イケメンの彼(年齢差有り!)が私を恥ずかしがらせるんですけど!
久我拓人
イケメンの彼(年齢差有り!)が私を恥ずかしがらせるんですけど!
「君と一緒にいると、時間が止まったような気がする。この瞬間を永遠にしたい」
カッコいい彼にそう言われて、私は気持ちいいまどろみの中でむにゃむにゃと何度もうなづいた。
ほんとにその通り。このまま、この柔らかくて気持ちいい時間を永遠に味わいたい。
「いつまで寝てるの! 起きなさい愛唯!」
「うわぁ!?」
イケメンの彼が一瞬にしてお母さんに変わったかと思うと、布団を剥ぎ取られてしまった。
「あれ?」
「さっさと準備しなさい」
どうやら私にイケメンの彼氏がいたのは夢だったらしい……
そういえばそうだ。私に年上の彼なんているわけがない。まだ中学校にもあがってないし、先輩もいないのだから。
はぁ~、と大きくため息を吐いてから私は小学校へ行く準備をした。顔を洗ってごはんを食べて、おトイレに行って、いつも通りの時間にランドセルを背負って家から出る。
「行ってきます」
気を付けるのよ、というお母さんの言葉を聞きながら玄関の扉をガチャリと開けると――
「あっ……」
お隣さんも同じように扉が開いた。
そして彼が出てくる。
「おはようメイちゃん」
「うっ……お、おはようソーシくん」
隣に住んでる藤枝蒼師くんは、私を見るとにっこりと笑った。
そして――いつものセリフを私に言ってくる!
「君と出会った日は、僕の人生で一番幸せな日だった。君に出会えなかったらと思うと心が張り裂けそうになる。今日という日も、朝から君と出会えたことの幸せを噛みしめているよ」
「うぅ……あ、ありがとう……」
そんな恥ずかしいセリフを、恥ずかしくもなく言ってくるソーシくん。そんなセリフを毎朝聞かされる私の身にもなってみろ、と誰かに言いたくなった。
でも、それを聞かされた人はだいたいこう言うんだ。
「ノロケ? はいはい、うらやましい限りで」
違う!
ぜんぜん違うの!
もちろんソーシくんは私に向かって言っている。私じゃなくて、実は私の後ろに幽霊がいて、とかそういうのではない。むしろ、そっちのほうが良かったと思うくらいだ。
じゃあ、なんで私が困っているかって?
それは!
ソーシくんの年齢が私より七年も離れているから!
「大学生!? それって犯罪じゃないの?」
って言われるかもしれないけど、それも違う!
反対!
ソーシくんは『幼稚園児』なの!
「どうしたのメイちゃん。かわいい君に、そんな表情は合わないよ」
ソーシくんは私に近づくとそっと手を頬に手を伸ばしてくる。でも、届かないだろうから、わざわざ私はしゃがんであげた。
近くで見ると分かるソーシくんのイケメンっぷり。将来、ぜったいにカッコ良くなる、っていう確信が持てるくらいに今からカッコいい。
でも身長も手の大きさも何もかもやっぱり幼稚園児で。
そのセリフと現実とのギャップで目がぐるぐると回ってしまいそうになった。
「どうしたの蒼師、遅れるわよ。あら、愛唯ちゃんおはよう。今日も送ってくれるの?」
「あっ、おはようございます、おば様」
ソーシくんのお母さん。外国人と日本人とのダブルで、とっても美人! おもわず『おば様』と呼んでしまう私の気持ちを分かって欲しい。
そんなおば様から生まれたんだから、そりゃソーシくんもイケメンだよね。だってソーシくんのお父さまもめっちゃイケメンだし。
約束されたイケメン。
それがソーシくんだ。
「蒼師は本当に愛唯ちゃんが好きね」
「運命だよ、ママ」
「ふふ。愛唯ちゃんの花嫁姿が楽しみだわ」
「え、ええ~……」
冗談っぽく言われても、私はそんな気の利いたセリフを返すことができなかった。だって、恥ずかしいもん。
「はい、メイちゃん」
ソーシくんが手を差し出すので、私は彼の手を握った。小さな手で、私のほうが大きい。それがなんとも奇妙な気がする。
私の憧れは、カッコいい彼にエスコートされて歩くこと。
なんだか半分だけそれが叶っている気がして。
「う~にゅ~」
奇妙な声をあげるしかない。
そんな私を見ておば様はクスクスと笑うし、ソーシくんはいつも通りのイケメンスマイルで私を見上げてくるし。
ほんと、キラキラ家族の隣に住むのって大変だ。
「愛してるよ、メイちゃん」
「へう!? そ、そそ、そういうことは人前で言わないものよ、ソーシくん」
「そう? ママはいつもパパに言っているよ?」
「か、家族はいいのよ、家族は」
「だったら大丈夫だね」
ふふふ、とソーシくんは余裕で笑った。
「僕たちは、もう家族みたいなものだからね」
そ、それってもうプロポーズなんじゃ!?
