第74話「再会」

 九月になったが、夏の暑さがそのまま残っているような気がして、もうしばらくエアコンのお世話にならないといけないかなと思っていた。

 今日も晴れていて暑い。そんな日に、僕は駅前に来ていた。というのも、今日は高校時代の友人がうちに遊びに来ることになっているのだ。久しぶりに会うので、ちょっと楽しみだった。

 ちょっと早く着いてしまったので、駅前のベンチに腰掛ける。空は青空が広がっていた。秋晴れにしては暑すぎる。

 しばらく待っていると、


「――日車先輩、こんにちは!」


 と、声がした。見ると天野くんがいた。

 そう、今日は元生徒会メンバーで集まることになっていたのだ。


「あ、こんにちは。早かったね」

「はい、僕は歩いて来れますが、九十九先輩と大島先輩は電車ですよね。もう少しかかるかな」

「うん、でももうすぐ着くってRINEが来てたから、待っておこうか」


 それから十分くらい経って、九十九さんと大島さんがやって来た。


「こんにちは、お久しぶり。今日はありがとう」

「二人ともお久しぶりね、ごめん待たせたかしら」

「九十九先輩、大島先輩、お久しぶりです!」

「ああ、お久しぶりだね。ううん、そんなに待ってないから大丈夫だよ。じゃあうちに行こうか」


 四人で歩いてうちまで行く。いつの間にか九十九さんが隣にいた。なんかこういうことが多かった気がするけど、たぶんたまたまだろう。

 駅前からは近いので、あっという間にうちに着いた。


「へぇ、ここなのね。本当に駅前から近いわね」

「うん、駅にも近いのが楽でね。でも周りは静かなもんだよ。みんな上がって」


 みんなに上がるように促した。


「おじゃまします! おお、なかなか広いですね!」

「わぁ、ここが日車くんのお家か……一人暮らしっていいなぁ」

「あはは、なんか自分に一人暮らしができるのか不安だったけど、なんとかなるもんだね。ジュース用意するから、適当に座って」

「あ、日車くん、お酒を買ってきたわ。九十九さんは誕生日がまだだけど、日車くんはたしか五月だったわよね」

「あ、うん。大島さんももう二十歳になったのか」

「もちろんよ。二人で呑みましょ」

「分かった。じゃあ九十九さんと天野くんにジュース出すね」


 コーラとオレンジジュースを用意して、テーブルに行くと、またいつの間にか九十九さんが隣に来ていた。


「お、おかしいわね、なぜか九十九さんが日車くんの隣にいる……相変わらず隙がないわ……ブツブツ」

「お、大島さん? あ、じゃあ乾杯しようか。久しぶりの再会ってことで」


 僕がそう言うと、みんなで「かんぱーい」と声を出してグラスと缶を当てた。僕と大島さんはビールだ。


「大島さんもお酒が呑めるんだね、なんか大人になったなぁって感じがするよ」

「ふっふっふ、私を甘く見てもらっちゃ困るわ。日頃男性に囲まれているから、こう見えて鍛えられてるのよ」

「おお、大島先輩も大人ですね! これはそろそろいい人ができたのでは!?」

「うっ、天野くん痛いところを突いてくるわね……残念ながらお付き合いをしているような人はいないわ。私の理想が高すぎるのかしら……」


 なにやらブツブツとつぶやいている大島さんだった。大島さんはたしか白馬に乗った王子様を待っているとかなんとか……あまり深くは訊かない方がよさそうだ。


「九十九さんはどう? 大学生活楽しめてる?」

「う、うん、友達もいるし、楽しくやってるよ。だんだん学ぶことが難しくなってきて、もっと頑張らないと……」

「そっか、まぁでも学年一位だった九十九さんなら、大丈夫だよ。自信持ってね」

「あ、ありがとう。日車くんは優しいのが変わらないね……カッコいい」


 九十九さんがそう言うと、隣にいた僕の手をきゅっと握ってきた。なんかこれも多かったような気がするが、気にしたら負けなのだろう。


「え、あ、いや、そうでもないと思うけどね……あはは」

「つ、九十九さん!? くっ、負けていられないわ……あ〜日車くん、ちょっと酔ってきちゃったかも〜」

「え!? 大島さん、まだ少ししか呑んでいないのでは……鍛えられてるって話はどこへ……」

「あはは、先輩方は変わらないですね、そこがいいと思います」


 なぜか慌てる大島さんに、きょとんとした顔の九十九さん、それを見て笑う天野くん。いつもの雰囲気は変わらなかった。


「なんかこうしていると、高校生だった頃を思い出すわね。なんかもう遠い過去のような気がしたんだけど、そうでもないのかもしれないわね」

「ほんとだね、あの頃も楽しかったな。みんなで色々なことを頑張ったね」

「うん、みんながいてくれたから、私も頑張ることができた……」

「ほんとですね、この四人で頑張ったのが懐かしいですね」


 最初は僕なんかが生徒会役員なんてできるのかと思ったが、この四人で頑張ったのだ。みんなでお互い支え合って、今はいい思い出として残っている。


「そうね、あれもいい思い出だわ。あ、一気に呑んだらお酒がなくなったわ、どんどん呑まないといけないわね」

「お、大島さんがお酒が強い人になってる……! なんか意外な一面を見た気がしたよ」

「ふふふふふ、ねぇ日車くん、今度こそちょっと酔ってきちゃったわ〜、今日は沢井さんもいないし、いいわよね」

「え!? な、何がいいのかよく分からないけど……って、ち、近――」


 ぐいぐい迫ってくる大島さんだった。これも前からよくあったような……いや、気にしたら負けなのだろう。


「日車くん、沢井さんは元気にしてる?」

「あ、うん、元気にしてるよ。ちょっと大人になったけど、雰囲気は変わらないかな」

「そっか、また沢井さんにも会いたいな……」

「日車先輩と沢井先輩は、変わらず仲良しなのですね! なんか安心しました」

「くっ、二人に何かあったらすぐ奪っていくつもりだったのに、相変わらずそこも隙がないわ……ブツブツ」

「お、大島さん? また何かブツブツ言ってるけど……まぁいいか」


 あれから年月は過ぎたが、僕たち四人の関係は変わらない気がして、僕は嬉しい気持ちになっていた。

 その日は夜までみんなで盛り上がった。久しぶりの再会とともに、懐かしい話をたくさんして、高校生の頃に戻ったような、そんな感覚になった。

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