双子の恋路

 私立櫻谷附属中学校での生活が始まり数週間が経過。1年D組の教室内は相変わらず賑やかであり、中でも昼休みは佐々山姉妹を中心として総勢8名でのランチタイムとなるため、特に賑やかな時間であった。

「俺、今日の数学の小テスト・・・ケアレスミスばっかりした。30点満点中6点って・・・くそぉ。こんな点数親に見せられへんでー。どないしよー。」

 頭に手をあて、悔しそうな表情をした一虎かずとらが言った。それを隣で聞いていた龍二りゅうじが呆れながら答えた。

「昨日の夜遅くまでテレビ観てるからやろ?僕何回も聞いたよね、復習しなくても大丈夫かって。それを無視してテレビを観続けたんだからそんな点数でも仕方ないよね。いっそのこと、中途半端な点数よりも、0点の方が良かったんじゃない。」

「わかってたねん、わかってたねんけど・・・観てしもたもんは仕方ない!!一回観出すと続きが気になってしまうねん。」

 真顔できっぱりと答えた一虎の事を見て周りは苦笑するしかなかった。他愛もない会話をしながら食事をしていると、教室の扉付近でりんを呼ぶ声がした。琳が呼ばれた方を振り返ると、他クラスの生徒がいた。琳が口に入れていたものを慌てて飲み込み、呼ばれた生徒の元へ駆け寄る姿を一虎は横目で追っていた。楽しそうに会話をしている姿を見ていた一虎は龍二に問いかけた。

「なぁ、龍、あいつ何なん?」

「確か委員会が一緒の人だよね。」

「ふーん。あっそ。」

「・・・なんでそんなに不機嫌そうなん?」

「楽しそうに話してるなぁ・・・と思って。琳ちゃん、俺といる時はあんまり楽しそうとちゃうし。」

「いや待って、ごめん。トラと琳ちゃんってどういう関係?」

「えっ、はっ?!」

 耳まで真っ赤にした一虎、その場にいた全員が目を丸くしていた。

「トラ君、これはもしかして・・・もしかすると、琳ちゃんの事が好きですな。」

「ってか、俺といる時って、だいたい皆一緒にいるやん。」

 好き勝手に話出した友人たちに戸惑いながらも一虎ははっきりと答えた。

「はいはい、そうですとも。好きですとも。何か問題ありますか?」

「問題はないけど・・・琳がトラ君のこと、どう思ってるかって・・・何となくわかる気がするよね。」

 そう答えたのはなぎさであった。その場の空気が一瞬ひんやりとしたが、すぐに元通りとなった。

 一虎は薄々気付いていた。佐々山姉妹が転校してきて日数が経ち、渚と琳はクラスメイトともすぐに打ち解けることができていた。休み時間や昼食時においても一緒にいる時間は、他のクラスメイトに比べると多かった。あかねやたまきとは同性ということもあり、放課後もよく一緒にいると聞いていた。晴彦はるひこ尚人なおと龍二りゅうじとも普通に話している姿を見ていた。他と違うことと言えば、今までに一度も、琳は一虎と会話をしていなかった。

「もしかして、琳ちゃんもトラの事・・・。」

「いやないだろ。まともに話もしてないのに。」

「好きって気持ちは、話さなくても見ているだけでいいと思えるもんなんだよ。これだから男は・・・乙女心がわかってないね。」

 環と晴彦が話しているのを聞いていた一虎の表情は変わらなかったが、心の中では琳の想い人が自分であって欲しい、と思いながら教室の扉近くにいた琳の姿を見ていた。ふとした瞬間、一虎の思いが声になって出ていた。

「俺にも笑いかけてほしいわぁ。」

 飲んでいた飲み物を吹きそうになった龍二、弁当の片づけをしていた渚とあかねは動きが止まり、先ほどまで言い合いをしていた環と晴彦の会話も止まり、椅子から立ち上がろうとしていた尚人も動きを止め、一虎の事を見ながら言った。

「トラ・・・・心の声が駄々洩だだもれですけど。」

 思わず口元を手で押さえた一虎であったが、時すでに遅く、友人たちに注目された一虎はみるみる顔に熱を帯び、赤くなったのをからかわれたのであった。


 6限目終了のチャイムが鳴り、帰り支度をしていた琳に渚が声をかけた。

「琳、うち今日から部活始まるし先に帰って。」

「そっか。仮入部じゃなくなったんだね。」

「そ。めちゃくちゃ楽しみ♪」

「ケガせんようにね。」

「わかってるよ。パパには帰る前にメッセしとくね。」

 渚は小学生から始めたバスケットボールを中学でも続けるためにバスケ部に入部した。琳は部活動に興味はなく、同じような理由で龍二も帰宅部を選択。仲の良いメンバー間でも放課後の過ごし方はバラバラだった。あかねと環は吹奏楽部、一虎と晴彦はサッカー部、尚人は陸上部に所属していた。それぞれ荷物を片手に手を振り、学内で別れを告げた。琳は学校から歩いてすぐにある商店街の本屋へ寄っていた。雑誌コーナーを横切ろうとしていると、見覚えのある姿を見つけ駆け寄った。

