潰していいひと 🐌

上月くるを

潰していいひと 🐌





 え、うそでしょう?! こんな観方もあるなんて、この歳まで知らなかったわ。

 ある女性作家の小説を読んでいたヨウコさんは、まさに目から鱗の思いでした。


 だって、自分が周囲の一部or全部から「潰していいひと」と侮られていたなんて。

 その前に、他者をそんな目で見る人たちが少なからずいるなんて、信じられない。


 著者の冷静なペンは容赦なく暴き出します、たとえば夫に、婚家に、職場に、地域に気を遣ってトラブルを恐れ「すみません」ばかり言っているとそう見做されると。


 どんな乱暴な言動にも歯向かわず、気の弱そうな笑顔を絶やない目の前の人物は、自分たちのために徹底的に利用し尽くし潰していいのだ、そう認識されるのだよと。


 

 

      🌿




 たいへんな衝撃で、リングの底からもぞもぞと起き上がるのに時間を要しました。

 自分は仕方ないとしても、あきらかに子どもたちに遺伝しているよね、この性質。


 いい人と思われたいわけではなく、無用なトラブルで気持ちをかき乱されたくないから、相当な理不尽にも黙って堪えて(かわして)来たのだけれど、それが裏目に?


 そういえば続々と思い当たります、あのことやこのこと……ことにシングルマザーになってからは、実家や親せきをふくむ世間の風当たりが、ひときわ冷たくなって。


 そうされればされるほど心とは裏腹の笑顔が増えていったはずで、それがさらに「潰していいひと」感を増長させていたとは、いままで、思ってもみませんでした。




      🏠




 つい先日もこんなことが……ヨウコさん宅の敷地の東端、用水路沿いに仕事時代の倉庫が残っていますが、土台の土が崩れないようミョウガ&フキを植えてあります。


 地下茎がしっかりしていそうな植物を選んでくれたのは当時の年輩の事務員さんでしたが、彼女の見立てどおり双方たくましく成長し、何十年も支えてくれています。


 地域の一斉清掃のあと、何気なく倉庫の裏に行ってみますと、そのミョウガが根元からバッサリ!! え? 驚いていると、川向うから高齢の男声が降って来ました。


「ぼさぼさに伸びていたから刈っといてやったよ。あんたねえ、道路から見えるとこだけじゃなく、こっち側も管理してもらわなきゃあ困るよ。いいね、分かったね?」


 私有地なのに……と思うヨウコさんを裏ぎった口は、勝手に「す、すみません」と言い、おまけにご丁寧に頭まで下げたので、先方は意気揚々とご退陣でした。(笑)


 


      🍃




 だからといって、弱い自分としては精いっぱいの処世術を、いまでは生来の性質と自身ですら思いこんでいるものを、いまさらこの歳で変えることは無理難題で……。


 せめて同質の子どもたちにはそういう観方もあることを伝えてやりたいのですが、伝えられた子どもたちも、にわかな変容など、できようはずもなくて。(/・ω・)/


 ごめんね、こんな母親のもとに生まれて来させて、もっとしっかりした家庭に生まれて来たらしなくてもいい苦労、たくさんさせてしまったね、本当にごめんね。🙇


 はなれ住む子どもたちに心のなかで詫びながら、せめて生きていれば逃れられない日々の煩悶を長く引きずらないよう、明日は明日の新しい風が吹くように祈ります。




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