夜明けのガーネット
@novluno
プロローグ
「なぁ、シュランディア。」
「次に生まれ変わったら、、、、」
そこで、視界は暗転した。
都内某所。
時刻は午前2時を少し過ぎたあたり、一人の男が瀕死で倒れていた。散乱した書類を集めようとするが、起き上がる事すらできない。ボロボロの体に鞭打って働いてきたツケが回ってきたようで、退勤しようとしたところで足を滑らせ階段から落下したのだ。頭を強く打ち、視界が不明瞭な彼を助ける者はだれ一人としていない。今会社に残っているのは自分だけなのだ。
「俺......死ぬんだなぁ...」
死にたくないなぁ、なんでこうなったんだろ。割れそうな、実際割れているであろう痛みで段々と意識が朦朧としてくる。辺り一面に散らばった書類には、血が付いているのだろう。
冷たくなっていく体と相反して、頭部はすごく熱い。
次生まれ変わる時は幸せな家庭に生まれたいなぁ、と在りもしない希望を未来に託し、意識は完全に闇に沈んだ。
杉浦 時雨(29)はかくして社畜人生に幕を下ろしたのだった。
気が付くとそこは、宵闇に包まれた廃墟ビルのような場所だった。
床は所々抜けており、天井は完璧に崩れ、満天の星空が見えていた。ビルからは見えない、美しい星々が。
しかし、この世界の異常性は直ぐに分かった。月が二つある。色白の肌を晒す病人のような月と、深紅の薔薇よりも赤い血の様な月が浮かんでいるのだ。
「なんだろ、これ」
地面に落ちていたボロボロの紙切れには、明らかに日本のものではない、もしかしたら地球のものでもない文字と思しきものが書かれていた。
もう一度、辺りを見渡してみた。先ほどは居なかった"ナニカ"が居る。
灰色のローブに、学生服に似たものを着ているソイツは、おおよそは人間の形をしている。
だが、無いのだ。生命活動に一番重要な頭部が。
頭の代わりに、カンテラが浮かんでいるソイツは抜けている床なんて気にせず、こちらへと近づいてきた。
『poks,md;la,c:ad,?[ca:p;le:wf.cds@px;:.eacd]s@:‼』
突然脳に響く、名状しがたい声。脳みそが掻き回されるような感覚に耐え切れず、思わず吐いてしまった。胃の中は空っぽだったようで、どんだけ頑張っても胃液しか出なかった。
『lk;,...aー、あー。ごめん、大丈夫か?』
「げほっ、ごほっ......おぇ、、、」
突然流暢な日本語で喋るようになったソイツは、吐き気が治まるまで背中をさすってくれた。
「ごめんなさい、いきなり吐いてしまって。」
『こっちもいきなり話しかけてごめんな!人間って脆いの忘れててさ。』
先程の異形は、異世界の神と名乗っていた。名前はアマネセルと言うらしい。何百年とこの空間で、人間を待ち続けていたと言う。
突然、思い出した!とでもいう風に手を叩いた彼は、ローブの中から何かを取り出した。
色とりどりの宝石......?の様なものだ。赤、青、黄色、その他にもたくさんの色がある。
『この中から3個選んで、それが次の君になるから』
訳が分からないが、とりあえず一通り見せてもらった。どの宝石もキラキラと、月の光に反射して輝いていた。
その中で一等魅かれたのは、いつか見た夕焼けを閉じ込めたような宝石。その他に選んだのは、南国の海の様に透き通った水色の宝石。そして、中に虹を閉じ込めた琥珀の様な色合いの宝石だ。
「アマネセルさん、これにします。」
選んだ3つを手渡す。彼は、他の宝石を全てローブの中に戻し、選んだ3つを受け取った。
『...本当にこれでいいのかい?それじゃ、次の世界でも頑張ってね。いつでも見守っているから。』
アマネセルが指を鳴らした瞬間、僕の意識は一瞬にして暗転した。
杉浦 時雨。
『君は、今回も選ぶんだね。』
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