「ひいいあああああああああ!」
私は思わず悲鳴をあげて逃げてしまう。
これが、私こと愛枝愛唯と――
お隣さんの藤枝蒼師の――
いつもの朝、だったりした。
恥ずかしい!
~☆~
そんなソーシくんから恥ずかしい言葉を受け取る日々の中――
ある日、お母さんから言われた。
「今週の日曜日、蒼師くんの面倒をみて欲しいんだって」
「え?」
どういうこと?
と、私が聞き返すとお母さんはその理由を教えてくれた。
「なんでも外国から蒼師くんのお爺さんとお婆さんが来るんですって。それを迎えに行くのにご両親が朝早くから出掛けなきゃいけないみたいで。ちょっと蒼師くんには厳しいかな、ということなのよ」
ウチから空港まではかなり遠い。
ソーシくんが一緒だと確かに厳しいのは分かるけど……
「お母さんかお父さんじゃダメなの?」
「私、その日は仕事。お父さんも会社の用事があるって言ってて、愛唯だけなのよ」
というわけで、とお母さんから渡されたのはおこづかい。
「はい、自由に使っていいからね」
強引に手渡されてしまっては、もう断れないぞ。みたいな雰囲気を出したままお母さんはそのままお隣さんにオッケーと報告へ行ってしまった。
有無を言わさぬ、とはこのことだ。
「ぐぬぬ」
ソーシくんとふたりっきり、というのは……なんだかとっても恥ずかしい気がするけど。でも、おこづかいをそのまま自由に使っていいのは魅力的過ぎる。
「はぁ~」
仕方がない。
ソーシくんだって、一日いっしょにいれば恥ずかしいセリフなんか尽きてしまうはず。
そういう意味ではこれは有利なんじゃないかな。
いつも朝に会って挨拶するだけだから、あんなふうにポンポンと言葉が出てくるんだ。ここは一日ずっと一緒に過ごすことで、ソーシくんの素をあばいてやる!
というわけで、私はやる気まんまんでおこづかいをお財布に入れた。
そして前哨戦とばかりに――
「ソーシくん、日曜日のこと聞いた?」
お隣さんに遊びに行く。
言ってしまえば、ここは敵地。
どんな恥ずかしい言葉が飛んでくるのは分かったものじゃないが、ここならきっと大丈夫。だって私たち以外に誰も聞かれる心配はないから。
ソーシくんはちょうどおやつの時間だった。お皿に入れられたクッキーを食べてて、どうやらおば様が作った手作りのクッキーみたい。
ホットミルクとセットになってて、美味しそう。
「あら、いらっしゃい。愛唯ちゃんも食べる?」
「こんにちは。でも、ソーシくんの分なんじゃ……」
「いっぱいあるから遠慮しないで。さ、座って座って」
「はい、ありがとうございます」
ソーシくんと向かい合うように座ると、彼はにっこりと笑って頬杖を突く。お行儀が悪いよ、と注意する前にソーシくんが最初の攻撃をしかけてきた。
「朝だけじゃなくまたメイちゃんに会えるなんて。今日はとても良い日だね。たったこれだけのことで、僕は幸せになれるよ」
うっく!
で、でもこれくらいでヘコたれる私じゃない!
今まで何回もソーシくんの甘い言葉を聞いてきたんだ。まだまだ大丈夫!
「に、日曜日はいっしょに過ごすことになったんだけど大丈夫?」
「あぁ~、そのこと」
ふふ、とソーシくんは少しだけ腰を浮かせると手を伸ばして私の手に触れた。
「誰も邪魔なんかしてこない。やっと、本当の意味でふたりっきりになれるね」
「ふ、ふおおわあああ!?」
思わず手を引っ込めてしまう。
私の手を持ち上げて何をする気だったんだ、ソーシくんは!? もしかしてキス!? 手にキスしようとしたりなんかしちゃってええぇうえええええ!?
「はい、お待たせ。ホットミルクでいい愛唯ちゃん?」
「ははは、はいぃ!」
おば様がくすくすと笑いながらクッキーとホットミルクをテーブルに置いてくれた。
私はごまかすようにクッキーを食べる――え、なにこれ美味しい!
