パートタイム聖女
京泉
【短編】 パートタイム聖女
今日も十時に家を出る。
玄関を開けたらそこはもう異世界。
私を出迎えてくれているのは輝かんばかりの美貌を持った青年達だ。
「聖女様今日もよろしくお願いいたします」
「今日からいよいよ魔王城です! 聖女様どうかご加護を」
「必ず平和な世を取り戻しましょう」
「私達なら魔王にきっと勝てます」
銀の鎧に真っ赤なマントの勇者はリジカーネス・ニートリア。国の危機に勇者として目覚めた彼はこの国の王太子。
彼の後ろには黒いローブを被った次世代宰相となる魔導士ワーク・ルース。黒の鎧に青いマントの次世代騎士団長になる竜騎士ブレイン・ミトヘッド。橙色の武道衣姿の次世代筆頭公爵になる拳闘士セキュリー・ティホム。
彼らはこの国を背負う青年達。
皆やんごとなき立場の後継者。
後継者って言ったら極端な話、警護がついたり分単位で勉強したり隔離レベルで大事に大切にされるもの。それなのに世界を救う為に自ら魔王達と戦わせられて彼らのご両親は何かあったらと心配よね。
⋯⋯私は必ずこの子達をご両親の元へ返してあげないとならないのよ。
「よろしくお願いします」
フリルたっぷりのエプロンドレスに大きなしゃもじが武器の聖女様。
私はパートタイムで聖女をやっている。
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私は極一般的な主婦。
なのになぜ異世界で聖女をしているのか⋯⋯実は深い意味は特になく、よくある理由からパート先を探していたのだけれど、人によっては幸運だと思うかも知れない来訪者と出会ったから。
その日も普段と変わらない一日の始まりだった。
通勤に一時間かかる旦那を七時半に送り出し、続いて八時に子供を園バスに乗せた後に洗濯機を回しながら窓を開けて空気の入れ替えをしつつ布団を上げて掃除。
朝食の片付けと洗い終わった洗濯物を干して一息吐いたのは十時近くだった。
私は新聞を広げて淹れたインスタント珈琲の苦さ以上の苦いニュースを読んでいたの。
確かまた値上げされる食品の記事だったわね。
物価は上がる一方なのにお給料が上がる気配がないのなら、コツコツ型資産運用です。なんて誰もが利益を得るわけじゃ無いし、無理矢理算出した少ない元金で利益を出そうとしたらむしろ損失の方が大きくなる投資で資産運用をしろと書かれていてうんざりしていた。
資産運用は余剰資金から。投資の基本でしょうに。
鬱々と考えながらこのご時世だもの私もパートタイムに出ようか⋯⋯でも毎日十時にならないと家の事はひと段落つかないしこの後お風呂掃除をして洗濯物を取り込んで畳んでお布団敷いて買い物に行って夕飯の準備とある。
私は時間の使い方が器用な方では無いから時間の融通が利く仕事なんて簡単に見つからない。
それにせめて子供の義務教育の内は家で「お帰りなさい」と言いたいな、なんて考えていた。
そんな時。
インターフォンが響いて私が聖女のパータイムに出る事になったのだ。
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あの時の私はどうかしていたと思う。
いくら物価高に不安になっていたとは言え異世界から来たと言う不審者の言葉に乗ってパートタイムで良いならと答えたのだから。我ながら警戒心が薄く危機管理出来ない割に無駄に適応力があるものだわ。
それに対してどこでこちらの法律を覚えて来たのやら「十分です! なんなら扶養範囲内で調整出来ます」と返して来た不審者もとい、魔導士のワーク・ルーズも異世界適応力が高いと思う。
基本は週三日。十時から午後三時迄。一時間の休憩有り。
時給は千五百円。そこに成功報酬とか臨時手当が入る。
異世界で稼ぐのだから所得申請しなくても良いんじゃないかなんて気楽に考えていたのだけれど、驚いたことに今の時代異世界転移はよくある事らしく私の住む世界と異世界で規定が結ばれているのだと言う。
少し前は不本意に異世界へ連れて行かれ帰って来れない上に酷い目に遭ったり、勝手の違う世界で命を落とす人もいたそうだ。