「龍二君。」

 声を掛けられた龍二は琳の方を見た。

「琳ちゃん。こんなところでどうしたの?」

「今日はいつも読んでいる作家さんの新刊を買いに来たの。龍二君は?」

「不甲斐ない兄の今後の運勢を見てた。」

 ほら、と今まで読んでいた雑誌のコラムを琳に見せた。そこには各星座別に、今年の運勢、恋愛運、仕事運、金運等が掲載されたいた。

「占い、信じるの?」

「あんまりアテにしてないかな。良いこともあれば悪いことだってあるのは当たり前のことだし、結局のところ自分自身の行動が大事だと思うからね。」

「ふふ。だったら見なくてもいいと思うけど。」

「まぁ確かに。」

 龍二は雑誌を陳列棚に戻し、琳とともに小説が並べられている場所へ移動した。

「琳ちゃん、本はけっこう読むの?」

「うん。小説の世界に入りこんじゃう。」

「その気持ちわかるなぁ。主人公に感情移入して、読んでるとたまに泣いてしまう時もあるし、ハラハラドキドキすることもあるもんなぁ。」

「龍二君はどんな小説を読むの?」

「最近だと冒険ものかな。勇者がダンジョンを巡る話。琳ちゃんは?」

「私は医療系の小説を読んでる。今日はその続編を買いに来たんだ。」

「へぇ、医療系か。ドラマは何度か観たことあるけど、小説としては読んだことないなぁ。」

「今度読んでみる?」

「えっ、いいの?」

「うん。是非読んでみて。」

 琳は目当ての本を購入し、龍二とともに店を後にした。帰る方向が同じということもあり、商店街を2人で歩いていた。

「琳ちゃんはさ、トラのこと苦手?」

 唐突に質問された内容に目を丸くした琳。どう答えるべきか悩んでいると、

「トラって、見た目がちょっと怖い、というかとっつきにくいかもしれんけど、中身はいいやつやねんで。」

「知ってるよ。転校してきて、みんなと仲良くしてわかった。」

 琳は一虎のことが苦手ではなかった。転校初日に目が合い、笑いかけたときに顔が赤くなった姿や、弁当を食べる際にも周りを気にかけ話題を出していたことも、授業の合間の休憩時間でも笑いの中心には一虎がいることも、琳は知っていた。琳の視線の先にはいつも一虎がいたのだった。

「もしかして、それって・・・・・・。」

「その先はいくら龍二君でも言ったらダメ。」

「トラと話さなくてもええの?」

「緊張してまともに話せないの。」

 恥ずかしそうに答えた琳の表情を見て、ふと環の言葉を思い出した。

『好きって気持ちは、話さなくても見ているだけでいいと思えるもんなんだよ』

 思わずにやけそうになった表情をすぐさま正した。一虎の想いと琳の想いが通じるように、自分自身がどのように関わろうかと思考を巡らせていると、

「そういう龍二君は、渚の事好きなんでしょ?」

 突然の琳からの指摘に何も言えずに龍二は固まってしまった。

「えっ?・・・・えぇぇ!!!?」

「気付いてないとでも思った?」

 龍二の顔を覗き込むように琳は顔を傾けた。予想していなかった事を目の当たりにし、龍二は動揺を隠せずにいた。

 気付かれないと思っていた。渚の前ではいつも冷静にしていたはず、あかねや環と同じような対応をしていたはず、何ならクラスメイトの女子とも何ら差がなく対応をしていたはず、しかし双子の妹、琳にはお見通しだった。

「転校して、みんなの前で挨拶をしたときに、一虎君と視線が合ったけど、そのあと後ろにいた龍二君のことも見てたよ。渚のことずっと見てた。それからあかねちゃんたちとご飯食べてるときも、授業中も龍二君の視線の先にはいつも渚がいた。」

 饒舌に話す琳の姿を見て、龍二は思わず笑い声をあげた。

「何これ。こんなことってある?双子の勘ってやつなんかなぁ。」

「双子の勘、そうかも。」

 お互いに顔を見合わせ笑みをこぼした。悟られることのない思いを見透かされ、一瞬の焦りはあったものの、龍二も琳もほっとしていた。お互いの気持ちを知っている者同士、仲良くなれるのではないかと感じていた。



 同じような双子、一虎と龍二は転校して来た琳と渚に一目惚れし、琳は仲を深めるにつれ一虎に惹かれた。

 渚が龍二に想いを寄せるのはもう少し先のこと。




 

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双子恋愛 虎娘ฅ^•ﻌ•^ฅ @chikai-moonlight

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