「気に入ってもらえて嬉しいわ。ごゆっくりね」
「はい~」
ホットミルクの温かさに、ほぅ、と息を吐いていると……ソーシくんがこっちを見ているのに気付いた。
「ソ、ソーシくんも食べなよ」
「うん。でも今はメイちゃんを見ていたい気分なんだ」
「ダ、ダメ。だってこんなに美味しいのに冷めちゃったらもったいないでしょ?」
「メイちゃんの言うとおりだ。でも、残念。もっと見つめていたかったなぁ」
ようやくソーシくんの視線が外れて、私はホッと息をついた。ホットミルクよりもホッとしてしまうのも、なんか変な感じ。
おやつを食べている間は、さすがのソーシくんも普通の幼稚園児になってしまう。いや、普通の幼稚園児はこんなにイケメンじゃないや。どうしてクッキーを食べている姿でさえカッコ良くみえてしまうんだろう。不思議。
「ごちそうさまでした」
あ、えらい。
ちゃんと手を合わせて、ごちそうさまって言うんだソーシくん。ちょっとギャップがあって、カッコいいっていうよりカワイイかも。
思わずソーシくんの新しい魅力を発見してしまった。
「メイちゃん」
「は、はい。なにかな、ソーシくん」
「日曜日、僕やりたいことがあるんだ」
「なになに? ゲームでもする?」
「デート」
「ん?」
いま、なんて言った?
「僕、愛唯ちゃんとデートがしたいな」
「デデデ、デート!?」
デートって……あのデート!?
「え、いや、でもそんな子どもだけで遊びに行くなんて――」
「あら、いいわね蒼師。愛唯ちゃんに連れてってもらえるなんて」
「おば様!?」
ごめんなさいね、とおば様は笑った。
「この子ったら動物園に行きたいって前から言ってて。良かったら連れて行ってくれる?」
「え、ええええええええ!?」
なんだか良く分からないけど。
私が否定する間も与えられず――
日曜日のデートは決定してしまったのだった。
~☆~
日曜日が来た――来てしまった!
「こ、これでいいかな。お母さん、変じゃない?」
「大丈夫よ、カワイイから」
がんばって、とお母さんに背中を押されて私は家を出た。一応はデ、デートなのでオシャレをしてみたんだけど……相手はソーシくんなわけで。
「なんで私、こんなに頑張ってるんだろ?」
初めてのデートはイケメンの彼氏がいい、なんて夢を見たこともあった。その半分はこれから叶っちゃうっていうのが何か変な気分。
「おはようメイちゃん。あっ……ふふふ」
ソーシくんは家の前で待っていた。私の姿を見るとなんだか意味深な笑い方をする。
「え、え、どこか変かな?」
「その逆だよ、メイちゃん。とっても可愛くて、とっても綺麗で嬉しくなっちゃったんだ。僕ばっかりこんな嬉しくなって悪いかな、って思ったらなんだか笑えてきて」
「そ、そそ、そういうソーシくんだってカッコいいじゃない」
いつもは幼稚園児らしい半袖半ズボンじゃなくて、今日はジーンズにちょっとオシャレなシャツっていう感じで、いつものイケメンっぷりがパワーアップしてる!
「私とのデート、楽しみにしてくれてたんだ」
いつもは私がやられてばっかりだから、今日は先制してやる。
と、意気込んだものの――
「もちろん。メイちゃんとデートなんだもん。今日は人生で一番幸福な日だよ」
そう言って手を差し出すソーシくん。
私は自然とその手を取ってしまって……手を繋いで動物園に行くことになっちゃった!
「あ、あれぇ?」
「メイちゃん、バスが来たよ」
「あ、うん」
動物園にはバスに乗っていく。ちゃんと調べてきたから私がしっかりしないと、と思ったけどソーシくんが率先して案内してくれた。
「凄いねソーシくん。バスの乗り方とか全部分かるんだ」
「前にパパとママに連れて行ってもらったことがあるから。メイちゃんとふたりで行く準備だったのかもしれないね」
それはないでしょ、と思ったけど……案外本気でそう思ってそうなソーシくんなので、油断はできない。
バスに乗ると、席が空いていたので座る。近くに座っていたお婆ちゃんが私たちのことを見てにこにこと話しかけてきた。
「あら、ご姉弟でお出かけ?」
そっか……そりゃ他人からはそう見えちゃうよね。
ソーシくんにとっては、ちょっとショックな言葉かも?
「はい。お姉ちゃんと動物園に行きます」
私の予想とは裏腹に、ソーシくんはおばあちゃんにそう答えた。
姉弟に間違われてもいいんだ、なんて驚いていると、ソーシくんは私の耳に近づいてこっそりと伝えてくる。
「僕たちがデートっていうのは、ふたりだけの秘密みたいだね」
ひゃー!?