そこで異世界転移者保護の為、お互いの世界の偉い人達が動いて今では承諾を得ない転移は禁止となり、転移者保護が異世界では転移者を呼ぶ場合の絶対条件として世界の仕組みに組み込まれたとか。
だから異世界へ転移する者は転移する異世界とその報酬や内容を自分の世界の国へ申請しなくてはならず、当然所得申請も行わなくてはならないのだと役所の異世界課で説明された。
異世界課いつの間に出来ていたのやら⋯⋯。パートタイムを始めるにあたり私が勇気を出して役所の総合案内で「異世界転移の相談」と言ったのに役所の人は「それではこちらで申請をお願いします」と平常運転だったわ。
⋯⋯今でも信じられない。いや、有ったのだから信じるしかないけれど。
それから異世界にパートに出る際、異世界保険とやらにも入ったのよ。
異世界で怪我をしたり病気になったりしたら保険金が出るのだそう。「海外旅行保険のようなものです」って担当の営業マンが言っていたわね。
でも私は聖女として転移するのだから怪我も病気も異世界パワーで治せそうだし入らなくても良いかなって思っていたのだけれど保険に入れば貰える飛騨のさるぼぼみたいなお守りが可愛くて入ったのよね。
何でも営業マンの手作りらしく持っているとあらゆる危険が跳ね返るのだとか。だからちょっと図々しいとは思ったのだけれど勇者ご一行の分も貰えるか聞いたところ「何個いりますか?」って嬉しそうに営業マンが言うものだからお言葉に甘えてカラフルなさるぼぼを人数分貰って配ったの。
そのおかげか聖女のパートタイムに出てから一年。私も勇者君達も大きな怪我もなく病気もなく、家庭の財政も少し余裕ができた。
始めたころは聖女なんてやれるのかなと不安だったけれど今ではすっかり慣れた。
ニートリア王国も魔王軍に攻められてどれだけ悲惨な状態になっているかと思いきやのんびりとしたいい国で私もこの長閑さを守りたいって思った。
そして⋯⋯いよいよ魔王城。
重い扉がギチギチと音を立てて開いた。
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「オーフェス・ディーフェス」
「さあ行くぞ!」
ワーク君が呪文を唱えると身体にキンとした感覚があって攻撃力と防御力が上がった気がする。
それを合図に私達は魔王城に突入して廊下を走った。
「えいやっ!」
長い廊下を走り階段を幾つも降りる間にも魔物は襲ってくる。
私はハエ叩きの要領で大きなしゃもじで飛んでくる魔物を打ち落としながらみんなに遅れないように必死でついて行く。
ブンブンと飛ぶ魔物を打ち落とすのが少し楽しくなっていた私の前に突然大きな影が落ちてその直後にズシンとした衝撃があった。
「聖女様! 大丈夫ですか!」
「はいっハエ叩きが面白く⋯⋯いえ、ごめんなさい油断しました」
「細かい奴らを一掃します!」
「獣型は俺に任せろ」
リジカーネス君が大きな剣を軽く振り上げて私の前に現れた魔物を斬り伏せ、飛んで襲ってくる巨大なハエみたいな魔物をブレイン君が高速で槍を繰り出し一掃する。
ボタボタと落ちる魔物を飛び越えてセキュリー君が回転しながら毛むくじゃらの魔物を蹴り倒し、トドメに両手から衝撃波を撃った。
「みなさん、強くなりましたね」
しみじみと感心すればリジカーネス君達は照れたように笑う。
そう、実は出会った頃の彼らは何と言うか無気力? そんな感じだったのよ。
勇者だ何だと選ばれてその責任の重さに潰されているのかなと思ったけれど違って⋯⋯実の所この子達は凄く面倒臭がりで、外に出れば暫く蝶々を追いかけて疲れたら無言で部屋に戻り、それからはゴロゴロ。
それなのに「俺は世界を救う」「やれやれまた俺は世界を救ってしまったか」と素振り一振りの訓練で大口を叩く子達だったのよ。
それを頑張ったら美味しいおやつを作ったり、小さなことでも出来たら褒めたりと私はこの子達のやる気を引き出して来たの。
そんな子達がこんなに強く成長したなんて嬉しいじゃない。
照れた彼らのその顔は年相応の可愛らしさで私は思わずよしよしと頭を撫でてしまった。
「!」
「お母さん嬉しくなっちゃって⋯⋯あらやだごめんなさい恥ずかしいですよね。みなさんの成長が何だか嬉しくて」
