第40話 Vtuber:※※※※※ (※※視点)
病室の窓からそっと吹いてくる風が気持ちいい。
いつも手に取る枕を空いているベッドへと投げて、私は一息吐く。
退屈だった心も、そよ風が何処かへ吹き飛ばしてくれる。
そんな気がして、私は風が好きなのだ。
しかし、そんな窓を面会人が閉めてしまった。
「それで良かったの? お兄さん取られちゃったのに、ブラコンの羽衣が黙ってるなんて」
「ふふっ、何を言ってるんですか……それは美波ちゃんのお陰なのですよ?」
面会人は
私こと
こうして直接出会うのは、久しぶりだった。
「もしもお兄様と乃彩さんに、あのような裏がなければ交際は認めていませんでしたよ。でも、まさかの公開告白なんてされてしまえば、乃彩さんを応援するしかないじゃないですか」
乃彩さんが炎上した件についても、美波ちゃんから教えてもらった。
お兄様が被害者に見える動画を見せられて、最初こそどう報復すべきかと考えたこともあった。
しかし、お兄様が動画の内容だけでは真実が語られていないといった内容の配信を始めたことで、私も真実を知ることが出来た。
「もちろん、これから乃彩さんが成長した後、コラボを申し込むつもりです。桃雲スモモとしても、彼女は無視するに惜しいですから」
そう、私は昔の伝手を使って今、バーチャルライバー『桃雲スモモ』として活動している。
以前、トイに『秘密を知っている』と仄めかした通り、私はお兄様がこっそりトイとして改心活動していることを知っている。
というより知っていたから、こういうこともあるだろうと美波ちゃんにお兄様を監視させていた。
「はぁ……ほんとよくやるよね~羽衣。『トイ善人説』なんて噂まで流して、ほんとは結くんに気付いて欲しいんじゃないの?」
「いえいえ、私は愛しのお兄様を見ているだけで充分ですよ」
これは本心。
そもそも先に妹である私を騙したのはお兄様の方なので、私にだってこっそり近づく権利がある。
それに、お兄様が私を『桃雲スモモ』と同一視するのは不可能。
なぜなら――前々回お兄様と面会した時、リアルタイムで『桃雲スモモ』は配信していたのだから。
頭の良いお兄様だからこそ、私のトリックに引っかかる。
まあそんな事はどうでもいい話。
「善人説だって――実際お兄様は善側なのですから、いいじゃないですか。それとも美波ちゃんは私のお兄様が悪人だとでも?」
「……どちらかというと結くんは悪よりだと思うよ」
「むうっ……」
否定されて唸る事しか出来なかった。正直、私としてはどちらでもいい。
たとえ悪人だろうと、お兄様はもっと評価すべきなので、ちょっと日本のトレンドで一位を取る程度の噂を流しただけに過ぎない。
「だけどまあ、乃彩のんがどうにかしてくれるよ」
「……そうですね。暫くは高みの見物でもしておきます」
「なんか羽衣、ラスボスみたいな言い方だね……」
それは仕方ない話。
元々お兄様とコラボしたくて始めた『桃雲スモモ』も、私の手術中に『T0Yチャンネル』の数字を越して、気付けば大人気バーチャルライバーになっていた。
数字があるというのは、それだけ責任があるということ。
すっかり『ニュージェネ」の顔になってしまったお陰で、『T0Yチャンネル』とのコラボは事務所NGが出てしまったのである。
だから以前あのチャンネルに関する配信を行ったことは、事務所からとても怒られた。
まあ蝶姉が何とかしてくれたし、私は反省なんてしていない。
また隙があれば、お兄様に絡みにいくつもり。
「ふふっ、お付き合いは許しますが、私を倒さずしてお兄様との結婚だなんて許すつもりはありませんからね」
「ほんと、ブラコンなんだから……まぁいっか」
それも仕方ない話。
お兄様は残された私の家族。
蝶姉も家族だけど、妹というものは兄に甘えたくなってしまうものなのです。
彼女との交際を許したのは私なりの献身。
お兄様を乃彩さんに譲る気は、元よりさらさらない。
(なので、冗談じゃないのですよ? お兄様)
私の方が、可愛いのですから――。
私の方が、お兄様を愛しているのですから――。
『――――……
寝取っても構わないのでしょう?
……――――』
୨୧┈••┈┈┈┈┈┈あとがき┈┈┈┈┈┈••┈୨୧
本作を最新話まで読んでいただきありがとうございます。
これにて第一章終了・・・という感じで締めさせていただきます。
羽衣のトリックは、わかりやすいヒントがあるので、自力でも解けます。
どうしても正解を知りたい人は、作者に直接聞いてみてください。
※この件についてコメントで質問されても答えません。
ではでは~!
୨୧┈••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••┈୨୧
嫌われ配信者が炎上したクラスメイトを助けたら、評価が一変した 佳奈星 (Kopfkino.) @natuki_akino
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。嫌われ配信者が炎上したクラスメイトを助けたら、評価が一変したの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます