第12話 初めてのプリクラ


「…少し、落ち着いた?」

しばらくしてから僕がそうたずねると、彼女は小さく頷いた。

「もう大丈夫、ごめん…じゃなくて、ありがとう!!」

僕がさっき謝らないでと言ったからか、彼女はごめんねと言いかけて、ありがとうと元気に言った。

「私、まだ行きたいとこあるんだけど!!着いてきてくれるかな??」

「どんなとこか知らないけど着いてくよ。僕ここの辺りのことは全く知らないし。」

「よしっじゃあ行こー!」

彼女はさっきとは打って変わって、いつも通りのテンションで僕の手を引っ張った。

少しくらい大人しい方が僕にとってはありがたいかもしれないが、やっぱりいつもの彼女の方が見ていて安心できた。


もう一度建物の中に入り、エスカレーターで上に向かう。その間、彼女はウキウキしながら僕にずっと何か言ってくる。

「これも絶対遥人君初めてだよー?私が初めて奪っちゃうんだからねーーっ!!!」

彼女は、ニヤニヤしながら僕の肩を突っついた。

「僕の初めてが君にとって価値があるならそれは良かった。他の誰に聞いても価値ないって言うだろうけどさ。」

「そんなんだから友達が出来ないんだよ!自己肯定感上げてこーよー!!」

「無理だね、僕には。」

そんな会話をしながら、彼女はゲームセンターの中に入っていく。僕は何をするのか不思議に思ったが、黙ってついて行った。



「ほれー!プリクラ撮ろ!私がお金出すから!!」

「プリクラ……プリクラ……プリクラ!?」

「あはははっ!!なんでそんなに驚いてんのー?」

「いや、僕プリクラなんて撮ったことないし……あの顔が変になるやつでしょ?」

「変になるって何!!"盛れる"って言うんだよー!ほら、入って入って!」

僕は彼女に促されるまま、プリクラの機械の中に入った。中はすごく明るくて眩しい。


『鏡で前髪をチェックしてね♪』

どこからかそう言う声がした。彼女はひとりで「はーい」とか言いながら、鏡で前髪をいじっている。僕には変わったように見えなかったが。


『あと、10秒だよ☆』

またしても声がする。僕はどうすればいいのか分からなかったため、とりあえず足元に貼ってあったシールの上に立っておいた。


そして、撮影が始まった。

彼女はギャルピースとか指ハートとか、僕には到底理解できない謎のポーズを指図してくる。僕も見よう見真似で何とかペースについていった。

そして、やっと撮影が終わった。


「ふふーん、いいねぇ、楽しい!!」

彼女は嬉しそうに外に出ていく。

「撮り終わったら、次は何をするの?」

僕がそう訪ねると、彼女は笑いながら言った。

「えっ!!これからその写真を可愛くするんだよー!!知らなかったのッ!?」

「え、うん。知らないよ。」

「ほんとに世間知らずだなぁ、遥斗くんは。」

呆れたように肩をすくめる彼女の様子を見て、僕の方が呆れたよ。と言いたかった。


小さなモニターのようなのがあるところに行き、取り付けてあるタッチペンを取る。


隣にいる彼女は、慣れた手つきでそのモニターを操作して言った。僕には何が何だか分かりゃしない。

「ほら、こっからが本番!!」

「う、うん……。」

その画面には、さっき撮った僕たちの写真が映し出されている。端に、メイクだとか、なりきり、だとか、よく分からない単語が並んでいる。

僕には到底理解できない言葉だ。

きっと勉強をしても分からないだろう。


「ふふ、可愛い。遥斗くん。」

「………どこが?」

「だって慣れてないでしょ?可愛いなって思っちゃった。」

「……。」

なんと返せばいいのか分からずに、暫く沈黙が続いた。

その沈黙を破るように、彼女は急に叫んだ。

「これでおっけー!!!!」

「うわっ、耳元で叫ばないでよ、鼓膜が破けちゃうじゃないか。」

「そんなんで鼓膜は破けないよ~だ!!」

僕たちは外に出て、プリクラが出てくるのを待った。その間も、彼女は一方的に僕に話しかけてくる。


「ねぇ、遥斗くんってどこに住んでるの?」

「学校の近くだよ。意外に。」

「へぇ、って、学校の近くって多すぎない!?わかんないよー!!」

僕の返答一つ一つにリアクションを取ってくれる彼女は、まさに芸人だ。

でも、そんな彼女だから話すのが楽しくなる。


「あ!出てきた!」

ウキウキした様子でプリクラを取り出した彼女は、嬉しそうに僕にそれを見せてきた。

「……これ原型留めてないよね?誰?」

「うっわ、おじさん臭いねぇ…そんなんだから友達ができないんだよ??」

彼女は煽るように僕のことを見つめてくる。

僕は少し仕返しがしたくて、本当に傷ついたように落ち込んだフリをして見せた。


「あっ、えっ、あの…ほんとに傷付けるつもりじゃなかった……ごめん……ごめんね……」

彼女はさっきとは打って変わって、本当に傷付いた表情になる。僕は申し訳なくなって謝った。

「ごめん、傷付いてないよ。君に仕返ししたかったから。」

「はぁぁぁ、良かったぁ。地雷踏んだと思ったよーーもーー!」

安心したような表情を浮かべ、僕の肩をバシバシと結構強めに叩いてくる。


「君こそ、そんなに人のことをぶってると人が離れていくよ。」

「あっ、気をつけまーす」

彼女は敬礼をし、僕の方を向いてニコッと歯を見せて笑った。



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僕の心のマグニチュード 懋助零 @momnsuke109

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