釜猫さんって

 頭頂部できっちり分かれている、右には黒髪、左には蛍光緑の髪。胸元まであるその髪は異様な雰囲気を醸し出しており、その髪色のせいで勝手に俺がビビり散らかしている女の子、釜猫さん。彼女は隣に来ると、すとんと椅子に座った。開口一番何を言うのか注目して見ると、こっちを向いて、「よろしくね」とだけ言った。しかもちょっと微笑んで。

 え? あれ、舌打ちとか、そういうのされないの? むしろ少し拍子抜けしてしまい、驚きの表情が隠せなかったが、彼女は正面に向き直り、凛とした表情で先生の顔を見ていた。その視線は真っ直ぐで、曇りなかった。それを見て俺は恥ずかしくなった。見た目だけで、釜猫さんを判断していた俺が馬鹿だったのだ。俺も赤い顔で向き直り、正面を向く。隣の彼女はどうやら小中学校での女子とは違うみたいだ、そう感じた。




「おい、ボール行ったぞ! 」

「はい! 今取り行きます! 」


 ボール拾いの最中、取りこぼしたものを先輩に見つけられ声をかけられる。いかんいかん、部活に集中しなければ。どうも、自分が思っていた釜猫さんは大きく違ったようで、ぼーっとしてしまっていた。

 ボールは体育館の外に繋がる扉の方まで行ってしまっており、駆けていく。外に出るまでには回収したい……! と思ったが、間に合う速度で回転はしていないボールは待ってくれず、外へと飛び出た。うわやっちまった。そう思ったが、ボールの先に人のふくらはぎが見えた。


「あ、ありがとうございます」


 急いで駆け寄り、その人を見れば、蛍光緑の髪が目に入った。


「いえいえ。頑張ってください」


 釜猫さん!? なんで、と思う暇もなく、彼女は校舎の通路を歩き始めていた。


「おい! 保樽ほたる! 」

「あ、はい! 」


 怒鳴られ、俺は彼女の背を見、踵を返した。

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ほたるとねこ 野坏三夜 @NoneOfMyLife007878

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