第13話 マティス隊長たち到着
合流すると、まずクリステルが報告した。
「島を上空から偵察しましたが、町はおろか民家のようなモノは見当たりませんでした」
「……つまり、ここは無人島の可能性が高い……ということか?」
「はい」
やはりそう都合よく、味方と合流できるわけではないのか。
だが、それは裏を返せば敵対する勢力もいないとも言えるから、賭けに勝ったと考えてもいいだろう。
「わかった。ちなみに……船を停泊させられるような浜辺はあったか?」
そう質問すると、今度はフロリアーヌが答えた。
「1か所ありました。こちらです」
俺たちはフロリアーヌたちに先導されながら、その場所へと向かった。
そこは砂浜の中でもかなり穏やかな場所で、降り立って海面の様子を見てみると、水深が急に深くなっていることがわかった。
「なるほど……ここなら確かに、船を停泊させることができそうだな」
俺は2人を見ると、すぐに「凄いぞ、お前たち!」と本心から言った。
少しぶしつけな言い方だっただろうかと思ったが、クリステルもフロリアーヌも嬉しそうに頬を赤らめながらモジモジとしている。普段は凛々しさのある天馬騎士がこんな表情をしているのだから可愛らしい。
すぐに俺は、ポールたちを見た。
「ポールとアーサー……すぐにマティス隊長に知らせてくれ!」
「りょーかいです!」
こうして、俺、クリステル、フロリアーヌ、マルタン、ラファエルの5人は、浜辺で見張りをしたり、ペガサスに協力してもらって海底の深さを探っていた。
「……この深さだと、入港できそうか?」
「船体に詳しい人がいないから、判断に困りますね」
フロリアーヌは、急に森の方角に視線を向けた。
「…………」
「どうしたフォリー?」
「いえ、いま……視線を感じたような……?」
その言葉を聞いた栗毛君は、草を食みながら答えた。
『なかなか良いカンしてるね。さっきから……人のにおいがする』
マルタンは目を丸々と開いた。
「島民がいるのか!?」
その質問を受けると、栗毛君は少し考えてから頷いた。
『島民というより難民って感じだけど……いるね』
「それは、どういうことだろうな?」
ラファエルが不思議そうに聞き返すと、クリステルもまた少し悩ましそうな顔をした後で表情を戻した。
「もしかしたら、民家がないことと関係があるのかもしれません」
その話を聞き、俺は難しい判断をすることになったと感じた。
偵察隊としては、この海底のだいたいの深さと、現地民がいることを本部に伝える義務がある。しかし、この場所を守らなければならないことも考えると、誰を連絡係として送るかが重要となる。
俺は少し考えてから、クリステルとフロリアーヌを見た。
「クリステルとフロリアーヌ……マティス隊長に、海底のだいたいの深さと、島民がいる可能性が高いことを伝えてくれ」
「直ちに!」
彼女たちが天馬に跨って飛び立つと、残っているのはマルタンとラファエルの3人だけになった。
「お前たちも天馬に跨った状態で待機してくれ」
「はい!」
ラファエルは海岸側、俺とマルタンは島の樹海を眺めたまま、じっと時が過ぎるのを待った。砂浜の波の音だけが静かに音を立て、空が赤みがかってきて、東側の空にわずかに星がきらめきだすと、ラファエルが声を上げた。
「隊長……南の方角に天馬の一団を発見!」
俺は樹海を見張りながら聞き返した。
「数は?」
「……ざっと見ただけでも40。旗印は……」
ラファエルは目を凝らしていたので、俺は望遠鏡を差し出した。
「…………」
「見えました! 青い旗印……我らがフラッチェ王国の旗です!」
その声を聞いて俺は肩の力を大きく抜いた。もし現れた天馬編隊が赤緑色の旗印だったら、生還することは難しかっただろう。
マルタンもまた笑顔になると、その編隊に向かって手を大きく振っていた。するとその編隊の天馬騎士の1人が手を振り返している。
ラファエルもニコニコと笑いながら言った。
「あれ、きっとポールの奴だぜ!」
「はははは……アイツってノリが良いからな~」
最初は目を凝らさないと見えないほど小さかった天馬騎士一行も、距離が近づくと望遠鏡などなくても見えるほどに大きくなっていた。
天馬騎士隊長のマティスをはじめ見慣れたメンバーがそろっていたが、その数はとても少なくなっていた。
「思っていたよりも大きな島だな」
「はい、この海岸の海面は思った以上に深かったのですが、この島には人の気配があることが気掛かりです」
その言葉を聞いたマティスも頷いた。
「その報告はクリステル君とフロリアーヌ君から聞いている」
隣で話を聞いていた隊長代理も、この時ばかりは深刻な顔をしていた。
「家屋がないというところも妙ですな……トラブルがなければいいが……」
「まあ、陸地があるだけでもありがたい話だ。問題はその都度に解決していこう。とりあえず……母艦をここまで誘導しなければな」
不幸中の幸い、ミシェル号はまだ航行する力は残っているようだ。何とか島で資材を調達して、この窮地をなんとかしたいところである。
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