第9章351話:戦いの結末

私がいかにフレッドを殺すことができたかを、リシアは知らない。


しかし、私がなんらかの特殊な『武器』を有していることは、警戒しているだろう。


その『武器』こそ、この魔法杖まほうづえである……と思わせるのが、私の狙いだ。


――――この戦場において、私はこの魔法杖を初めて取り出した。


リシアが警戒しないわけがない。


「……」


私とリシアが対峙する。


静寂。


次の瞬間。


リシアが動き出そうとした。


が……その前に私が、魔法杖を始動する。


魔法杖がひかかがやいた。


同時に、魔法杖の先端から、ピュ~ッと音を立てて、魔法弾まほうだんが打ち上がった。


「……!」


魔法弾を警戒したリシアが、動きを止める。


リシアの視線が一瞬、飛んでいった魔法弾のほうに向けられる。


(かかったね……!)


私は音波攻撃を確実にリシアに決めるため、一瞬のすきを作るために、魔法弾を打ち上げた。


つまり、あの魔法弾はブラフ。


リシアの注意を引くためのおとりだ。


そのブラフに、一瞬だけであるがリシアは引っかかった。


私はその一瞬を逃さない。


ショートソードを持つ右手の親指を動かして、音響指輪に触れた。


安全装置を外して、音響指輪のスイッチを押す。


次の瞬間。


キィィィィインッッ……!


と、音響指輪がうなりを起こした。


音波の波が空気を震わせ、波紋はもんのように広がっていく。


「……かはッ!!?」


空に打ちあがった魔法弾のほうに意識が向いていたリシアは、音響指輪による音波攻撃おんぱこうげきに、全く対応できない。


成すすべもなく直撃する。


耳から血を出して、その場に膝をつくリシア。


直後。



ドォーーーーンッ!!



と、空で音が炸裂した。


日本で生まれ育った私には聞き覚えのある音。


そう、花火だ。


――――【魔法花火まほうはなび


さきほど打ち上げた魔法弾の正体がソレである。


魔力に色をつけて花火のように見せかけたものであり、火や爆薬ばくやくを使っていないというだけで、見た目は普通の花火と変わらない。


つまりリシアは、ただの打上花火うちあげはなびの発射に釣られたわけだ。


私は、空に広がる大輪だいりんの花火を見上げた。


昼間ひるまの花火は、やはり見づらいね)


花火はやはり、夜に打ち上げるに限る。


このいくさが終わったら、アリスティたちと花火をやってもいいかもしれない。


「さて」


私はつぶやき、ショートソードを握った。


リシアは意識が朦朧もうろうとしているのか、座り込んだままガタガタと痙攣けいれんしている。


「これで、兄上にまつわる全てが終わりです」


私の言葉に、リシアは反応しない。


鼓膜こまくが潰れているので、私の声が届いていないのだろう。


……さっさと終わらせてしまおう。


私はそう思った。


ショートソードを振りかぶる。


そしてリシアの首を目掛めがけて、振り下ろした。


リシアの首が胴から離れ、ごとりとキャンピングカーの屋上に転がる。


「ふう……」


私は再度、空を見上げた。


打上花火うちあげはなびは消えていた。


あと、やるべきことはブロストン侯爵を捕まえるだけ……


それは姉上がやるか、あるいはアリスティが捕まえに行っているだろう。


私の戦いは、これで終わりである。

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追放令嬢、クラフトしながらキャンピングカーで異世界を旅します てるゆーぬ(旧名:てるゆ) @teru0024a

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