ってバスの中で叫びそうになったけど、我慢できた私を誰か褒めて欲しい!
手をつないだままなのが、なんか余計に恥ずかしくなってきて。動物園に着くまでの間、ずっとドキドキしちゃってた。
動物園に到着すると、ふたりでチケットを買って中に入る。案内のパンフレットをふたりで開きつつ、どこへ行こうかと話をした。
「僕、象さんが見たいな」
「じゃぁ、象さんを目標に見ていこう」
ソーシくんが『象さん』っていうのがなんだか可愛くて、笑っちゃう。そして、いつの間にか手をつないでいるのが普通になっちゃってた。
なんだか自然に『デート』ができてるみたいで嬉しい。
「メイちゃん、抱っこできるところがあるよ」
「抱っこ!?」
手を繋ぐだけじゃなくて抱っこするの!? それは恥ずかしくない!? あと私とソーシくんじゃ大きさがぜんぜん違うから重くて持てないかもー! ごめんなさい!
「モルモットとかハムスターがいるんだって」
「……あ、そっち」
「そっち?」
「ん~ん、なんでもない!」
危ないあぶない、勘違いしちゃった。
というか、私が抱っこされる方を前程にしているっていうのも、なんかちょっとおかしかったよね。普通は私が抱っこしないといけないのに。
なんて思いつつ、抱っこができるコーナーに行く。
動物園のスタッフさんにそっとモルモットを抱かせてもらったけど、ふわふわで温かくて可愛かった。ハムスターもちっちゃくて、カワイイ。
これだけでも癒される~。
動物園、来てよかった~。
「モルモットもハムスターも可愛かったね」
「でも、メイちゃんの可愛さには勝てなかったと思うよ」
「はう! ま、またそういうこと言う~。恥ずかしいってば~」
「ホントのことだよ」
ソーシくんは、ちょっとイタズラっ子みたいに笑った。いつものクールな笑顔じゃなくて、幼稚園児らしい笑顔な気がする。
なんだ、そんな笑顔もできるんだね。
ちょっと安心しつつも、私たちは動物園を巡って象さんのいる場所までやってきた。
「おっきい~」
思わずそうつぶやいてしまう。
そこには二頭の象がいて、のんびりと過ごしている様子。
二頭だけかな、と思ったら子どもの象もいた。影に隠れて見えなかったみたいで、コチョコチョって感じでお母さん象の近くに移動している。
「かわ――」
かわいい、って言おうと思ったけどまたソーシくんに何か言われそうで私は黙る。ぜったい小象くんの方が私よりカワイイと思うし。
「わぁ~」
そんな私の葛藤なんか気にせず、ソーシくんは象さんに瞳をキラキラと輝かせた。
ほんとに見たかったんだなぁ、動物園に来たかったんだなぁ、というのが分かる。ホントは私とのデートより象を見るのが楽しみだったんじゃないか。
そんなふうに思ってしまって、私は笑った。
「あ、ちょっとおトイレ行ってくるね。象さん見てて」
「うん。ここで見てるね」
ひとりでゆっくり自由に見る時間も必要よね、と。
私はトイレに行ったのだった。
~☆~
トイレから戻ってくると――
「あれ?」
ソーシくんの姿が見当たらなかった。
「もしかして、移動しちゃった!?」
象さんよりも他の動物が見たくなっちゃったのか、と思ったけど……でも、あの賢いソーシくんがそんなことするようには思えなかった。
「なにより……わ、私のことが好きだし?」
その考えは恥ずかしいのだけれど、でもソーシくんが私を放っておいてどこか別の場所へ移動するっていうのは、なんか考えられない。
「なにか理由があったのか、それとも――」
そう思いつつ近くをキョロキョロと見渡すと……いた!
ソーシくんは、同じ年齢くらいの女の子と話をしていた。その場所は、ちょっとすみっこの方で物陰になってて見えなかった。
「もしかして、ナンパとか……?」
私とデート中なのに!?
