17話 帰還とお昼ご飯

 俺達はベネット伯爵邸に帰ってきた!!

 

 はい、ということでお家に着いたよ〜。

 俺が心地よい夢の世界から帰ってきたのはついさっきだ。本当についさっきまでスイカやメロン、マシュマロやスポンジに囲まれて幸せに暮らす夢をみていたのに、気付いたらガチムチの男共に囲まれていていた時には流石に焦ったよ。あまりの恐怖に眠っていたはずの頭が一瞬で覚醒したもんね。


 寝起きではありえないほどにパッチリと開いたおめめに飛び込んできた光景は、二つの脂肪の塊…ではなく、二つの鍛え抜かれた大胸筋だった。そして視線を恐る恐る上に上げると、そこにあったのは女神の微笑み…ではなく、変態の無駄に整った顔であった。いわゆるお姫様抱っこを変態にされている状態だ。


 その後どうなったかなんてお察しだよね。一つだけ言えるとしたら、変態のほっぺたには紅葉のような痕があったってくらいだ。一体全体何が起きたのか俺には一切分からないよ。


 ちなみになぜ俺が変態にお姫様抱っこされていたのか。その理由は今なお夢の中にいるソフィをマリンが運んでいるからだ。

 当然俺は抗議したとも。俺だってマリンに運ばれたいし、変態に運ばれたくないもん。しかしそれに対するお嬢の返答は非情で「お母様にソフィアを運ばせる気?」であった。

 そんなこと言われたら何も言い返せないじゃん。マミーはベネット伯爵家における禁止カードなんだよ?流石の伯爵家のペットといえど紙一重で、本当に少〜しだけ権限が負けているのだ。


 簡単に我が伯爵家の家庭内権力を説明すると、マミー>伯爵家のペット>>>>>>その他大勢である。つまりマミーの言うことは絶対!これが基本なのだ。今回はマミーが言い出したことじゃないけど、マミーにソフィを運ばせるのはさすがにねぇ。

 

 そんな事情があり、俺は変態に運ばれていたらしい。ソフィを騎士とは言え男に触れさせるわけにもいかないしね。貴族的な諸々な理由があるらしいよ。めんどくさいよね。

 まぁ今回は仕方ないと思っておこう。夢の中でガチムチに囲まれたのは一生恨むけどね。


 さて、屋敷に帰ったからにはやらないといけないことが一つある。みんなは分かるかな?


 そう!それはご飯!!


 実はお昼ごはんまだなんだよね〜。

 朝から孤児院に顔を出して、お昼ごはん食べずに帰ってきたから俺のお腹はペコのペコにもう一つペコがつくくらいには腹ペコだ。


 今の時間は一時ちょうど。絶好のお昼ごはんタイムなのだ!お嬢やソフィ達もお昼を食べるんだろうけど、今日はお嬢たちと食べる気分ではない。


 では一体誰と一緒に食べるのか。


 それは…今日から正式に料理人見習いとなった料理長の甥っ子ノエルとだ。

 せっかくうちに来てくれたんだから精一杯歓迎してあげないとね。


 ということで厨房へレッツラゴー!!





 さあさあやってまいりました厨房。

 ちょうど昼時であるためか、みんながみんな忙しそうに働いている。

 しかーし、そんなことは関係ない。俺は伯爵家のペットだ。こんな忙しそうな現場でも俺が一歩足を踏み出せば皆がひれ伏し道を譲るのは自明の理。その空いた道を真っ直ぐノエルのもとに歩けば…ぐへぁ!?

 

「なにうろちょろしてんだバカ猫。どう見たって厨房は今大忙しだろうが」

「なに人のこと蹴り飛ばしてんだバカ料理長!!こっちは伯爵家のペット様だぞ!!私が一歩踏み出せば、ひれ伏しながら道を譲るなんて赤ん坊でも知ってる常識中の常識だろ!!」


 まったく、そんな世界の常識すら教わっていないとは一体全体どんな教育を受けて生きてきたんだこのデカブツは。そんなんだから32歳にもなって彼女の一人もいないんだよ。


「どこの世界にそんな常識があんだよ。あーもうめんどくせぇ。ノエルこのバカ猫の面倒見とけ。芋の皮むき終わっただろ?」

「あ、あはは…わかりました。ルナちゃん、ちょっとあっちに行こうか」


 ふっ、自分の常識のなさが恥ずかしくなって逃げたか。そしてノエルに選手交代、と。

 ノエルはさすがにそこら辺の常識は弁えているようで、しっかり俺のことをエスコートしてくれる。ふふん。一般的な常識を持っていればこうするものなのだよ料理長くん。

 可愛いルナちゃんのすべすべおててをつないではぐれないようにしつつ何よりも優先して俺専用おやつ席に案内する。これくらいは出来ないと大人としてどうかと思うよ?


 まぁ料理長が俺の手を握ってきたら100連猫パンチ待った無しなんだけどね。俺の手を握っていいのは可愛い女の子か綺麗なお姉さんか、女の子にしか見えない男の娘くらいなんだから。


「それで、ええっとルナちゃん?今日は、どうしたのかな?」

「ん、ノエルお屋敷に来たばかりでしょ?だから一緒にご飯食べようと思って!」

「あ、ボクの為だったんだ」


 そりゃそうだ。こんなに可愛い子を放っておくなんてできるはずもない。たとえ男の称号がついてるとしても。ついてるとしても!!


「当たり前じゃん!私は気遣いもできる最強のペットなんだよ?というわけだから料理長お弁当二人分ちょうだい」

「あ?めんどくせぇ…が、まぁいい。ちょっと待ってろ」


 料理長はそう言ってお弁当を作り始めた。うむうむ、それでいいんだよ。ペットの言うことは絶対!これ鉄則!


「ほら、これ持って早くでてけ。今は忙しいんだよ」

「さすが料理長!準備が早い!!ほらっ早く行くよノエル」


 料理長からお弁当をひったくるように奪い取り、これで準備OK。これでもうここに用はないし、とっととベストプレイスへレッツゴーだ。


「え?待って、どこ行くの?というかボクもお仕事が…」

「今日のお前の仕事はそのバカ猫のお守りだ。そいつを速やかに厨房から追い出すことが現状一番の大仕事だよ」

「私のお守りじゃなくて、私がノエルのお守りをするんだよ!そんなこともわからんのかこの脳筋料理長は…」


 本当に料理長には呆れたものだよ。何度説明すればペットの尊さに気づけるんだろうね。

 まぁいいや。料理長に構ってあげても時間の無駄だからね。そんなことより今重要なのはノエルと楽しくお昼を食べること。早くしないと俺のお腹と背中がくっついちゃうよ。


 早くご飯食べたいし身体強化魔法使って引っ張っちゃお!


「ノエル。もう行くよ〜」

「ちょっ、ルナちゃん引っ張らないで…って力強っ!!待って早い!早いよ!!」


 ふはははは。俺の早さについてこいノエル!!いざ行かんお昼ご飯の旅へ!


 俺のオススメの場所を教えてあげるから期待してていいよ!





新しい登場人物

無し











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伯爵家のペット〜ルナの輝かしき毎日〜 シグ @shigu100

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