第15話 提案

 島民たちの先頭に立っていたのは、先日に俺と一戦を交えた一角獣オスカーアライズである。

 彼はすぐに俺に視線を向けると、懐かしそうに言った。

『先日は、腕試しに付き合ってくれて感謝するぞ……』


 オスカーアライズの言葉を聞いた、水兵や天馬騎士の多くが驚きながら俺を眺めていた。そういえば、艦の大半の奴が俺のことを大ほら吹きだと思っていたのだった。

 

「ああ、君は本当に強かったな」

『いや、貴殿こそ……』

 オスカーが左前脚を上げたので、俺もまた左手を差し出し、ウマと人間が握手するように軽く触れあった。

「紹介しよう。こちらの方が……ミシェル・ノルディ号のアドン艦長だ」

「よろしく」

 艦長がにっこりと笑うと、オスカーも返答するように微笑を浮かべた。


「次に、私の直接の上司……マティス天馬隊長だ」

「ミシェルだ」

『あらためてよろしく』


 一角獣オスカーは艦長や隊長を瞳に映すと、すぐに響く声で言った。

『では、本題に入ろう……皆、出てきてくれ』

 その声と共に、森の中から島民……いや、難民と呼ぶにふさわしい恰好をした女性や子供たちが姿を見せた。


 中には中年や若い男性の姿もあったが、女性に比べると圧倒的に数が少ないし、着の身着のまま逃げてきたという感じだ。はっきりいって身ぎれいでなければ、水兵たちも引いていたかもしれない。

 艦長は不思議そうに聞き返した。

「見たところ北方の人々のようだが……彼らは?」

『難民だ。ズィリョーヌイ大公国でも、少数民族として迫害されていた……だから、共に亡命先を目指して手を組んだのだが、船が難破してしまってな』


 少人数ならこの無人島に住むという選択もあったかもしれない。しかし、オスカーの後ろにいる難民たちは、ざっと見ただけでも100人近くいる。今まで食料が持ったのさえ不思議なくらいだ。

 アドン艦長も不思議そうに聞き返した。

「なるほど。ちなみに……これだけの人数の食糧を今までどうやって調達してきたのかね?」

『アナスタシア』


 彼がそう呼ぶと、緑色の角を生やした牝の一角獣が姿を現した。

 彼女の背中に翼はないが、代わりに岩が馬鎧のようにくっ付いてプロテクターとなっている。

『オスカーアライズの妻です。食料は私が植物の成長を促進させたり、木の葉からパンを作って補っていました』

「もちろん、マジックパワーに限界はあるのだろう?」


 そう質問をすると、一角獣アナスタシアは頷いて答えた。

『はい。私自身で用意できる食料は……1日に200食分といったところです。戦闘行為や他の建材を調達する作業をすれば、より少なくなります』

 1日で3食分消費する……と考えると、60人分くらいが上限ということだろう。



 艦長は、生き残っていた艦の責任者たちを見た。

 ダメージコントロール班の隊長や、天馬隊長マティス、エンジン部の隊長は、オスカーたちの受け入れに前向きの様子だ。


 慎重な姿勢だったのは、天馬世話をしている厩務班のダンや調理班の隊長だ。

 彼らは、飼い葉の残量などを部下と確認をしていたり、調理班の隊長も食料の残量や、受け入れた難民の部屋に関しての質問を、部下や他の班の隊長にしている。


 艦長たちは、しばらく話し合ってから、やがてオスカーたちを見た。

「わかった。君たちの入艦を認めよう」

 難民たちは喜んでいたが、艦長は更に言った。

「ただ……艦はごらんの通り修復しなければならないし、首尾よく出港できたとしても、再び敵の攻撃を受けて……最悪、君たちも巻き込まれるかもしれん」


 難民たちの一部は不安そうな顔をしたが、数少ない若い男性は言った。

「もしそうだとしても、俺たちは付いて行きます……前のような滅茶苦茶な生活には我慢できませんから!」

 その言葉を聞いた難民たちは、ほとんどがうんうんと頷いていた。どうやら彼らは、相当ひどい目に遭わされたようだ。



 話もまとまったことで、速やかに水兵たちは修復作業を再開した。

 幸いにも艦の食糧庫は無事だったため、一種の錬金術が使える一角獣アナスタシアには、艦の損傷部分を修復してもらう作業を依頼し、作業もスムーズに進んでいく。


 ちなみにオスカーアライズはと言えば、川から水を引いて池を作り、そこに自ら浸かることでお湯を沸かして温泉を作っていた。

 これは正直に言ってありがたい。度重なる連戦で人間も天馬も疲れがたまっていたので、これで疲れを取ることができる。






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