最終話大切なあなたへ

「アンジュ!!」

 アンジュに駆け寄り安堵の溜息をつく。

「そういや……」

 あたりを見回しあの蝶を探してみたが、鮮やかな紅い羽は見当たらなかった。

「………」

 友達がいなくなったことに悲しみが押し寄せてくる。

 ……それよりもアンジュを…

「!」

 その時、僕の視界に一輪の花が映った。

 その花は美しい紅い花だった。その色はあの蝶とアンジュのボディの色に酷似していた。

 立ち上がり、花を手に取る。近くで見るとさらに美しく、黄緑色の茎が太陽の光を受け明るく輝いている。

 その花を優しく持って、アンジュを見つめる。

『NAME:アンジュのバックアップデータが見つかりました。復元しますか?』

 56年後に再起動するはずだったが…こんな話を聞いたことがある。


 一度眠ってしまった者のデータが復元されるには、長い時間がかかる。だが、まだ復元システムが通常通り作動していればすぐにデータは見つかり、眠った者はよみがえる。


『NAME:アンジュのバックアップデータが見つかりました。復元しますか?』

 僕は震える声で言った。

「はい…!」


『復元中…』


 ああ……アンジュ…良かった…


 僕は機械的な細い腕でアンジュを抱きかかえ、ギュッと目を瞑る。

「アンジュ…アンジュ…!」



「……ライト……?」

 僕の耳に大好きな優しい声が入ってくる。僕は目を開けた。

「アンジュ!!!」

 太陽の柔らかな光の下で、アンジュは目覚めた。

 いきなり大きな声を出したのでアンジュは驚いていた。

「ごめん…嬉しくて……」

「私もだよ」

 優しい笑み。その顔が僕は大好きだ。

「……というかライト……それって…涙……?」

「え?」

 気づくと僕の腕にはポタポタと涙が零れ落ちていた。

 僕は半分人間だ。でも…涙が出たことなんてなかった。

「ハハッ、涙なんて久しぶりに見たな……アンジュ、これ」

 僕は花を差し出した。

「すごい綺麗……ありがとう」

「こちらこそ」

 アンジュは優しく花を受け取ってくれた。

「……ライト、こっち来て」

「?」

 刹那、僕の頬に柔らかい感触。

「……ありがとう。ライト」

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