「いえ⋯⋯聖女様にこうやって褒められるのは⋯⋯僕も、嬉しいです」
「俺もっ!」
「俺もだ」
「私もです」
良い子達だわ。そうだったわね、この子達は跡取りとして厳しく育てられて来たから手放しで褒めてもらえなかったのかも知れない。だからグウタラに見えた訓練中は甘えたかったのかも。そう思うと私の責任は重大になる。必ず無事にご両親の元へ返してあげなくちゃね。
立派な息子さんですよってご両親に伝えてあげたいもの。
「さあさあ行きましょう! この扉の向こうに魔王がいるんですよね、今日は少し遅くなっても大丈夫なので絶対に勝ちましょう!」
私が張り切って拳を振り上げるとリジカーネス君達も力強く応えてくれた。
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扉を開けるとそこは玉座の間。
広い部屋には奥まで敷かれた絨毯の左右に大きな柱が立ち並び、その先に大きな玉座が見える。
そこに腰掛ける黒いマントを羽織った人影がゆっくりと立ち上がった。
その瞬間。
身体中がビリっと震えるような殺気が溢れ出て来て、私は咄嵯に戦闘態勢に入った。
これは強いわ。それでも私は聖女としてみんなを守らなくてはならないの。
グッと足を踏ん張ると私はみんなの背後で大きく息を吸ってお腹の底に力を入れ、聖女の加護をかける。
さっきまでの緩んだ気持ちを引き締めて聖女として魔王と対峙する。私の役目は前に出る事ではない。みんなを無事ご両親の元に帰す為の援護役なのだと強く想いを込めた。
一瞬の静寂のあと、戦いの火蓋は切られた。
最初に動いたのはリジカーネス君達だった。ワーク君が炎の球を魔王に撃ち込み続いてセキュリー君が炎の球を手に突っ込む。そしてそのすぐ後ろからリジカーネス君とブレイン君が斬り込む。
でも流石魔王。
炎の球を私達の方へと弾き返して来た。
「聖女様!」
「大丈夫です、私テニスクラブだったんです」
思い出すわ。鬼監督の硬球千本ノック。
テニススコートが可愛いのとイケメン先輩に憧れて始めたけれど入ったクラブは飲み会やパーティーなんてものとは縁遠く、練習はとても厳しかった。結果、全国大会で優勝はできなかったけれど五位入賞できたのよ。
それに異世界パワーで身体能力が自分の世界より上がっている今の私には魔王の攻撃なんて簡単に打ち返せるわ。
私がボールを打つ要領で飛んでくる炎の球を打ち返すとリジカーネス君が剣を大きく振った。
魔王が手にしていた禍々しい剣でリジカーネス君の攻撃を受けると甲高い音が響く。ブレイン君とセキュリー君は高速で移動し槍と蹴りを繰り出して魔王を翻弄する。
「ワーク君! みんなに耐雷をかけてから雷の矢で攻撃して」
「わかりました!」
「ワーク君の援護は私がするわ」
私は四人が少しでも楽に戦えるようにと思いながら飛んでくる炎を次々に撃ち返す。
暫く攻防が続いたあと、耐雷の防御がかけられたのを確認した私はしゃもじを大きく振りかぶって魔王に向けて水魔法を発動させた。
「ワーク君今よ!」
「サンダーアロー!」
何本もの雷の矢の電気を帯びた水が魔王に向かって飛んでいく。
それは見事に直撃し魔王の動きを止める。その隙を見逃さずリジカーネス君、ブレイン君、セキュリー君が魔王に渾身の一撃を放った。
「ぐぅおっおおおおぉっぉぉぉ⋯⋯」
断末魔を上げ崩れ始める魔王。その胸には大きな穴が開き、リジカーネス君たちの武器は黒く焦げていた。
やった、勝った! そう思ったのだけれど。
「 ワレハナンドデモヨミガエル⋯⋯ワレハ⋯⋯オマエ⋯⋯オマエ⋯⋯ハ⋯⋯ワレ⋯⋯ダ」
突然目の前で倒れた筈の魔王の声が聞こえたかと思うと黒い煙となって辺りを覆い尽くしていく。そしてその中から小さな蝙蝠が現れた。
「あららら、可愛い」
「おいこらっ俺様は魔王だ! その手を離せっ」
「これが魔王の正体⋯⋯」
私の手のひらでじたばた暴れているちっこい姿は真っ黒な羽が生えていて頭にツノが二本ある以外は蝙蝠とそう変わらない。
「小さいからと馬鹿にするなっ俺様はニンゲンの怠け心を食って再び魔王となるんだ! さあっニンゲン! 怠けろ、 俺様にお前の心を差し出せ!」
怠け心⋯⋯。
⋯⋯、⋯⋯⋯⋯、⋯⋯⋯⋯⋯⋯!
あ、なんか気づいちゃった。
私が視線を四人に向けるとふいっと彼らは目を逸らす。
ははーん⋯⋯。訓練の時の姿。あれは彼らの本当の姿だったのね。甘えたいのではなくて、ただ動きたくなかった、働きたくなかった訳ね。
そう思えばニートリア王国は魔王に攻められていると言いながらとてものんびりしていた。
のんびりと言うよりとてもルーズなのよ。店の開く時間はまちまちだし、何より若い人が何もせずぼーっとしているのをよく見かけたわ。
「お前らの怠け心は枯れることがない。この国は食うのに困らないからな」
ニヒヒと笑うその顔を掴んで、えいっと捻れば「イデェッ!」と叫んでバタつく。
「貴様っ俺様は魔王だぞ」
「だからなんです? いい事を教えてもらいました。そう、怠け心⋯⋯確かにリジカーネス君達は魔王を討伐するために怠けられる時間が減りましたよね。感心したくらい頑張って強くなったもの」
「おま、お前怖いもの知らずなのか?」
「聖女、様⋯⋯」
「では、魔王様を連れて帰りましょう。みなさんのご両親にも、王様にも報告しなければなりませんから」
ニッコリ聖女スマイルをすると、リジカーネス君たちは引き攣った顔で私を見つめながら小刻みに頷き、魔王も怯えた表情を浮かべて素直に私の手の中で「はい」と素直な返事を返した。
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ちょっといいお肉と普段は避けている高いビール。デザートにはケーキ。
魔王を無事に討伐し、お城に戻って報告をあげたら既にこちらの時間で17時を過ぎてしまっていたから、延長保育をお願いしていた子供を迎えに行って急いで準備した夕飯だったけれど「今夜の夕飯は豪華だ!」と旦那と子供は大喜びだった。
「今日は魔王討伐して臨時報酬と残業になったから残業代の両方が出たのよ」
「お疲れ様。そしたらもうパートは終わり?」
「ううん。もう暫くお願いしたいって言われたのだけれど、いいかな?」
「ミサエがやりたければ俺は良いと思うよ」
「ありがとう。もう少しパート続けてみるわ」
「それで、魔王を倒してどうしたの?」
「そうそう、聞いてよ」
私はパートに出た日の事は毎回旦那に話しているの。
異世界で聖女のパートタイムに出たいと話した時は「へえ、良いんじゃない?」なんて興味なさげだった。と、言うより異世界とか聖女とかに驚かなかった事に役所にしろ保険屋にしろ異世界が当たり前になっているのかと私の方が驚いたくらいだったのよね。
「その魔王っていうのがニートリア王国の人々の怠け心を食べて力を増す存在なんだって」
「へえ、怠けたら大きくなるなんてまたすぐ力を付けるんじゃないか?」
「それがね、人々が怠けたら力に、人々がやるべき事をしたり、褒められると力が抜けるんだって」
「それは魔王も難儀だな」
「それもそうね」
私はビールを継ぎ足して話をつづける。
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魔王を連れて城に帰ってリジカーネス君のお父様である国王様に報告をしたところ国王様と王妃様だけではなく周りにいたワーク君、ブレイン君、セキュリー君のご両親も息子を抱きしめて大泣きした。
「息子達が⋯⋯こんなに立派になって」
「ええ、毎日ダラダラと過ごしていた子が⋯⋯頑張りましたね」
魔王が人の怠け心を食べて力を増す事を国王さま達は何となく察していたのだそう。
ニートリア王国はとにかく若い内は無気力でダラダラとした生活をする習性があるのだとか。
一定の年齢になれば働くようになるけれど深く癖になってしまった怠け癖はその後にも影響してしまいよく言えばのんびりとした悪く言えばルーズな国になってしまったらしい。
魔王が今のような小さな蝙蝠だったならまだ大丈夫と放置していたけれど強力な魔王となってしまったので急遽ニートリア王国王の聖女を探し、それが私だった。
