第5話
エリックの豪邸で涼風はお昼をごちそうしてもらい、食器洗い物を手伝っていた。
「ねえ、すずちゃん」
「はい」
「本当は結婚なんて嫌なんじゃない?」
「え?」
涼風は洗っていた手を止め、横の絵里子を見る。絵里子は涼風が洗った食器を食器洗浄機に入れながら続ける。
「聞いた話だと、すずちゃんがラクア君と契りを結んだのは5歳でしょ? その歳の時なんて、そんなこと考えなしでしていることだもん」
「そうですね」
「ラクア君はその時、ラクア君の母親もその場にいたらしいからずっと忘れずに今までこれたけど、すずちゃんは違うわ。会ったことも覚えていない、ほとんど知らない人と結婚させられるんだから納得いかないわよね」
――はい。その通りです。おっしゃるとおり! それに出来れば地球人がいいです。
なんて大声で言えるわけがない。どこでラクア達宇宙人が聞いているか分からないのだ。
「ただ、」
絵里子は涼風を見て微笑む。
「今は無理かもだけど、ラクア君とのこと、18歳まで観察してあげてくれないかなー」
「え?」
「ラクア君、今回親にこっぴどく怒られたみたいなの。18歳まで結婚を先のばしにしただけじゃなく、地球で暮らすなんてけしからんってね」
やはりラクアは親に反対されたのだとそこで涼風は知る。
「でもラクア君はずっと1週間の間、両親に懇願したらしいわ。結局親もラクア君の誠意に負けてOKを出したってエリックが教えてくれたわ。すごいわね」
じゃあ――。
「あの、ラクアは手続きに時間がかかったって言ってたんですけど」
「手続き? ああ。手続きは1日もかからなかったわよ」
――やっぱり。
洗い物が終わると絵里子はりんごを剥き始めた。涼風もリンゴを切るのを手伝う。だが絵里子のようにうまく切れない。
「ラクア君は本当にすずちゃんと結婚する気なのね」
「……」
「すずちゃん、納得いかないかもしれないけど、断るの待ってもらえないかな」
「え……」
「ラクア君を18歳まで観察してみて、やっぱり駄目だと思ったら、その時ふってあげればいいから。ね!」
絵里子はそう言ってウインクする。
「でも契りは絶対に解除することは出来ないってラクアが言ってました」
「あ、それはたぶん、安易に相手を変えないようにする為に小さな子供に言うことだと思うわよ」
「そうなんですか?」
「ええ。でもそのやり方までは私は分からないけど」
じゃあエリックは知っているのだろうか。だが聞けるわけがない。それに今、それをしようとは思わない。ラクアの努力をすぐ無下にするほど自分はそこまで非情ではないのだ。
――もう少しだけ様子みてみようかな。
「なあ、このひどいリンゴむいたのってすずか? ひでえなあ」
涼風は拳をギュッと握る。
――やっぱり今すぐこいつとの婚約を破棄したい!
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