第一譚:俺の身体がこんなに小さいわけがない
落ち着いた。もちろん落ち着いたとも。
パニックになりはした…が、落ち着いてみれば動揺よりも前世から続く憧れの方がよっぽど大きい。
だって異世界だよ?転生だよ?テンプレではあるが魔法とか無双とか…とにかくそん
なワクワクするような可能性なら山程あるじゃないか。
俺の考える立派な人生っていうのも案外簡単に実現できてしまうかもしれない。
(まあ……こんな赤ん坊の姿じゃまともに活動もできないけどな。)
俺は魔法のまの字を理解する以前にこの世界の言葉をまだ知らない。
今後も生きていくんだから早いうちに覚えたほうがいいし、なるべく早いほうがいいだろう。
ラノベの主人公だって、異世界語はマスターしている奴がほとんどだったしな。
なんたって古代から現代まで全ての人間の橋渡しになってきたのは言葉だ。
言葉は偉大。古事記にも書いてある。
……まあ武力で解決された例もあるにはあったか…まあこの際それは忘れるとして。
(とりあえずは言葉を覚えてみよう。)
*俺はとりあえずの目標を定めた。
……ゆりかごの中で寝転がりながら。
なんとも格好がつかない。おのれゆりかご。寝てみたら案外寝心地のいい場所め。
まあ、まだ寝返りすらうてない俺に格好云々を言ってもなんともならないが。
くそう…早く自由に動き回りたい……
__________
そう思って数ヶ月が経った。
状況はほとんど変わっていない。
未だに言葉を覚えるための足がかりを見つけられていないのだ。
言っておくがサボってたわけじゃないぞ!?
教本がないのが悪いんだ。
日本語なり英語なり、前世では言葉ごとにちゃんと教科書があった。
しかしここにはそんなものはない。
もちろん指導教本があったって、俺が書かれている文字を読めるはずがないし、それ
に頼るのは難しい。
(親の言葉から地道に覚えるしかないか。)
今世での俺の親父の緩みきったイケメンフェイスを前にため息をつく。
俺の前で緩みきった顔を見せているこいつの名はラシッドと言う。
なんで言葉がわからないはずなのに親父の名前はわかるのかって?
毎日毎日俺の目の前で自分を指さして「ラシッド」って言ってるんだぞ?
嫌でも覚えるに決まってるだろ。
それと同じ理由で母親の名前もシンシアだとわかった。
シンシアは俺達のことを主に担当してくれている。
無条件に愛を注いでくれるのだ。まったくいい母親だぜ。
おっと、愛を注ぐを叡智な意味に勘違いするんじゃないぞ。
俺とシンシアの関係は至って健全だ。別に何もないんだからねっ。
んなくだらないボケは置いといて、だ。
(どうするかな…)
足がかりがつかめていないとは言っても『おはよう』とか『おやすみ』
ぐらいはわかっている。
ラシッドやシンシアと同じで毎日聞くからな。
問題はそれ以外の言葉だ。
本棚にある本に目を向ける。
(あれぐらいは読めるようにならないとな)
毎日寝る前にシンシアが読んでくれるからあれが童話集のようなものだってことはわ
かる。言葉を覚える上ではこれも結構な足がかりになるだろう。
「___。おはようアルフォンス。___?」
未だこれしかわからない俺の理解の遅さに腹が立つ。
童話の他にも魔導書とかいろいろ読みてぇよ。はぁ…それもいつになるのやら……
文字って偉大だったんだなぁ……
「ラシッド!アム・リート・デア。ラシッド!」
(えぇい!うるさい!何度も言われんでもとっくにわかっとるわ!)
あぁ…早くこの状況を打開しないと…
気が触れそうだ…
___次回:赤ん坊でも読書したい!!
かくして魔法は加速する ねこまくら @ryougennnosyoudaihassetu
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