第14話 島民たちとの接触

 だいぶ日が落ちた頃、俺とマルタンとアーサーの3名は、手負いと言える母艦ミシェル号を誘導していた。


 すでに母艦の火災は消し止められていたが、火災と戦闘で死んでしまった水兵たちが、甲板に並べられており、その被害の甚大さを改めて思い知らされる。


 水兵の一人が、血相を変えた様子で駆け寄った。

「艦長! 第8エリアで水漏れです!」

「何としても持たせろ! あともう少し堪えれば島に着くんだ! 根性見せろ!!」

「ハイぃ!」


 ミシェル号は少し傾きかけていたが、ダメージコントロール班が頑張っているらしく、ギリギリのところで轟沈を免れている様子だった。

 俺だけでなく、マルタンやアーサーも艦が浅瀬などに乗り上げないように、目を皿のようにして水面を見ながら誘導していく。

「…………」

 こういうときは、やはり俺ではなく身体の持ち主であるポニーの感覚の方が頼りになる。

 彼は長年の経験を生かして艦を誘導していき、遂に浜辺まで艦を到着させることに成功した。


「これで、我々が溺れる心配はなくなったな」

 艦長が言うと、水兵たちも胸を撫で下ろしたようだ。ここなら木材も豊富にあるし、いざとなったら食料を調達することもできそうだ。


 艦長の前に、天馬隊長マティスがやってきた。

「艦長、お疲れ様です。島の様子を部下に探らせていますが、未だに島民は見つかっていません」

「そうか……」

 艦長は、白髪交じりのヒゲを触りながら、俺に視線を向けてきた。

「ポニー君。栗毛君は何か言っているのかね?」

「おい、どうだ?」


 栗毛君に視線を剝けると、彼は目を細めてから鼻をスンスンと動かした。

『さっきよりは薄いけど、艦の人間ではないヒトのにおいがするよ……それも複数』

 その言葉を聞いていた、マルタンやアーサーの天魔も頷いた。栗毛君だけが気付いているワケではなさそうだ。


 その話を聞いていた、天馬隊長は栗毛君に聞いた。

「どんなにおいだ? 性別は? 歳はどれくらいだ?」

『……ほんとうに複数いるんだよ。でも、女の人が多いかな?』


 艦長と天馬隊長は、しばらく小声で話をしていたが、やがて水兵たちに視線を向けた。

「とりあえず、艦の修復を急いでくれ」

「承知!」

 水兵たちは、ダメージコントロール隊を中心に艦の修復を進め、飛行甲板担当の水兵だけは、天馬が砂浜から飛び立てるように、石や大きめの貝殻などを回収していく。


 そして、俺たち天馬隊のメンバーはといえば、天馬たちの身体をマッサージしていたり、世話係に変わってエサを与えたりと、作業に追われていた。


 俺も栗毛君の毛並みを整えながら、彼との会話を楽しんでいる。

『騎士がやられてしまって、自分だけになった天馬が23頭もいるんだ』

「振り落とされる騎士はいるだろうが、どうしてそんなに天馬が?」

『敵からこっちに寝返ったペガサスが何頭もいるんだ。扱いに不満があったらしい』


 そういえば、普段は敵軍としか言っていないが【ズィリョーヌイ大公国】には、野生のペガサスやユニコーンがたくさん生息しており、いちいち牧場で生産しなくても調達は事欠かないという話を聞いたことがある。

「つまり、天馬がいくらでもいる敵は扱いが雑で、こっちは生産コストもかかるから大切に扱っているという訳か」

『そうなるかな……まあ、こっちはこっちで不満を口にしていたりするけどね』


「なるほど。ほれ、飼い葉だ」

『待ってました~♪』

 栗毛君は、鼻歌交じりで飼い葉を食べはじめると、少しして耳をピクリと動かした。

「……どうした?」

『この足音……もしかして……!』


 彼が首を上げて、樹海の中へと目をやると……そこからは確かに人の気配がした。しかも1人や2人ではない。かなりの人数がこちらに近づいている感じがする。

 天馬隊長マティスに視線を向けると、彼も愛馬の手入れを中断して俺と同じ場所を眺めた。


「……もしや島民か?」

「そう……かもしれません」

 隊長と俺の会話を聞いた他の天馬騎士たちも手を止め、やがて樹海の中へと視線を向けた。

 騎士や水兵たちは、多少の警戒心こそ出したものの武器を構えることはなかった。近づいてくる一団からは、これから戦いをするような物々しさはなく、更に足音が軽いため武装もほとんどしていないことがうかがえる。


 しばらくすると、赤々とした角と、全身が黒い毛並みに覆われた一角獣……オスカーアライズが姿を現した。

「君は……オスカーアライズ!」

『久しいな……王国の敏腕ライダー』





 








 


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