サンタがお届け

草群 鶏

サンタがお届け

「お待たせしましたー、クリスマス4のLサイズと……」

「あれ?」

「はい?」

「もしかして寺崎?」

「あっ、うそ、橋場さんって橋場さんのこと」

「何言ってんの」

 ピザを注文したら、配達に来たのはクラスメイトだった。かわいそうにサンタクロースの格好をさせられている。ひょろ長い男子高校生には絶妙に似合わないうえ、生地のだぶつきが見るからに寒そうだ。

「えっ、どうしよ、追加でハラペーニョソースいる?」

「気遣わなくていいよ、ていうかそれサービスじゃないでしょ」

「でも橋場さん辛いの好きでしょ」

 寺崎とはクラスが一緒なだけで特に親しくない。ちょっと引いた。

「なんで知ってんの、若干キモいんだけど」

「たまたま聞こえたんだよ、橋場さん声でかいから」

「うるさいな」

 ピザの箱をふたつ受け取ってドアを閉めようとすると「まだポテトとナゲットあんだけど」と足で阻まれる。くそ、脚長いなこいつ。

「はい、サイドのパーティーボックスでーす」

 差し出された箱には、要らないって言ったのにハラペーニョソースが山と積まれていた。諦めて受け取るも、あんまり多いからざらざらと崩れてくる。間一髪、とりあえず床に置いてしまう。

「おねーちゃんまだ?」

「あれ、妹?」

 顔を出した妹は微妙な空気を察したらしい。

「え……恋人はサンタクロース的な……?」

「ネタが古いんだよ」

 一喝すると「ひゃー!」と声を上げて駆け戻っていく。面倒なことになったぞ。

 向き直った先の寺崎も、所在なさげにしている。

「じゃ、お会計はクレジットでいただいてますんで、これで」

「あ、どうも」

 彼は手早く保温バッグを畳んで立ち去っていく。リビングに戻ったらあることないことからかわれるんだろうな、そう思うとすこし憂鬱だったが、こいつはこのあともバイトなのだ。

 このまま帰していいんだろうか。

「寺崎!」

「はい」

 私はサンダルをつっかけて玄関先に飛び出した。

「えっと、あれだ、良いお年を!」

 振り返った寺崎は一瞬目を丸くして、ふはっと口元のマスクをふくらませた。

「どっちかっていうとメリークリスマスでしょ」

「あ、そうか」

 慣れないことはするもんじゃない。でもおかげで空気がまるくなって、気持ちもすこし優しくなる。

「バイト頑張ってね」

「おう、実はめっちゃ忙しいんだよね」

 颯爽とロゴ入り原付に乗って夜道を去っていくがりがりのサンタクロース。原付乗れるのかあ。感心していると、角を曲がるころに「ばいばい」と手を振られて不意打ちを食らう。

(けっこういいやつじゃん)

 がんばれサンタ。メリークリスマス。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サンタがお届け 草群 鶏 @emily0420

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る