第1話 そして、転生

 目が覚めると、そこは崩れかけた屋敷の様なところだった。外からは銃声や爆発音が聞こえる。転生してから一番最初がハードモードすぎると思いながら、見つからない様に移動しようとすると、屋根が吹っ飛んだ。破片が頬を掠める。

 大きな羽ばたきの音が聞こえてくる。パラパラと降り注ぐ埃と屋根の残骸が目に入らない様に天井があった場所を見ると、羽ばたきをしているのは鳥ではなかった。むしろ鳥の方が良かったまである。

「生き残りか、どうするかなぁ」

 大きな翼、水色の髪、角と尻尾。大剣を携え、血がこびりついた服を着た悪魔のような少女。俺、食われるのかな。

「お前、名前は?」

 猫の様な目で、こちらを睨みつける。底冷えするような殺気の籠った瞳。

「あ...ェ...」

 上手い具合に喋れない、というか喋ろうとして声が出ない。声を出そうとすると喉の奥が焼けているかのような痛みで口からは意味をなさない音と、空気が抜け出ているような音しか出ない。

「はぁぁぁ、、、、何だコイツ」

 彼女はいきなり俺の事を掴むと、そのまま空中へとジャンプした。正確に言うと空を飛んでいる。俺は米俵の様に肩に担がれている。正直に言わなくても怖い。

 落ちないように彼女の服をしっかりと掴み、そのまましばらく命がけの空の旅をしていると、地面へと降りたった。

 目の前にあるのは、広めのテントと思しきもの。少女はテントの中へと入っていき、誰かを呼んだようだ。

「お前、リュディに攻撃したら殺すからな」

 辺りの温度が一気に下がる。目の前の少女は、瞳孔が開き切った状態で俺を見ている。これ間違った判断したら問答無用で殺されるな。

「リエン、連れて来た子って、、、」

テントから出て来たのは、複腕のある物憂げな表情の美女だった。昔、本の挿絵に描かれていた女の人と似ている。アラクネ?という名前だった気がするけど、思い出せない。

「あぁ、コイツだよ。残党を探してた時に通りがかった辺境伯の屋敷に居たんだ。」

「なるほどね。普段仲間以外には容赦しない貴女が連れてくるなんて珍しいじゃない。」

聞こえてくる話を整理すると、水色の髪の少女はリエンという名前で、ここは野戦病院。残党探しの最中に俺が見つかり、彼女の気まぐれで助けられた........?!気まぐれ?!もしかしたらあそこで俺死んでたかもしれないのか。思考を巡らせていると、いきなり、リエン?手を引っ張られた。


「リュディ、コイツのこと治せないか?」


「別にいいけど、今少し忙しいから師匠せんせいに頼むけどいいかしら?」


「ゲッ、あのババアかよ...」


テントから、もう一人アラクネ族と思しき女性が出てきた。リエンさんや、リュディさんよりも年上に見える。


「誰がババアだって?アンタも大分ババアじゃないか」


「はぁ?!?!?!」


「リエンも、師匠も喧嘩しない!第一、ここでの乱闘はご法度ですよ!」


リュディが、喧嘩の仲裁をしている。俺はどうしたらいいのだろうか。そう思っていると、師匠と呼ばれた老齢の女性が俺に気づいた。


「リュディ、この子は?随分とみずぼらしい恰好じゃないか。」


「その子、あの辺境伯の家に居たらしいですよ。リエンが持ってきました。」


「なるほど、それでさっき話してたのね」


「はい、師匠なら治せると思って...私、患者の様子見てきます。」


「俺も、そろそろ行きますかね」


飛び立つリエンと、足早に立ち去ったと思いきや、何もない所でこけたリュディ。大丈夫だろうか?


「足元に気をつけな」


「いてて、、、はい」


これから何をされるのだろうか、一抹の不安と、恐怖が押し寄せる。安寧の日々には程遠い、この血生臭い戦場で、一人の転生者はただ怯えるばかりであった。

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夜明けのガーネット @novluno

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