第43話 ずっと一緒にいてね
かぶと虫
あれ以来ますます外に出る事がなくなり、いつもテレビの前から離れない夫
妻 ねぇ、そろそろ桜が満開よ
見に行かない?
裏の川沿い、綺麗よ
夫 ……
妻 はい、これに着替えて行こう!
夫 うるさい!
最近怒りっぽくなってきた夫
これも認知の進行なのか...…
妻 ねぇ、覚えてる?昔のこと……
息子の町内野球チームの応援
夫 ああ!よく行ったね!
昔のことはよく覚えてるみたいで
特に野球好きの夫は息子の応援に行っていた事はよく覚えていた……
妻 又今日も負けたねって私が言ったらあなた、
妻 練習不足だ、帰って特訓だな!
なんて良く言ってたね
試合に負け落ち込んだ息子と、夜遅くまで野球の練習する夫
あの頃はとても輝いていたなぁ
少し嫌がる息子だけど、
夫の熱心な練習のおかげか
打ったね、ホームラン
とても喜んでいたよね
あなた、覚えてるよね
思い出話ならきっと夫も笑ってくれる筈、また外に出るきっかけになるかもしれない
そう思ったのに、夫は相変わらず
不機嫌なようだ
夫 うるさい!飯っ!
妻 はいはい、待ってね
おかしいなぁ?さっき食べたばっかりなのに、昼には早いし……
お腹が空くのかな?
認知のせいか怒りっぽくなった夫
昔なら腹が立ったけど、
今は不安な気持ちが大きくて、怒る気になんてならない
私がしっかりしないとね!
妻 ねぇ、あなた聞こえてる?
今日は私の誕生日よ覚えてる?
本当に聞こえてるのか聞こえてないのか、最近はとうとう何も喋らない……ねぇ聞こえてるの!?
妻 ボケちゃったのかしらーーー
母はいつも父の前で喋っている。
朝から晩まで……
最近の母の定位置で
仲良くグランドゴルフに行っていた父と母は
父が足を怪我してから二人であまり出かけなくなった
そして、父はもう母の幻……
妻 ねぇ、あなた覚えてるかな?
良く2人で行ったお店何だっけ
妻 ねぇ、あなた、覚えてるかな?
聞こえてる??
突然父が倒れたあの日から母はいつもの定位置で
ずっと同じ会話をしている
毎日毎日同じ繰り返し
父に呼びかける母の声は懸命で、本当に父が、何だ?なんて返事をしそうにも感じる
そう、母も認知症になった
わたし(娘)との生活が始まって
一年が過ぎた春のことだった
突然母は倒れた
微かに聞こえた母の最後の言葉は……
妻 ねぇ、あなた覚えてるかな?
死ぬまで一緒にいてね、
約束したでしょう?
やっとまた一緒ね……
母が残した日記には、父との思い出がいっぱい詰まっていた
日記のタイトルは かぶと虫
最後のページの日記を閉じたとき、母の声が聞こえた気がした
ねぇ、あなたこれからはもうずっと一緒ね
番のかぶと虫は、土の中でまた巡り逢ってまた次も次の次もずっと一緒にいるのだろうか?
私は覚えている
ねぇ、ずっと一緒にいてね
そう言った母から顔を背けて
口元を嬉しそうに緩める父を
あぁやっぱり、聞こえる
妻 ねぇ、あなた覚えてる?
あなたっていっつもそう!
また一緒よ、って言ってるのよ
夫 ああ、そうだな
かぶと虫
ーー終ーー
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
これでかぶと虫は完結とさせて頂きます。
ご愛読ありがとうございました。
❤️⭐️コメント心よりお礼申し上げます。
かぶと虫 @niku_9
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