第11話 ミシェル号の危機

 敵天馬騎士の数……おおよそ114騎

 上空にいるミシェル天馬騎士の数……おおよそ62騎


 敵側には爆弾武装の騎士もいるが、それでもミシェル天馬騎士隊の戦力不足は否めない。現に次々と敵の天馬騎士がミシェル号の上空まで来ては、弓矢や魔法を射かけたり、爆弾を投下したりとやりたい放題だった。


「ぎゃあっ!」

 敵の落としてきた爆弾は、飛び上がろうとしていた天馬騎士に直撃し、更に滑走路を片方使い物にならない状態に陥れた。

「くそっ……!」

「火を消せ……けが人の手当ても早く!」

 甲板の責任者が、そう号令を出した直後に、今度は爆弾が降り注いで責任者や他の数名を爆風で吹き飛ばされ、彼らの多くが海へと投げ出された。


「しょ、小隊長……どうしましょう!?」

 クリステルが愕然とした様子で言うと、俺はじっと海面を睨んだ。

「滑走路がないのなら……!」

 俺はそう言うと、栗毛君に方向転換を指示した。

『え……? それって……つまり!?』

「前進!」

『ええええええええええ!』


 俺がまず甲板を横切らせて、短い距離にも関わらず飛び上がらせると、栗毛君はフラフラとしながら海面すれすれを飛んで行くが、徐々に高度を上げて空を目指した。

 これはあくまで、俺自身が超軽武装なことと栗毛君自身のパワーがあるからこそできる芸当だ。


 きっとクリステルやフロリアーヌは、そのことを理解して……

 後ろをちらりと見ると、こいつら……何と俺の真似して、この恐ろしい発艦方法を採用しやがった!

 2人の天馬はフラフラと不安定な飛行をしていたが、その直後に甲板に爆弾が命中すると、目を剥いて飛行に専念したようだ。

 ま、まあ……そのままボケっとしていたら爆弾の餌食だったからな。結果オーライか?


 俺はクリステルたちと合流すると、すぐに指示を伝えた。

「今回は、天馬のスタミナがほとんどない。だから俺が許す……無駄な戦闘は避けて、安全に避難できる無人島か味方の軍船を見つけろ」

「た、隊長……上!」


 言われなくても気配で丸わかりだ。俺は視線を向けることなく手だけかざして、上空から襲ってきた敵天馬騎士に風魔法を撃ちこんで撃墜した。

「わかったか?」

 そう伝えると、クリステルやフロリアーヌは頷いた。

「目標方角は北北西……先ほどオスカーアライズと戦いになった空域だ」


 俺は2人の天馬騎士たちを逃がすと、追撃しようとする敵天馬騎士を背後から襲って風魔法を撃ちこんだ。

「健闘を祈る!」

 立て続けに2騎もの騎士をやられたからか、敵は2小隊6人もの天馬騎士が俺に向かってきたが、俺は栗毛君に指示を出して急上昇させた。


 俺はその間に、燃え上がる母艦を眺めた。

 なんというか……手ひどくやられてしまったものだと思う。ここまで壊されてしまうと、たとえこの戦いをしのぎ切ることができたとしても、航行能力はほぼなくなっているだろう。


 俺は敵に無駄な矢を撃たせながら巧妙に誘導していくと、追撃してくる敵の数も6人から9人まで増えていた。なるほど、味方の数が減っているのか。

 今度は栗毛君に急降下を指示すると、敵は勢いに任せて追ってきた。敵の放った矢が俺の耳元を掠めてそのまま落下していく。油断も隙もない話だ。


 それでも俺は敵を誘導していき、一気に水面すれすれで方向転換すると、敵天馬は立て続けに3騎が落下し、打ち上がった水飛沫が俺の身体へとかかった。


 俺はそのまま、母艦ミシェル号の周りを旋回するように水面ギリギリを飛ぶと、おちょくられていると感じたのか、敵の天馬騎士たちは次々と矢を射かけてきた。

 それらは派手に水面の水を打ち上げたが、高速で飛んでいるモノに当てるのは至難の業のようだ。


 俺は再び、風魔法で栗毛君の身体を浮かせて急上昇させると、栗毛君も険しい顔をしながら敵天馬を睨み、先ほどまで余裕で矢を射かけていた騎士の跨る天馬の右翼に蹴りを見舞い、バランスを崩した天馬と天馬騎士は、隣を飛んでいた天馬騎士たちを巻き込んで水面へと落下した。


 その行動に意地になったらしく、敵天馬騎士は一斉に俺に矢を射かけてきたが、向かい合う形になっていたので、敵の放った矢が敵にぶつかるフレンドリーファイアを起こし、更に1騎が水面へと墜ちた。


 俺は更に、ミシェル号の天馬騎士を狙う敵天馬騎士に狙いを定め、風魔法で撃墜。

 敵もさすがに俺を追撃することを止めたため、俺もまた炎上する母艦を横目に、クリステルたちの向かった方角を睨んだ。


 あの何もないはずの空域にオスカーアライズがいたということは、船か或いは無人島のような拠点があるはずだ。

 悪い賭けではないはず。

 俺もまたクリステルたちの後を追うことにした。

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