16話 馬車の中での一幕

 気がつけば俺はマリンの膝の上に座り、馬車に揺られていた。

 あの後のことはあまり覚えていない。

 アーシャに泣きついていたはずなんだけど、気がついたときにはこの状況だった。

 

 はぁ…それにしてもシスターが結婚かぁ…

 まぁどっかの有象無象に取られるくらいなら牛乳の兄ちゃんで良かったけど、それでも悲しいものだ。

 これでもし牛乳の兄ちゃんじゃなかったら俺は多分その相手に突撃して魔銃で撃ちまくってたよ。


 …ん?なんで牛乳の兄ちゃんの肩を持つのかって?

 そりゃあの人が優しくて一途な人だからだ。

 確かシスターが孤児院で働き出したのが14歳か15歳くらいだったはずだから、かれこれ12,3年は一途にシスターを思い続けている人なんだよ。

 別に牛乳の兄ちゃんはモテないわけでもなくて、好きな人がいるからってずっと告白をされても断り続けたくらいだからね。

 それに変にアプローチをするわけでもなくて、シスターの幸せを一番に願っていると傍から見てもわかるような人なのだ。

 正直認めたくはないけどシスターとお似合いなのは事実だ。


「ルーちゃん落ち着いた?」


 俺が落ち着いたのを見てとったのかアーシャが話しかけてくる。さすがはアーシャだ。わざわざ声に出さずとも雰囲気でわかるらしい。


「ん。牛乳の兄ちゃんなら一億歩譲って許そうかなって思えるくらいには落ち着いた」

「一億歩ってそれ全然譲れてないよルーちゃん…まぁ落ち着いたなら良かったよ。ルーちゃんに泣き顔は似合わないからね」


 あれ?なんかアーシャがかっこいいこと言ってる。

 そんなこと言われたら俺が女の子だった場合惚れちゃってるよ?その自覚ある?そして今の俺は女の子なんだよ?


 つまり……惚れちゃった♡てへっ☆


「アーシャぁぁぁ!!」

「うわ!ルナちゃん暴れないで。馬車の中で危ないから!!」


 惚れた勢いのままアーシャに突撃しようとした俺は、後ろからマリンに抱きつかれてしまったことで動けなくなってしまった。

 アーシャに飛び込むことが出来ない……が、これはこれで悪くない。

 マリンに後ろから抱きつかれるということはつまり、背中に俺が求めてやまない2つの山が超密接に触れるということで…まぁつまりはそういうことだ。

 マリンの柔らかさに免じてアーシャに飛び込むのは断念しよう。俺は優先順位を理解しているペットだ。


「やっと落ち着いたわねそこのおバカは」

「まぁまぁ、失恋したならこうもなるわ。私もお父様に振られたときには涙を流したものよ」

「え?お父様とお母様政略結婚じゃなかったの?」

「違うわよ〜。私がお父様を監き…じゃなかった、説得して結婚したの」

「……今言いかけたのは聞かなかったことにします」

「うふふ」


 なんか向こうでお嬢とマミーが面白そうな話してる。マミー、伯爵のこと監禁したことあるの?恋愛ジャンキーすぎるでしょ。よくそれで今のラブラブ夫婦になれたものだよ。

 俺なら監禁なんてされたらその相手と結婚なんて出来ないと思うんだけどな。

 もしかしたら伯爵はドMだったのかもしれない。そう考えれば辻褄は合うけど、男のドMとか誰得だよ!想像しただけで鳥肌立っちゃったよ!!


 もう最悪な想像は頭の中から追い出そう。ここはふにゃふにゃ二人組を見て心を落ち着かせるに限るね。いつも通り犬耳と犬尻尾がチャーミングなアーシャにマミーの膝に頭を乗せて可愛い寝顔を覗かせるソフィ……ってソフィ寝てるじゃん。 


「ソフィ寝ちゃったの?」

「ええ。今日は同年代の子たちと遊べて楽しかったみたいよ。馬車に乗って早々に寝ちゃったわ」

「そっかぁ。遊び疲れて寝ちゃうなんてソフィはまだまだ子供だね」


 ふふふ。遊び疲れて寝ちゃうなんてソフィは可愛いなぁ。お嬢の場合、ソフィと同じくらいのころには既に今のお嬢と大差無かったから可愛いとか思ったこと無かったからなぁ。

 やっぱり腹黒さというか捻くれているというか、純粋さが子供のころからお嬢には足りてなかったんだろうね。


「ソフィアもさっきまで大泣きしてたあんたに言われたくないでしょうね」


 ほらね。こうやってすぐに皮肉を言ってくるんだもん。

 本来ならすぐに猫パンチを繰り出すところだけど、今の俺は一味違う。それくらいの皮肉笑って受け流してやろう。

 

「…ねぇルナちゃん。なんで私と向き合う姿勢になったのかな?」


 この素晴らしく実ったスイカさえあればお嬢の言葉なぞ恐るるに足らん!!

 

「お嬢の言葉なんて全然きかないんだからね!」

「ルナちゃん!胸に顔を埋めて喋らないで。くすぐったいから!!」


 マリンが何か言ってる気がするけどそんなこと知らん!俺はこれからの人生ここで一生を暖かく、柔らかく過ごすんだ!


「うーん、ルーちゃんが元気になったのは喜ばしいけど、これはどうなんだろう?」

「あのおバカのほうがソフィアよりも子供にしか見えないわ」


 ふっ、ここが理想郷か。なんて素晴らしい感触なんだ。こんなの意識を保ってるなんてできるはずも……( ˘ω˘)スヤァ


「え?ルナちゃん?嘘でしょ?この短時間で寝ちゃったの?」

「信じられない。ついさっきまで子供扱いしてたソフィアとやってること同じよ。恥ずかしくないのかしら」

「ルーちゃん相変わらず寝つきいいね…」


 むにゃむにゃ…柔らかいよぉ…




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無し

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