第75話「実家へ」

 楽しく過ごしてきた夏休みもあと少し。大学は夏休みが長いが、その分後期が始まった時にちゃんとやっていけるのかと、少々不安になる。みんなそんなもんだと思いたい。

 今日は日曜日。実家に行くことになっていた。それも一人ではなく、絵菜、拓海、エレノアさんという同級生組と一緒だ。

 え? どうしてそのメンバーで実家に行くのかって? 実は母さんが「久しぶりにたこ焼きパーティしない?」と電話で言っていて、それならばエレノアさんにたこ焼きを作るのを体験してもらうのもいいのではないかと思ったのだ。


「団吉、今日は印藤とエレノアさん、来るんだよな?」


 先にうちに来ていた絵菜が言った。


「うん、駅前まで二人で来るって言ってたよ。そろそろ駅に行ってみようか」


 二人で家を出て、駅前に向かう。あっという間につくのは変わらずで。今日もいい天気で暖かい。二人で駅前のベンチに腰掛けた。


「あ、RINEが来たよ。もうすぐ着くって」

「そっか、じゃあここで待てばいいか」


 二人で話していると、改札の向こうから拓海とエレノアさんがやって来た。


「おー、すまんなー、ちょっと電車が遅れててさ、時間かかったっつーか」

「いやいや、大丈夫だよ。なんか久しぶりに会ったような気がするね」

「エナ! おひさしぶり! わたしおひさしぶりいえる」


 エレノアさんが絵菜に抱き着いた。


「わっ! あ、お、お久しぶり……エレノアさん、元気だな」

「わたしげんき。エナかわいい。きょうはてをつなぐ」

「あはは、エレノアさんは沢井さんが大好きだなぁ。あ、沢井さん、お久しぶり」

「ああ、印藤もお久しぶり。元気そうでよかった」

「よし、じゃあ実家まで行こうか。ちょっと歩くからついてきて」


 僕と拓海、絵菜とエレノアさんに分かれて歩き出す。実家にはたぶん日向と母さんとみるくがいるはずだ。先月帰って以来だから、僕もちょっと久しぶりになってしまった。


「ダンキチ、ダンキチのママ、きれい?」

「え!? あ、どうなのかな……なんか若いとか言われていたような……」

「あはは、自分の母ちゃんのことってよくわかんねーよなぁ。俺もそのうち実家に帰ることにするかなぁ」


 拓海は北国出身なので、実家が遠い。でもお盆やお正月は帰っているみたいだ。息子が遠く離れた地で頑張っているのは、親御さんも嬉しいだろう。


「着いたよ、ここが僕の実家。入ろうか」


 実家の鍵で玄関を開けて、中に入る。「ただいまー」と言うと、奥からパタパタと足音が聞こえてきた。日向だった。


「おかえりお兄ちゃん。あ、いらっしゃいませー!」


 実家にいた頃から、日向はこうして出迎えてくれたなと、なんだか懐かしい気持ちになった。


「あ、エレノアさんははじめましてだね。こっちは僕の妹の日向です」

「ワォ! ヒナタちゃん! わたしエレノア・クルス。ヒナタちゃんかわいい」


 今度は日向に抱き着くエレノアさんだった。


「わぁっ! あ、は、はじめまして、日向といいます……あわわわわ」

「――あらあら、団吉おかえり。もしかしてそちらが話してた?」


 奥から母さんもやって来た。


「あ、ただいま。うん、こちらが拓海で、こちらはエレノアさん。二人とも、うちの母です」

「あ、はじめまして! 印藤拓海といいます!」

「ワォ! ダンキチのママ! わたしエレノア・クルス。ママびじん」

「あらまぁ! ふふふ、はじめまして、団吉の母です。いつも団吉がお世話になっているわね。さぁ上がって上がって」


 みんなでリビングに行くと、みゃーと鳴きながらトコトコとやって来たのは、みるくだった。


「おお、みるくちゃんか! そういえば以前ビデオ通話で見せてもらったことあったな」

「ああ、あったね。エレノアさん、うちの猫のみるくです」

「ワォ! みるくちゃん! ねこちゃんかわいいね」


 みるくがエレノアさんの足にすりすりしている。本当に人懐っこい子だ。


「さあさあ、みなさんどうぞ、飲んでくださいー!」


 日向がジュースを出してくれた。


「あ、日向ありがとう。みんなも飲んで」

「おお、サンキュー、いただきます。へー、ここが団吉の実家かぁ。なんか綺麗っつーか、うちの両親もこのくらい片付けてくれたらなぁ」

「あれ? 拓海のご両親は、もしかして片付けが苦手とか?」

「ああ、実家も散らかってるんだよなー。俺が言っても聞きやしない」

「エナとヒナタちゃんとあえた。わたしうれしい」

「あはは、エレノアさん、日本語お上手ですね!」

「ふふふ、わたしにほんごじょうず。ダンキチ、きいた? わたしにほんごじょうず」

「あはは、エレノアさんもどんどん日本語が上手になってるよね」

「そういえば、絵菜ちゃんはそろそろ就職活動の時期じゃないかしら? もう色々と動いているのかしら」


 キッチンからお菓子を持ってきた母さんが絵菜に訊いた。


「あ、はい、もう色々と動いているところで、もうすぐ面接があって……」

「そうなのね、今かなり緊張しているでしょう。でも絵菜ちゃんなら大丈夫よ、自信持って頑張ってね」

「あ、ありがとうございます。ちょっと不安もありますが、なんとか……」

「おー、そっか、沢井さんは専門学校だから、就職活動があるんだよなぁ。俺らはまだ先の話だけど、なんか不安になるのも分かるっつーか」

「絵菜さん、大丈夫ですよ! ここにいるお兄ちゃんからパワーをもらえば、どんな困難にも勝てます!」

「うん、そうだな、団吉がきっと支えてくれる……」


 絵菜はちょっと恥ずかしそうにしていた。そうか、就職活動か。拓海の言う通り僕たち大学生はまだ先だけど、初めてのことで不安や緊張もあるだろう。僕が支えてあげたいと思った。


「うん、絵菜、頑張ってね。きっといい結果が待ってるよ」

「ありがと。団吉がいてくれると心強い。あ、日向ちゃんごめん、二人でデートするのはもう少し先でもいいかな?」

「もちろんです! 就職活動が終わってから、一緒にデートしましょう!」

「ダンキチ、シュウショク……? って?」

「ああ、働くって言えば分かるかな、絵菜は来年卒業だから、そのあと働くんだよ」

「オー、はたらく。エナ、がんばって。わたしもいる」

「あ、ありがと。応援してもらえると嬉しいもんだな……」

「おっと、今日の目的を忘れていたわ、みんなでたこ焼きを食べましょう。日向、用意を手伝ってくれるかしら」

「あ、はーい! ああおもてなしおもてなしー」


 日向と母さんがキッチンの方へ行った。これから久しぶりにたこ焼きパーティだ。きっとみんな楽しんでくれる。そんな予感がしていた。

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笑われても、君が好き。大学生編 りおん @rion96194

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