私もそんなに働き者の方ではないけれど、やらなくてはならない事はしているつもり⋯⋯だから私の怠惰は程々に許してほしいと魔王をみれば彼はニヤリとしてペロリと舌を出した。
あ、今私の怠け心を食べた。
「ねえ、魔王様、怠け心を食べて強くなるんですよね」
「そうだ。今のお前の怠け心は少ししかなかったから全然足りないがな」
「もし、人々が嫌々でも働いたら魔王様はどうなるんですか」
「そんなの力が抜けるに決まってる。嫌々働く怠け心より働く行動の方が断然俺様の力を吸い取る力が大きいのだ⋯⋯あっ! お前嵌めたな!」
「教えてくれてありがとうございます。魔王様素直で良い子ですね」
「やめろ! 力が抜けるぅぅう」
「褒められるのも力が抜けるんですね」
私は魔王を抱き上げてニッコリ微笑む。
怠け心を食べたら沢山褒めてあげる。そうしたら小さな魔王のままだものね。
「聖女様には本当に世話になりました」
「我が国は怠ける習性があるからと甘やかしてしまったのだな。これからは魔王の変化に気を付けながら若者の育成に力を尽くそう」
「聖女様! あのっ⋯⋯」
祝賀会は一週間後に行うと決まり、私が帰る時間になった。
リジカーネス君達が駆け寄って来て寂しそうな顔を見せたの。
「聖女様は、もう来られないのですか」
「あ、そうか魔王を討伐したらお仕事終了ですね」
「⋯⋯この国に残っていただく事は⋯⋯出来ませんか」
「ええぇ!?」
驚いて国王様達を見ればバツが悪そうにそれぞれが顔を背けた。
ほほーん⋯⋯魔王討伐にイケメンのリジカーネス君達を揃えたのは私をハニートラップにかけてこの国に残すつもりだったのね。
転移者保護の決まりがあるから無理矢理留めさせる事はできないけれど自主的に残る分にはその決まりの内ではないって契約書に書いてあったもの。
ま、確かに私は可愛い子、大好きですけどね。残念でした。リジカーネス君達は息子のようにしか見えないし。
「私はパートタイムの聖女です」
私のその一言に四人とその場の人達がホッとしたようなガッカリした表情を浮かべた。
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一週間があっという間に過ぎて今日は祝賀会。
「おかーさんキレイ」
「家の事は俺が見てるからゆっくりして来なよ」
「ありがとう。お土産持ってくるからねえ」
ニートリア王国から届けられた祝賀会用のドレスに身を包んで化粧も施した。髪も編み込んで纏めて準備万端。
「聖女様お迎えに参りました」
「をうっ聖女っ、ははっお前化けたなあ知ってるぞ、そう言うのをこっちの世界で馬子にも衣装って言うんだ⋯⋯いだダダ!」
「こーもりーさん」
玄関にリジカーネス君と魔王が現れて早速魔王が子供に捕まった。
「ほらほら、痛い痛いって言ってるわよ」
「こーもりー」
「お前聖女だろ俺様を守れ!」
ひらひらと私の肩に投げた魔王が喚くけれど子供は楽しげだからたまに魔王を遊び相手に呼んであげても良いかな。
「今日は奥様をお借りします」
「よろしくお願いいたします」
旦那とリジカーネス君が頭を下げ合ってるのが何だかこそばゆい⋯⋯。
私は結局、魔王が懐いていること、魔王が安全な存在だと国に広まるまで人々の心の拠り所になって欲しいとパートが延長になった。
基本は週三日。十時から午後三時迄。一時間の休憩有り。
時給は千五百円。そこに成功報酬とか臨時手当。
家族の理解があり職場環境が良い。お給料も悪くないし時間の融通が利く。続けられるなら辞める理由は見当たらなかったもの。
「では参りましょう」
本当にリジカーネス君立派になったなあ王子様みたい⋯⋯じゃなくて本当の王子様だけどね。
「行ってきます」
玄関を開けたらそこはもう異世界。
今日も私はさるぼぼを持って聖女のパートタイムに出る。
パートタイム聖女 京泉 @keisen
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