第73話「二人に報告」
九月になった。
九月一日の今日は、ちょうど月曜日だ。私の学校は夏休みが明けて今日から始まる。団吉はもう少し夏休みだと言っていたな。
夏休みが明けたということは、就職活動がある。一応私も気になる会社を頭の中に入れて、学校にも申請したが、まだどうなるか分からない。緊張感がこれまで以上にありそうな、そんな予感がした。
今日の授業でも就職活動の話があった。そして秋に受けるネイリスト技能検定試験のことも。去年は三級に合格したので、今年は二級だ。そちらも自然と気合いが入る。
「ふぁーっ、今日も終わったねぇ、なんか今まで以上に緊張しそうな気がするなぁ」
私の隣で春奈が声を上げた。気持ちは一緒のようで、私は少しほっとした。
「ああ、自分にできるのかなって思っちゃうな……」
「お、絵菜もそう思うー? だよねぇ、言葉では簡単なんだけど、実際に受けるとなると話は違うよねぇ」
「そうだな、でもこれまで頑張ってきたから、大丈夫だって言い聞かせるのも大事なのかも」
「そうかもしれないねぇ、よし、前向きに考えていきますかー!」
春奈と話していたが、その隣で佑香が何かを話したいような顔をしていることに気がついた。私は佑香に話しかける。
「佑香、何かあったか?」
「……あ、い、いや、その……ふ、二人にちょっと聞いてもらいたいことがあって……」
「んー? どしたのー? あ、じゃあいつものように喫茶店に行きますかー。私も喉渇いちゃってさー」
春奈を先頭にして、いつものように学校近くの喫茶店に行く。佑香はなんだかもじもじしていて恥ずかしそうな感じがした。何かあったのだろうか。
「夏休みの間は来なかったから、ここも久しぶりだねー。あ、ケーキも食べちゃおうかな」
春奈がメニューを見ながら楽しそうだ。佑香はやはりどこか落ち着かないような様子だった。
三人で注文をして、ふっと一息ついたところで、私は佑香に訊いてみることにした。
「佑香、聞いてもらいたいことがあるって言ってたけど……?」
「……あ、う、うん……それが……」
恥ずかしそうにしていた佑香だったが、
「……き、昨日、小寺とデートして、私の気持ちを伝えてきた……そしたら、小寺も私のことが好きだって言ってくれて、お付き合いすることになった……」
と、ぽつぽつと話してくれた。
「……お、おおー! そうなんだねー! 佑香、よかったじゃーん!」
「そっか、佑香、よかったな」
「……う、うん……緊張したけど、嬉しかった……」
「ひゃぁー! またべっぴんさんの一人が結ばれたってことだねー! これはめでたい、今日はお赤飯にしないと!」
「……い、いや、そういうのはいいから……」
盛り上がる春奈に、恥ずかしそうな佑香だった。
「ま、まあまあ……でも、ほんとによかった。佑香も勇気を出して小寺に気持ちを伝えることができて」
「……う、うん……二人にもたくさん支えてもらったから、お礼が言いたくて……その、ありがと……」
「いえいえー、佑香のためならこれくらいなんてことないよー!」
「ああ、佑香が幸せになってもらうのが一番だ」
「……う、うん……あ、絵菜、団吉さんにもお礼が言いたい……ダブルデートとか、お話とか聞いてもらったし……」
「分かった、ちょっと電話してみる」
私はスマホを取り出して、団吉に電話をしてみることにした。すぐに団吉は出てくれた。
「もしもし」
「もしもし、ごめん忙しかったかな」
「ううん、大丈夫だよ。どうかした?」
「あ、それが、今春奈と佑香と一緒にいるんだけど、佑香が小寺とお付き合いすることになったって聞いて、佑香が団吉にもお礼が言いたいって」
「おお、そうなんだね、おめでとう……というのは変なのかな、ごめん、こういう時やっぱりどう言えばいいのか分からないな」
「ふふっ、それでいいと思う。ちょっと佑香と話してもらえると嬉しい」
私はそう言って、佑香にスマホを渡した。その時、注文したコーヒーやジュースが運ばれてきた。
「……も、もしもし」
「もしもし、鍵山さん? 絵菜から今聞いたよ、おめでとう」
「……あ、ありがとう……その、団吉さんにも色々お世話になったから、お礼が言いたくて……」
「いえいえ、鍵山さんの気持ちがついに小寺くんに伝わったんだね」
「……う、うん」
「小寺くんに鍵山さんの気持ちがなかなか伝わりにくいのかなと思っていたけど、本当によかったよ。二人とも仲良くしてね」
「……う、うん、ありがとう。あ、またそのうち団吉さんにも会えると嬉しい……」
「うん、分かった、またみんなでどこかに行こうか。考えておくね」
佑香が「……ありがとう、じゃあ、また……」と言って、私にスマホを渡した。
「団吉さん、なんだって?」
「……あ、おめでとうって言ってくれた……本当によかったねって」
「うんうん、そうだよねー、あー今日は素晴らしい日ですなぁ……って、あれ? 絵菜には団吉さんがいるし、佑香には小寺がいる……一人ぼっちなのは私だけ!? うわーん寂しいよぉ」
「ま、まあまあ……春奈にもそのうちいい人が現れるよ」
「ぐすん……出会いがないんですよぉ絵菜パイセン~。まぁ、私のことはいいとして、これから就職活動があるねぇ。三人で無事に就職できるといいねぇ」
「ああ、そうだな。これまで頑張ってきたから、きっと大丈夫」
「……うん、私もしっかりしないと……」
そう話して、春奈はアイスコーヒーを、佑香はオレンジジュースを飲んでいた。私もアイスコーヒーに口をつける。春奈はケーキも頼んでいたので、そちらを今から食べるみたいだ。
「佑香、あーんして。お祝いのケーキだよぉ~」
「……え、あ、うん……あ、美味しい。チョコレートがいい感じ」
「でしょー、はい、絵菜もあーんして」
「わ、私も……!? ……あ、美味しい」
「でしょでしょー、いいことがあった時は、みーんなでお祝いしないとねー!」
春奈がそう言ったので、私と佑香は笑った。
そうか、ついに佑香と小寺がお付き合いをすることになったのか。ちょっと時間はかかってしまったかもしれないけど、これから二人仲良く、いい思い出を作っていってほしいなと思う私だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます