまり、被害を受けている状況にもかかわらず、天馬隊を分割しなければいけなくなる」
俺は確かな手ごたえを感じていた。
さて、敵はどんな手を打ってくる……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます