双子恋愛

虎娘ฅ^•ﻌ•^ฅ

双子の姉妹

 佐々山ささやま家に待望の子どもが誕生した、それも双子の可愛い女の子。一卵性の双子であり、産まれてしばらくの間は区別が難しかった。成長するにつれ、個性が現れてきた。姉のなぎさは明るく活発的、その一方で妹のりんは大人しく物静かな性格。両親の愛情をたくさん受けた双子は、この春中学生となった。もともとは地元の中学校へ通う予定であったが、父親の転勤が急遽決まり、引っ越し先の私立櫻谷附属中学校に通うこととなる。両親の薦めもあり受験した櫻谷中学は、幼稚園から大学までエスカレーター方式で上がれる名門校。学生のほとんどは幼稚園から受験しており、中学校から入学する学生は珍しかった。

 

 引っ越しの片づけもようやく落ち着き、夕食時になった頃、キッチンでは料理好きの父親が双子の姉妹から父の日にプレゼントされた黒色ボーダーのエプロンを身に着け、鍋をかき混ぜていた。美味しそうな匂いにつられ、先にリビングに来たのは渚だ。

「めちゃくちゃ美味しそうな匂いがする。パパ、今日は何作ったん?」

「今日はね、パパ特製のビーフストロガノフ♪」

「ビーフスト・・・ビーフストロガノフ?」

「ハヤシライスの親戚みたいなものだよ。」

「琳ちゃーん。大雑把にまとめすぎ。使っている素材が違うんだよ。ハヤシライスを作るときにはまずトマトペーストを作るのに・・・」

「美味しければ問題ないわよ。ね、ナギちゃん、琳ちゃん♪」

 父親が解説をしている合間を縫って母親がリビングに入って来た。

「ママー、おかえり。」

 夕食の準備をしながら双子の姉妹が母親を出迎えた。

「ただいまー。」

夏葵なつきさん、おかえりなさい。今日はいつもより早いですね。」

「だって今日は特別だからね。2人の新しい門出をお祝いしないと。」

 佐々山夏葵は双子の母親であると同時に、美容学校の講師をしていた。その一方で父親の佐々山晴人はるとは製薬会社で様々な薬の開発に取り組む研究員をしている。2人の出会いは友人を介しての食事会だった。お互いに惹かれ合い、2年の交際期間を経て結婚。両親には8歳、歳の差があり、母親の方が年上であるが、そんなことは気にならないくらい仲が良い夫婦だ。

 家族全員が揃い、賑やかなディナータイムが始まった。

「ナギちゃんも、琳ちゃんも明日から中学生ね。」

「どんな学校かなぁ。楽しみだね、琳♪」

「うん。渚と同じクラスだといいな。」

「クラスの子たちと仲良くするための第一印象では笑顔が大事だよ。パパも転校することが多かったけど、笑顔で乗り切れたからね。」

「笑顔ね・・・。明日から通う中学校、ほとんどが幼稚園から一緒らしいよ。きっとずっと一緒だからみんな仲良しじゃん。そんな中に突然入るの・・・けっこう勇気いるなぁ。」

「大丈夫よナギちゃん。一人じゃ不安かもしれないけど、琳ちゃんもいるんだから。それに、2人ともすぐに馴染めるわ。だって、自慢の可愛い娘なんだから。」

 渚と琳が座っている間に母が入り、2人の肩を抱き寄せながら言った。その仲睦まじい姿を見ていた父親の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。思わず琳は笑みをこぼしながら父親へ声をかけた。

「パパったら、なんで泣きそうになってるの?」

「2人とも中学生になるのだと思うと・・・嬉しくて・・・。」

「晴人さんったら、泣くのは早いわよ。2人にはこれから楽しいことがたっくさんあるんだし、それにステキな恋もしないとね♪2人はどんな男の子と恋をするのかしらね~。ママは今から楽しみよ~。彼氏ができたら紹介してよね。」

 父親の表情が次第に暗くなるのはいう間でもなかった。

 楽しい夕食を終え、渚と琳は自室へ戻った。今のマンションでは双子はそれぞれ個室を貰えた。それまでは同じ部屋で過ごして来たのだが、成長とともにそれぞれ個室が必要だろう、と両親の細やかな配慮もあり、今では別々の部屋で過ごせるようになった。明日から始まる新しい生活に不安を抱えながらも、双子の姉妹はそれぞれ眠りについた。


 翌朝、渚と琳はお揃いの制服に身を纏い、両親に見送られマンションを後にした。同時刻、マンションの一室では大音量の目覚まし時計が鳴り響いた。

「トラ!!いつまで寝てるの?」

「・・・・・・・・あと10分・・・・・。すぅ・・・。」

「トラ!!中学生になったら自分で起きるって言ったやろ!!」

「・・・・・・・・言ったなぁ。けど・・・・・あと10分寝たい・・・・。」

「10分経って起きひんかったら、置いていくから。」

「・・・・・・・・うん。」

 その宣言通り、龍二りゅうじ一虎かずとらを置いてマンションを出た。


 双子の姉妹は私立櫻谷附属中学校内、職員室を訪れていた。別々のクラスに配属されるのではないかと心配をしていた2人だが、同じクラスへの配属だと知り安堵していた。担任を務める村口卓むらぐちすぐるから段取りについて話を聞き、本鈴とともに教室へ向かった。教室へ向かう道中、村口はクラスメイトの事を話した。幼稚園から一緒であり、クラスメイトの仲は和気藹々としていること、転校生が来ることを心待ちにしている、といった内容の話を聞いていた。

 教室へ着く間際、中から楽しそうな声が聞こえてきた。

「トラ、遅刻ギリギリ~。中学からは寝坊せーへんのと違ったん?」

「しゃーないやん。目覚まし鳴ってるの聞こえへんかったんやし。」

「うるさいくらいに鳴ってたよ。朝から迷惑千万。」

「龍が家出たことも気付かんかったわ・・・・。」

「トラ君、中学生になっても変わらへんね。」

「みんなしてうっさいわぁ。もぅ。」

 その様子を聞いていた双子の姉妹は互いに顔を見合わせ、笑みをこぼした。

「朝から賑やかだなぁ。ほらー、席につけよー。出席確認の前に転校生の紹介をするぞ。さ、入って、入って。」

 村口の手招きに応えるように2人は教室へ足を踏み入れた。黒板に名前を書き終えた村口が2人の紹介をした。

「今日からこの学校で一緒に授業を受ける、佐々山渚さん、佐々山琳さんです。みんな仲良くするんだぞー。2人からも挨拶どうぞ。」

 村口より簡単に紹介された後、渚は自己紹介を始めた。

「佐々山渚です。引っ越して来たばかりで、右も左もわかっていませんが、色々と教えてください。よろしくお願いします。」

 渚に続いて琳が話した。

「佐々山琳です。環境が変わって緊張はしていますが、みなさんと仲良くなれると嬉しいです。よろしくお願いします。」

 お辞儀をして顔を上げたとき、琳は1人の男の子と目があった。父親に言われたことを思い出し、男の子に向かって微笑みかけると、彼の顔はみるみる赤みを帯びていった。

 自己紹介を終えた2人は村口から座席へ案内され、そのまま朝のホームルームが始まった。渚と琳が授業の準備をしていると、隣から声をかけられた。

「佐々山さん、あたし竹村たけむらあかね、よろしくね♪学校の事でわからへんことあったら聞いてね。」

「ありがとう、竹村さん。」

 小声で返事をした琳だったが、その表情はやや強張っていた。

「よそよそしいし、なんか固いわ。せや、せっかくやし、苗字じゃなくって名前で呼んでもいい?双子は苗字で呼ぶと2人ともが返事するし。」

「確かに・・・。同じクラスに同じ苗字がいると、どっちを呼んでるかわからないもんね。うちの事は渚って呼んで。」

「オッケー♪あたしの事も呼び捨てでエエからね。」

 渚と琳に初めて友人ができた。

 3限目の授業終了のチャイムが鳴り、昼食時間となった。渚と琳が2人で弁当を食べようとしていると、隣の席のあかねが机と椅子を近くまで移動させてきた。

「せっかくだから一緒に食べよ!!」

「あかねー、抜け駆けずるいよー。」

 声がする方には頬を膨らませながらこちらを見ていた下林環しもばやしたまき青木晴彦あおきはるひこの姿があった。

「あかねはすぐに打ち解けられるな。」

 弁当片手に歩きながらやってきた環と晴彦。近くの椅子を机の近くまで運び、そのまま座った。渚と琳が何も言えずに固まっていると、環が話始めた。

「あっ、いきなりごめんね。私、下林環。環って呼んでね。んで、こっちが青山晴彦。みんなはハルって呼んでるし、2人もハルって呼んだらいいよ。」

「勝手に呼び名きめるなよ。まぁ・・・良いけども。」

「素直じゃないねぇ。」

 肘で晴彦の腕をクイクイと押しながら環は苦笑した。

「うるさいわ。それよりも、西口ツインズと尚人なおとは?」

 晴彦の問いに対し、あかねが答えた。

「購買に行ったと思うよ。」

 会話の中で気になることがあり、琳はあかねに尋ねた。

「このクラス、私たち以外にも双子がいるの?」

「そうだよ。西口ツインズ、兄が西口一虎にしぐちかずとらで弟が龍二りゅうじ。通称トラと龍。この2人とハル、環、尚人、あたし含め6人とも幼稚園からずっと一緒に遊んでた。まぁ、家が近所っていうのもあったんだけどね。小学校ではクラスが別になることはあったけど、遊ぶときはほとんど一緒だったなぁ、いわば腐れ縁ってやつですよ。」

「へぇ。なんだか羨ましいな。うちら、幼馴染みとかいないからなぁ。」

「居たらいたで色々と面倒だよ。」

「おいっ。」

 笑いに包まれ、少し気持ちが楽になった渚と琳は、新しくできた友人たちと共に弁当を食べ始めた。

 その頃、購買へ買い出しに行くために廊下を歩いていた一虎、龍二、尚人の3人は転校して来た渚と琳の話をしていた。

「今日来た転校生、俺らとおんなじ双子だったな。」

「そうだね。同じクラスに2組も双子がいるって珍しいよね。・・・トラさ、琳ちゃんに惚れたでしょ?」

「はあっ!!??なん・・・何でだよ。」

「えっ、マジで。ってかなんで龍わかったん?」

「だって、琳ちゃんと目が合って、ニコっ、ってされた時、トラの顔真っ赤だったもん。」

 思わぬ龍二の指摘に反論しようにもできず、戸惑っている一虎は小声で言った。

「・・・・可愛かったじゃん・・・・。」

 そう呟いたと同時に、頬には赤みを帯びていた。

「うっわ。これガチなやつじゃん。」

 尚人があきれ顔で一虎を見るも、当の本人は気にしていなかった。そんな一虎の様子を見ていた龍二は、心の中で一虎の想いが叶うことを願っていた。

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