第16話 敵天馬騎士の偵察部隊
この世界に来て、ちょうど14日目になった朝。
俺はハンモックから降りると、大きく伸びをしながら大あくびをしていた。
あと352日か。まだまだ先は長くなりそうだが、最初の2週間を生き延びることができたのだから、なんとなくこのまま上手く行きそうな気もする。
「顔でも洗うか……」
ハンモックから降りて、沢の方にでも行こうと思ったとき、何やら人の気配を感じた。
水場にいるのは……難民の少女たちと天馬騎士のポールとマルタンじゃないか。
ポールは水桶を持って少女に微笑みかけていた。
「そんな……海の男こんなことをさせてしまって……」
「いやいや……ここってさ、野生動物とかもいるだろうから」
ポールたちは足場の安定する場所まで水桶を運ぶと、少女たちに手渡した。
「はい。ここまで来ればもう大丈夫だろう」
「ありがとうございます!」
少女たちが立ち去ると、俺はポールを茶化すことにした。
「なんだ、いいところあるじゃないかお前たち」
そう伝えると、2人とも驚いた顔で俺を見てきた。
「み、見てたんですか小隊長!?」
「顔でも洗おうかと思ったら、偶然見てしまった」
何とも微笑ましいやり取りだが、我々は天馬騎士だ。
いつ撃墜されて、その命を終えるのかわからない身なのだから、色恋ごとの一つや二つないと、精神的に持たないだろう。
顔を洗っていると、ポールはどこか心配そうな顔をしながら言った。
「隊長……」
「どうした?」
「天馬騎士だけでなく、艦に配属されている水兵もかなり少なくなっています。このままでは……難民の彼女たちからも天馬乗りを募集しなければならないのでは?」
俺は顔を布で拭うとポールを見た。
「そう都合よくはいかんだろう。誰だって乗れるほど天馬は……」
「彼女たちの中には、山育ちの者もいるそうです。立場が俺たちと同じなら……恐らく天馬にも……」
その話を聞いていくと、水面に映っていた俺の表情がみるみる険しくなっていくのがわかった。
「確かにそうなると……優先的に余ったペガサスに乗ってくれ。ということになりかねんな」
しかも、全てのペガサスに乗り手が揃ったとしても、せいぜい60騎といったところだ。前のように敵が大編隊を組んで襲来してきたら一方的にやられる危険性もある。
「まあ、そうなってしまったら……ん?」
「どうしたんです?」
俺はすぐに空を見上げると、すぐにポールたちに言った。
「敵の偵察天馬だ!」
俺が走り出して、ポールとマルタンは意味が解らなそうにお互いを眺めていたが、すぐに表情を戻すと追いかけてきた。
俺は天馬が集まっている場所へと向かうと、すぐに栗毛君の前に立った。
『おはよう、どうし……』
「すぐに出る……手を貸せ!」
『う、うん!』
ヒラ服のままで構わない。いやむしろ都合がいいと思いながら栗毛君に跨ると、そのまま整備された砂浜を駆けて、俺は上空に飛び立った。
敵の偵察天馬部隊は3騎。
俺が最初に見たときは島の反対側にいたが、栗毛君に乗って飛び立った時には、だいぶ修復中の天馬母艦まで近づいていた。
間もなく、その3騎は天馬母艦に気が付いたのだろう。
小隊長風の天馬騎士は、望遠鏡を出して天馬母艦の様子を伺っている。
『こ、これって……敵に居場所が見つかったってこと!?』
「そうなる。なるべく山影を利用しながら近づくぞ」
敵の偵察天馬騎士たちは、隊長以外の2騎も隊長ばかり見ていて、俺の存在にはまだ気が付いていなかった。
なるべく敵の死角になりそうな場所から近づき、山影を抜けると同時に栗毛君は一気に飛行速度を上げた。
敵は騎士ではなくペガサスの方が気が付いたらしく、俺たちを見て嘶きを響かせていたが、俺は構わず突進を続けた。
そして、そんな俺の姿を見た敵隊長は怪訝な顔をしたが、部下2人はバカにしたようにこちらを見て笑っていた。
「俺様がやるぜ! 鎧も装備してないザ……」
叫び声と共に天馬騎士が1騎向かってきたが、その鈍重な動きなど目で追う必要もない。俺は風魔法を放って騎士だけを天馬の背中から弾き飛ばした。
「ごぉぉぉぉぉお!?」
「こ、こいつ!」
他の2人は慌てて槍と長弓を構えようとしたが、俺は間髪を入れずに弓を構えようとした隊長の方を、風魔法の連射で撃墜した。
「ひ、ひいっ!」
最後の1人は槍を放り投げると、その場から逃走しようとした。
しかし、ランスを捨てたところで武器も鎧も付けてない俺の軽さに勝てるわけがない。みるみる距離を詰めると、敵の天馬騎士はやけくそな様子で風魔法を構えてきたが、俺もすかさず風魔法で応戦。
「くらええええ……」
「とう!」
お互いの風魔法が空中でぶつかると、俺の風魔法が貫通して相手を天馬から吹き飛ばし、敵天馬騎士は水面へと墜ちて大きな水しぶきを上げた。
「栗毛君。ペガサスたちの説得を頼んだ」
『了解!』
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