興味「氷室優」
始めは興味本位だった。
能力者であった俺が殺し屋組織にスカウトされ、そこに入ったのは。
あれはいつだったか。
殺すのが嫌になったのは。
そこは血と悲鳴が入り交じる地獄。
俺は自分に後悔した。
逃げようとした仲間は殺された。
この地獄からは逃げられない。
そう悟った。
「お前は逃げていい。もう普通の生活に戻れ、優。お前はまだ、まともな人間だから」
あれはいつだったか。
赤髪の女は俺をあの地獄から救い出した。
能力なんて、ただのいらないもの。
俺がここにいる理由だって、俺を消そうとする組織から逃げる情報が欲しいから。
俺は、あの日あの選択をした普通じゃない人間だ。
ここには普通じゃない奴らばかりがいた。だから俺の素性はきっと隠し通せると思った。群れるのは嫌いだ、だから毎日フードを被っている。
まず、部長のカノン。
能力者の存在を知りたいお転婆娘。あんなものを持つ人間の何が知りたいのか。少なくとも、俺が見てきた能力者は皆、自らの欲の為に力を振るうような輩ばかりだ。
そして後輩の八重。
彼女が能力者である事はすぐ分かった。恐らくは能力者であれば見ればすぐ分かりそうなものだが、本人は恐らく無自覚。不幸体質なんです、と冗談のように話していたがそれは己の力を狙う人間がいるから故の事だと、言うような間柄でもない。
後輩の裄仁。
彼は能力者ではない。が、一番気になるのはこいつだ。八重と恋人関係であり、能力者の情報が集まる掲示板をよく見ている。彼はカノンと同じ思考なのかもしれない。同じ男だ、二人でサークルの買い出しに出ることも多かった。
そんなある日の事。
「……優先輩。もし、もしですよ?彼女が能力者で何者かに狙われていて、能力のない自分が彼女を守ろうとした時に、その、どうしますか」
買い出しの帰りに裄仁はとんでもない事を話し始めた。
それが八重の事で、彼がこのサークルにいる理由だとしたら。
「すいません。変な事を言って」
「続けろ。先輩として力になりたい」
「……嘲笑わないで下さいね。それと、カノン先輩と八重には秘密です」
辺りの空気が張り詰める。
「理由は言えないんですけど、俺、八重が能力者だと思ってて。それで、あいつ、昔から変な奴に襲われる事が多くて、俺が守りたいんです。けど、この前あいつが襲われた時に助けられたのが能力者って聞いて」
確か八重も言っていた。
騎士団を名乗る能力者に助けられて、お礼がしたいと。
「俺には力がありません。けど、他の誰かにあいつを守ってほしくはない。その他の誰かが悪者だとしたら?そんなことを考えると、どうしたらいいかわかりません」
「……そうか」
「俺が能力者ならって、思います。八重を守る力があればって」
能力はいらないと思う俺の目の前にいる、能力を望む後輩。
不思議な縁もあるものだ。
「優先輩は、能力者って信じますか……まあ、こんなところにいるんですし、信じるんでしょうけど。変な話をしてすいませんでした」
救われた命、不要な能力。力を欲する者の為に使うのも悪くはないかもしれない。
「裄仁」
目の前を野良猫が歩いていた。
「よく見ていろ」
俺はフードを取り、両目で猫を視る。
すると歩いていた猫はぴたりと動きを止めた。
「ーーえっ?それが、何か?」
「触れ」
「あ、はい……ってあれ?猫が全く動かない」
裄仁が俺の方を振り向く。
俺が目を閉じると、猫は再び動き出した。突然の事に驚き、彼はびくっと身体を震わせた。
「能力者は信じるか、の答えだ」
「もしかして、優先輩は」
「時間操作。両目で認識したものの時間を操れる。この能力でお前に手を貸そう」
「え?それって」
「八重を自ら守るんだろう?その為には頼れる人を使え。それもお前が守るうちに入るだろう」
驚いたまま沈黙をした裄仁は漸く事態を飲み込んだ。
「……俺も色々あってな。追われているんだ、お前と協力すればこちらにも利害がある」
利害は、自らを頼る人間に力を貸す事。それだけでいいのかもしれない。
殺し屋だった事実は今は伝えないが。
「本当にいいんですか?俺、走るくらいしか出来ませんよ」
「お前ほど頭が回る奴ならそれだけで十分だろう。何度も言わせるな、人を使え」
彼は笑った。
「じゃあ、お力お借りしますね」
その笑顔が、あの赤髪の女に少し似ていた。
「あ、でも、カノン先輩には言わないんですか?自分が能力者って」
「あいつに見つかったらまともな事にならない」
「あー、確かに」
これがこれからの俺の生きる意味なのかもしれない。
異能研究部「Absolute」 白樺かずま @re_insousaku
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