第17話 せめてもの悪あがき

 敵の偵察部隊を撃墜し、地上へと降り立つと騎士団長補佐が駆け寄ってきた。

「こらポニー! 許可なく勝手に出撃する奴がいるか!」


 鉄拳制裁くらいは覚悟していたが、補佐の拳が飛び出すよりも前にマティス隊長が止めに入った。

「確かに、お前の言うことも一理あるが……落ち着け!」

「た、隊長……」


 マティス隊長は、俺をしっかりと見つめて言った。

「ポニー小隊長の判断は見事だ。あのまま敵の偵察部隊を帰せば、すぐに先日の大編隊を呼ばれていただろう。だが……勝手な行動は感心せん」


 降格だろうか。それとも天馬没収?

 どういう結果になろうと、俺は残った日数を生き残るだけだった。さて……隊長の判断は?

「ついさっき撃墜した3騎は撃墜数ノーカウント。厳重注意ということでどうだろう?」


 そう隊長から提案されると、補佐も少し渋い顔をしながら仕方なさそうに頷いた。

「下手に謹慎させたところで、敵襲でもあれば……代わりの天馬騎士もおりませんからな……」


 なんというか、実質的に不問に近い処分で済ませてくれたと感じていたら、貴族階級の天馬騎士たちの数名が、嫌な顔をしながら俺を睨んでいた。

 ついさっきの俺の行動を、スタンドプレーと感じたのだろう。


 天馬隊長補佐は、俺を見ると言った。

「とりあえず、栗毛君を温泉にでも案内して休ませてやれ。彼は乗り手の指示に従って手柄を立てたわけだからな」

「お心遣い、感謝いたします」


 俺が栗毛君の世話をしている間に、天馬隊長たちは次に偵察部隊が来た時にどのように対応すればいいのかを話し合っていた。

 偵察部隊が未帰還になったことで、敵は新たな偵察部隊を送ってくることは明白だ。恐らく5・6騎の天馬で、この空域を偵察しに来るだろう。


 栗毛君の手入れを終えたときには、艦長もいつの間にか話し合いに参加していた。

「その部隊を首尾よく全滅させたとしても、次の天馬隊が来るだろうな」

「しかし、時間を稼ぐことはできますし、偵察にはそれなりの腕のある乗り手を使います」

「私も隊長の仰る通りだと思います。我々がこの無人島に来てから数日間……偵察隊が来なかったことを考えると、敵はこの島の存在自体を知らない可能性も……」

「なるほど」


 話し合いも前向きに進んでいるのを見て、無茶をした甲斐があるというモノだと感じた。もし敵の偵察班を見逃していたら、今頃は敵襲に怯えなければならないところだった。

『敵……今日中に来るかな?』

 栗毛君が少し不安そうだったので、俺はすぐに疑問に答えることにした。

「今日はこの時間だからな。偵察班の帰還が遅れているだけと普通は考えるだろうから、次の班が差し向けられるのは明日以降だろう」


 そんなことを言いながら艦長たちに視線を向けてみると、艦長は少し考えてからちょっと的外れな意見を口にした。

「……こちらも偵察班を出して、敵の位置を探るべきだろうか?」

 天馬隊長が即答した。

「それはおやめください。偵察班が敵に見つかれば、近くに我々がいると敵に教えているようなことになります!」

「な、なるほど……」


 翌15日。

 天馬隊のメンバーは、複数の場所に分かれて上空を監視していたが、敵の偵察部隊は現れなかった。


 更に翌々日の16日目も同じだ。

 俺はクリステルとフロリアーヌと共に、天馬を隠した状態で森の中から監視をしていたが、敵天馬隊が偵察隊を送ってこない。

「敵……どうして仲間のことを探しに来ないのでしょう?」

 クリステルが不思議そうに聞いてきたので、俺は少し考えてから答えた。

「恐らくだが、偵察させていた範囲が広すぎて……この場所を絞り込むことに時間がかかっているのではないだろうか?」

「な、なるほど……偵察隊ではよくあることですね!」


 俺は頷くと、再び空を見上げた。

 できれば敵にはこのまま、この島の存在には気づかずに立ち去って欲しいものだ。そう祈っていたら、天に届いたのか……16日も敵の偵察隊が現れることなく、俺たちは翌日の17日を迎えることができた。


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