第6話



 それから月日が流れ、涼風すずかぜは受験に向けて勉強にあけくれていた。


「なあすず、そんなに勉強して楽しいか?」


 ラクアはたまに涼風の家に遊びに来るようになっていた。いつの間にか友達のような関係だ。


「別に楽しくないわよ。私は行きたい高校があるからやっているだけよ」

「そう言えばすずが行きたい学校ってどこ?」

「知りたい?」


 涼風はそう言うと勉強机の引き出しからパンフレットを出す。


「ここよ」


 ラクアはパンフレットを受け取り見る。


天明寺てんみょうじ高等学校?」

「うん」

「じゃあ俺もここ目指すかー」


 ラクアは地球に住み、高校に行くための勉強を始め、塾も行くようになったのだが。

 そんなラクアに涼風は、はあと肩をすくめる。


「簡単に言ってくれるわね。ここ結構偏差値高いのよ? そんな最近勉強始めたばかりのラクアでは無理よ」

「ちなみにこの学校の偏差値、いくつ?」

「たしか65だったかな」

「じゃあ大丈夫だ」

「え?」

「この前偏差値70までなら受かるって先生に言われた」


 ――まさかこいつ、めちゃ頭いいんじゃ?


 そんなことを思いながらラクアを目を細めて見ていると、


「なんだ? 俺に惚れたか?」


 と言ってくる。最近何かと言ってくるようになった。最初は照れて反応していたが、毎回言われれば人間慣れるもんだ。


「まさか。惚れるわけないでしょ」


 冷めた目をして言い返すのもお決まりだ。


 だが、まだ慣れないこともある。


「そうか」


 そう言って見せる笑顔は、やはり破壊力抜群で、胸がギュッとなり照れてしまう。


「もう! 勉強の邪魔だから出てって!」


 誤魔化すためにラクアの背中を押し、窓へと押し出すのもお決まり。


「わかったよ」


 ラクアも別にそれを普通に受け止め、


「またなー」


 と言って窓から出て行く。それをいつもムッとして送り出すのもいつものことだ。


 涼風は高校のパンフレッドを机の中にしまうために引き出しを開け動きを止める。そして目線の先にあるもう一つのパンフレットを取り出す。


 それは留学のパンフレットだった。


 なぜか昔から海外留学をしてみたくて仕方がなかったが、今の家の現状では無理な話だ。だが1つだけ留学出来るものを見つけた。


 それが国公立大学の交換留学制度だった。


 なぜ国公立大学なのかと言えば、学費が安いからだ。だって大学の学費を払うだけで行けるのだ。そのためにも天明寺てんみょうじ高等学校に入り、その先の国公立大学に行って留学するのが涼風の本当の夢。


 だが大学は19歳から。そうなると18歳になって結婚したら、夢を叶えることが出来ない。それは絶対に嫌だ。だからラクアとの結婚は阻止しなくてはならない。


 留学のパンフレットをしまい、今度は『婚約破棄への道』と書いてある1冊のノートを取り出す。所謂、ラクアとの別れるための計画を書くノートだ。勉強と平行に考えが浮かぶと、ここに書いていた。


「18歳までには時間はある。それまでにどうにかラクアとの結婚を破棄しなくては!」


 だがまず受験が優先だ。志望校に合格しなければ元も子もない。

 だからこの計画実行は、受験が終わるまでお預けだ。


 そしてもう1つ、涼風を悩ませる大きな問題が発生していた。


 いつの間にかラクアは涼風の家族と知り合いになり、気に入られてしまったのだ。特に母と妹の女性陣からはすこぶる人気だ。


「ラクア君、いい男よねー。すず、いい男見つけたわよねー」


 母はラクアのことを彼氏と勘違いし、5歳の妹はといえば、


「私ラクア君と結婚するー!」


 と、自分の5歳の時と同じことを言っている。


 血は争えないものだ。


 でも結局、この件も放置状態だ。



 そして受験。


 見事合格!


 念願の第1志望合格なのに手放しに喜べない。その理由が、


「やったなすず! 俺も合格だ」


 ラクアも同じ学校に合格したのだ。


「なんでラクアまで合格するのよ」

「どうだ? すごいだろう? 惚れたか?」

「ぜんぜん!」


 歯を食いしばりながら答えると、ラクアは爽やかに微笑む。もうその笑顔さえ腹正しい。


「お! 悔しがってるなー」


 そこで気付く。最初会った時より少し視線が上になった気がする。


「ラクア、背伸びた?」

「ああ。10㎝ぐらい伸びたかな」


 涼風と頭1つ分差が出来ていた。肩幅も少し広くなった気がする。


 するとラクアが涼風の頭に手を置き、涼風の顔を覗き込み笑顔を見せる。


「ということで、これからよろしくな!」

「つっ!」


 照れるからあまりその無駄にいい顔を近づけないでほしい。

 顔を赤くし、目を泳がす涼風に、ラクアは堪えられなくなり、ぷっと吹き出し声をあげて笑う。


 そこでからかわれたことに気付く。


「ラクア!」

「すず、照れてる」 


 そう言って何事もなかったように「じゃあな」と涼風から去って行く。


 その後ろ姿を見て涼風は心の中で叫ぶ。


 ――絶対に契約破棄してやるんだから! 



 そして涼風とラクアの変な高校生活が始まった。


                              完




――――――――――――――――――――――――――――――


 短編児童小説コンテスト用に急遽書いたものです。

 いろいろと突っ込みどころ満載だったと思います。

 申し訳ございません。

 一応、これで完結です。


 ここまで読んでいただきありがとうございました(^o^)

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許嫁はイケメン宇宙人 碧 心☆あおしん☆ @kirarihikaru

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