第12話 北北西の無人島

 北北西の方角に飛び続けること10分。

 先行させたクリステルが戻ってきた。

「……どうだった?」


 そう質問すると、彼女は俺と合流してから報告をしてくれた。

「このまま10分くらい進むと島が見えました。フロリアーヌは先行して島の調査を行っています」

 島そのものが敵対勢力の勢力下かもしれないが、とりあえず全員が溺死するという最悪の事態だけは避けられるかもしれない。

「わかった。私はそのことを他の騎士たちに伝えてくる。君は先行したフロリアーヌを援護してくれ」

「承知いたしました!」



 母艦ミシェル号へと引き返したときには、すでに敵天馬隊の攻撃は終わっていたが、ミシェル号からは最低でも3か所が炎上しており、とてもじゃないが天馬が着艦できるような状況ではなかった。

 俺は味方の天馬騎士の中から、マティス隊長を見つけると栗毛君を操りながら、隣を飛んだ。

「マティス隊長」

「おお、ポニー君……無事だったか!」

「北北西の方角に、無人島を発見いたしました」

「なに、それは本当か!?」


 隊長だけでなく、周囲の天馬騎士たちも驚いた様子を俺を見てきたが、俺はなるべく抑揚のない声で言った。

「クリステルとフロリアーヌに島の調査を命じています。敵の勢力下かもしれませんが……」

「この際、贅沢は言ってはいられん! ポール!」

 近くを飛んでいたポールは「は、はい!」と反射的に返事をしていた。

「君たち4人もポニー小隊長と同行して、島の調査を行いなさい。艦の修復ができそうな海岸も合わせて調査するように」

「了解しました!」


 いや、そこは承知いたしましたと答えるところだろう。と思いながらも、俺はポールたちと共に任務を再開することにした。

 単独行動だと、敵が集団で襲ってきたときに抵抗できずに落とされてしまう危険性もあるが、味方が複数いれば敵もおいそれとは攻撃できない。


「小隊長、久しぶりですよね……一緒に行動するのって!」

 ポールが言うと、俺も「ああ!」と言いながら頷いた。

「今は、やんちゃ坊主4人とオッサン1人だが……すぐに美少女が2人も仲間に加わるぞ!」

 そう言うと、特にやんちゃな若騎士マルタンは、ニヤニヤと笑っていた。

「いいっすね美少女! あ~俺もお近づきになりてえ!」

「そのいやらしい顔をやめて表情を引き締めろ。そうすればお前も騎士っぽく見える」

「ちぇ、相変わらず手厳しいぜ」


 そんな雑談をしながらも、俺たちは本能的に周囲を見回していた。

 どこから敵が攻めてくるかわからないので、ペガサスたちだけに監視をさせるワケにはいかないのである。

「ポニー小隊長。陣形はこのままワンダーフォーゲルでいいですか?」

「構わない。このまま進んでくれ」

 そう答えると、やんちゃ坊主たちは口々に「漢だ……」とか「俺も同じセリフ言ってみてえ」と発言した。


 ワンダーフォーゲルとは文字通り、渡り鳥のように隊長が部隊の先頭を飛んでブイ字に隊列を組む陣形である。

 ペガサス隊にとっては一番美しい陣形であるが、敵から見れば、誰が部隊の長なのか一目でわかってしまうため、この陣形を嫌がる隊長は多い。


 では、死にたくない俺が、どうしてこの陣形を使っているのかと言えば、単純に機動力が一番出るし、天馬の負担が少ないからである。

 母艦が炎上中の状況だからこそ、天馬は長く飛べた方が生き残る確率は高くなるという訳だ。



 飛行を続けること20分。

 水平線の奥から、島が姿を見せた。

「あ、見えましたね隊長!」

 俺はすぐに望遠鏡を手に取った。

「……島の付近に船舶らしいものはないな……これは本物の無人島かもしれない」


 まだまだ島は遠くにあるため、俺たちは10分ほど飛び続けることで、やっと島の上空までたどり着くことができた。

「母艦からここまで……おおよそ35分か」

 ポールが言うと、ラファエルも難しい顔をしたまま頷いた。

「時速65キロメートルとしても……おおよそ33キロメートルは離れていることになるな。母艦……ここまで持つか?」


 あまりこいつらが不安がって士気が下がるのも考えモノだ。俺はなるべく平静な声で意見を口にした。

「我が母艦のダメージコントロール隊の手腕は大したものだ。彼らの頑張りを無駄にしないためにも、やるべきことはやるぞ」

 俺の言葉は本当の意味で適当だったらしく、ポールたちも微笑を浮かべていた。

「そうっスよね! よし、頑張って偵察だ!」

「行きましょう!」


 島の大きさは目算でだが、縦に10キロメートル、横に8キロメートルといった感じだ。島の中心よりもやや南側の標高が高くなっていて、最大標高は100メートルという感じだ。

 島の大半は木々に覆われていて、海岸の砂浜付近にだけ辛うじて平地があるが、民家のようなものは見当たらない。


 若騎士アーサーが声を上げた。

「見てくださいポニー隊長。あの2人組……クリステルとフロリアーヌでは?」

 試しに手を振ってみると、手前の騎士が手を振り返した。ペガサスの色からクリステルだとわかる。

「よし、合流しよう!」

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