話し合い

真弥翔が走り去ってしまった後のこと。


「真弥翔…」


真弥翔の母、由香ゆかが息子の名前を呼びながら立ち尽くす。


「…由香」


そんな由香を見ながら真弥翔の父である辰巳たつみは声をかけた。


「…」


そんな声に由香は反応しない。


「お父さん…」


次に紗奈が辰巳に声をかける。


「紗奈…」


辰巳は紗奈の声に気づき、そちらに顔を向ける。


辰巳は紗奈を見たあと、顔を歪ませた。


「…静月と関係を持ったのか」


辰巳は静かにそう言った。


「…だ、だってお母さんがあの人を家に連れてきたから」


今まで真弥翔の去った方向を見ていた由香がその声に反応して会話に入ってくる。


「そ、それは…」


だが由香は口ごもる。


「…とりあえず話し合おうか」


そして一度家に入る。


「…」

「…」

「…」


三人の間に気まずい沈黙が流れる。


「由香、紗奈」


辰巳が二人に声をかけると二人は肩をビクッと震わせた。


「静月と…関係を持ったんだな?」


辰巳がそう言うともう逃げられないと悟ったのか由香が口を開いた。


「…そうよ」


あまりにも簡単に吐き出されたその言葉は辰巳に怒りを募らせた。


「なにがっ…!」


だが辰巳はその怒りを無理やり押さえつけた。


「そうか。真弥翔は私が引き取る」


辰巳がそう言う。引き取る。つまり離婚した後の話をしているのだ。


「待って!それは…」

「なんだ?」


何か言おうとした由香を辰巳は睨みつける。それだけで由香は黙ってしまった。当たり前だ。今は由香のほうが圧倒的に不利な立場にいるのだから。


「文句はないな?」


辰巳がそう確認した時、今まで黙っていた紗奈が声を発した。


「…ねぇ、お父さん。その指の指輪…誰との指輪?」


そう言われた辰巳は心臓を飛び跳ねさせた。


「…何の話だ?」

「私、お父さんがつけてた指輪覚えてるよ。絶対に今つけてるやつじゃなかった」


紗奈がそう言うと由香が反撃の糸口を見つけたかのよに目を光らせた。


「…あなたも一緒なんじゃない」

「ち、違う!私は浮気なんて…」

「浮気してるわよ。だってあなた、私と離婚する前にその指輪を手につけてしまっているじゃない」

「…」

「…」


そして再び訪れる沈黙。


「お互い何も無かった。そういうことにしないか?」

「…そうね。あなたが海外に行っている間、私たちは何もしていない。それでいいわね」


そこには真弥翔が知っている両親はいなかった。慰謝料に怯え、お互いの不祥事を揉み消す醜い大人が二人いるだけだった。


「私は少しの間休暇を貰っている。その間はこの家にいる。その方が真弥翔に怪しまれないからな」

「…そうね。そうしてちょうだい」

「…」


そんな会話をしている二人を眺めている紗奈は自分のとってしまった愚かな行動を後悔していた。



【あとがき】


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大切なもの全てに裏切られた俺は心が壊れてしまった Haru @Haruto0809

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