なんて思ってしまった心のモヤモヤ感みたいなのを追い出しながら、こっそりと物陰に近づいてみる。
「大丈夫、すぐに見つかるよ。さぁ、こんなすみっこの方にいたんじゃ君のご両親も君を見つけることができない。かわいい顔をあげて、日の当たる場所へ行こう」
「う、うん……ひっく、うぐ、ママぁ、パパぁ、どこぉ~」
ソーシくんは女の子の手を優しく引いて移動し始めた。
どうやら迷子になった子を見つけたらしく、その子を助けるために移動したみたい。
それにしても――
「私以外にも優しいんだなぁ……じゃなくて、私以外にもそんな感じなんだ」
ソーシくんと会うのは家の前だったり、家だったりするので、幼稚園での様子とか知らない。てっきり私だけにあんな特別な感じだと思ってたんだけど……そうじゃなかった。
「うぅ」
なんだかそれを残念に思ってる自分がいてびっくりなのだが、それでも特別と言ってくれているソーシくんの言葉を思い出し、赤くなっていくほっぺたを抑える。
「なにをやってるんだ、私は」
人に優しくするのは当たり前。
ソーシくんが迷子の女の子を助けている姿に、心がザラザラしちゃってるのはちょっと変かも。
「あ、あれ?」
そんなふうに思ってる間にもふたりは移動を始めた。
ここで両親を探すんじゃなくて、どこか別の場所へ移動するみたい。私は慌ててふたりの後を追いつつ、パンフレットを開いた。
迷子センター。
みたいなのが、きっとあるはず。
「あった」
それを教えようと私は少しだけ早足でふたりに近づいたところで、ソーシくんと女の子の会話が聞こえてきた。
「さぁ、泣きやんで。君に涙は似合わない。できれば、僕の前では笑顔でいて欲しいな」
「ひっく……ん、あはは、なにそれ。大人のマネ?」
女の子がソーシくんの言葉に笑ってる。
ソーシくんは笑わせるために言ったんじゃないのに。と、思ったらくすくすとソーシくんも笑った。
「バレちゃった? こうやったらみんなが笑顔になってくれるんだ。ほら、君も笑顔になったでしょ?」
「あはは、そうかも」
上手い!
なんて思ってしまった。
いやいや、その対応とか私でもできないよ、ソーシくん。でも女の子の扱いが上手いっていうか、言葉巧みっていうか、なんというか、やっぱり普段からモテモテなんだろうなぁ。
そう思ってしまう。
「うぅ」
やっぱり胸の中心あたりがモニュモニュしつつも、ふたりの後を付いていく。自然と迷子センターの方に向かってるみたいで、私は大人しくふたりの後を歩いて行った。
「あ、ママ!」
「いた! どこへ行ってたの、探したのよ! 良かったぁ……」
女の子は迷子センターの前できょろきょろとしていたママを見つけ、その胸に飛び込んでいく。パパもすぐにやってきて、三人は抱き合って安堵していた。
「良かったね」
ソーシくんはそうつぶやいて、私に向き直った。
「後ろから付いてきてたって知ってたの?」
「僕がメイちゃんを見失うわけがないよ。だってこの地球で一番大好きな人なんだから」
「ま、またそうやって恥ずかしいセリフを言う……」
うぅ、と私は赤くなるほっぺたを抑える。
私たちは女の子と両親からお礼を言われて、バイバイ、と別れた。女の子はソーシくんを気に入ったみたいで、ぎゅっと手を繋いだけれど、諦めるような感じでお別れする。
「ねぇ、メイちゃん」
「なに?」
「僕が浮気した、とか思った?」
「お、思うわけないよ」
「それって、どっちの意味で?」
どっちの意味って、どういう意味?
「僕がメイちゃんを大好きだっていう言葉を信じてくれたのか、それともメイちゃんが僕を信じてくれたのか。どっち?」
「そ、そんなの――」
両方よ。
という言葉を言おうとしたけど、でもなんだかそれって究極的な告白のような気がして。
私はごにょごにょと口ごもった。
うぅ。
年下の男の子相手に、私はどうしてこんなにも照れちゃってるんだろう……
「ふふ。やっぱりメイちゃんはカワイイな」
「ひぇ!? も、もうソーシくん、そういうことは言わないでよぉ!」
「だって本当のことなんだもん」
「だ、だからぁ~」
「メイちゃん、今度はトラを見に行こうよ。僕がトラよりカッコいいってこと、メイちゃんに見てもらわないと」
「すごい自信だ。トラに負けちゃったらどうするの?」
「メイちゃんになぐさめてもらう」
「ずるい」
「あはは!」
ほがらかに笑うソーシくんの笑顔がカッコ良くてまぶしくて。
なんだかまた、ドキッとしちゃって。
私は熱くなるほっぺたを感じながらも――
「ほら、ソーシくん」
「うん、メイちゃん」
ソーシくんと手を繋いで動物園を歩いて行くのでした。
おしまい
イケメンの彼(年齢差有り!)が私を恥ずかしがらせるんですけど! 久我拓人 @kuga_takuto
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