異世界で異世界の小説を書いたら、売れっ子小説家になってしまいました

@kamorin81

第1話 アラサー男の苦悩

「うーーーーーーーーーーーーーん・・・・・・」


今日何度目になるかわからない、唸り声を上げて、俺は書き損じの原稿用紙をゴミ箱に放り投げた。


ゴミ箱の周りにはくしゃくしゃに丸められた原稿用紙の山ができている。


コントロールはお世辞にも良いとは言えず、ゴミ箱に向けて放った原稿用紙がちゃんとゴミ箱に収まることもあれば、外れてゴミ箱の周辺に落ちることもある。


だいたい、その確率は普通であれば半々程度なのだが、煮詰まるとだいたいは外れるのでゴミ箱の周りは悲惨な光景となる。


もう何度目だろう。自分の思い通りにならずに原稿用紙のゴミだけが山のように溜まっていく光景を見るのは。


俺の名は本山光。今年29歳。いわゆるアラサー。半年後にはついに30を迎えてしまう。


30歳までに芽が出なければ、俺はこの道を諦めることを両親から約束させられている。


昔…そう…もう10年以上も前の話だ。


高校3年だった俺は、とあるライトノベルに夢中だった。


今風に言えば『陰キャ』だった俺は、クラスにあまり馴染むことができず、高校時代は友人との付き合いなどはほとんど無く、もっぱらライトノベルばかり読んでいた。


妄想癖があった俺は、ライトノベルの主人公になったつもりで、自分の世界にこもった。


クラスでは冴えない、ただのいち男子であったが、自分の妄想の中では、俺は勇者であり、囚われの姫を助け、魔王を倒す血気盛んな若者だった。


そんな妄想ばかりの生活を送り、卒業と同時にそれなりの大学に入った俺は、ふと自分でも物語を書けるのでは?と思い立ち、ライトノベルを書き始めた。19の時の話だ。


その時に書いた小説がたまたま、ライトノベルの新人賞の最終選考まで残り、俺は小説家デビューの一歩手前まで行ったのだ。


しかし、最終的に入選には惜しくも届かず。小説家デビューには至らなかった。


だが、この結果は俺に全く根拠のない自信をもたらした。


俺には才能がある!次はもっと面白いのを書く!そして、次こそは入選し小説家デビューだ!と大学の勉強そっちのけでライトノベルを書くことに没頭した。


没頭した結果、大学の単位はギリギリになってしまい、なんとか留年はせずに卒業はできたものの、大学卒業時でも芽が出ていなかったにも関わらず、俺はライトノベルを書き続けた。


ライトノベルをただ書きたいがために、ろくな仕事にもつかずバイトで日々の生計を立てる俺を両親はしばらく呆れながら見守っていたが、いよいよ堪忍袋の緒が切れたのか、いい年をして飽きもせずライトノベルを書き続ける俺に対して一つの要求をつきつけた。


それが、最初に言った30までに小説家デビューできなければ、もうライトノベルを書くことは一切辞めて、普通の会社員として仕事をして欲しいという要求だ。


両親はそこそこの収入があり、俺はいわば親のすねかじりとでも言う暮らしぶりなので、この両親の出した条件に対して不服を申し立てることはできない。


書くことが好きな俺にとって、ライトノベルを書けなくなることは耐え難いことだ。


しかし、両親に生活費の一部を支援してもらっている以上、自分の道を通すことは小説家デビューする以外にはない。


条件を出された時は、30までまだ2年ほどあったので、なんとかなると思っていたがなんともならなかった…というのが今の現状である。


我ながらなんと楽天的だったのかと、自分の浅はかさに呆れつつ、今日もまた、面白い物語を書こうとまっさらな原稿用紙の前に向かっている…それが俺のリアルだった。


約束の30の誕生日が迫りつつあるプレッシャーが、俺の思考と筆を鈍らせる。


自分が思うような物語が書けず、ある程度書き出しを原稿用紙に書いてみるが、気に食わないのでその度に丸めて捨てる。


これを繰り返すうちに、小説を書く時はゴミ箱の周りに原稿用紙の残骸が無惨に残るのがおなじみの光景となってしまった。


その丸められた紙くずとなったものは、自分に対してお前は才能が無い、物語を書くことなんて諦めろ!と無言の圧を放ってくるのだった。


自分としてももう面白いと思う話が出てくることはないし、常に原稿用紙の前で唸っている自分を情けなく思う。


しかし悲しいかな、それでも俺は書くことを諦められないのだ。


これが今の俺の日常だった。


あと半年の期限が迫る中、出口の無い袋小路に迷い込んだ哀れな子羊は、今日もまたあがき続ける…

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