第3話 異空間の戦い

二回戦と言ってもこいつに有効打の攻撃がこちらにないんだけどな。


「やはりお前、ただの人間じゃないな」


「それはどうだろう」


俺は誤魔化すように戦闘を再開した。


「〖技法 雷神拳らいじんけん〗」


八岐大蛇はそれの巨体を上手く使って攻撃から身を守る。

かなりダメージが入ったと思うんだがまだ動ける余力があるのか、意外とタフだな。


「このままじゃ先に消耗するのは我の方だな、しょうがないあれを使うか」


俺から距離を取り、八岐大蛇が何かしようとする。


「これをここで使いたくないだがお前のために見せてやる。我の真の姿を」


俺はは嫌な予感がし、止めに入るが時すでに遅し。八岐大蛇が八体の龍に|分裂(ぶんれつ)していた。


「多勢に無勢ってことか」


俺はそう呟くしかなかった。

すると、分裂が完了した八岐大蛇たちは笑いながらこう言った。


「一体の時は炎を吐くので精一杯だったがこの八体に分裂したことにより、事実上、八つの属性の攻撃が可能になったのだ」


「…………………火の赤龍せきりゅう、水の青龍せいりゅう、光の白龍はくりゅう、闇の紫龍しりゅう、雷の雷龍らいりゅう、風の飛龍ひりゅう、大地の地龍ちりゅう、氷の氷龍ひょうりゅうか………………こんなところで龍種一行に会えるなんて光栄だな」


八体を見て、苦笑いを浮かべながらそう言う。

確か、龍種八体は古代より昔に神の怒りに触れ、消滅したと本に記載きさいされていたがまさか神の手下になっていたとは。

しかも、一体化して八岐大蛇ヤマタノオロチという神獣?になっていたなんて。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ワクワクするな!

伝説の龍種と一戦、戦えるなんてそうそうにない。


その瞬間、左に赤龍、右に青龍がそれぞれ炎と水の魔法を放ち、俺に先制攻撃を仕掛ける。


それをジャンプし、避ける。

しかし、その先には白龍と紫龍が待ち構えていて、そいつらも光と闇の魔法で攻撃してくる。

俺は咄嗟とっさに守りの体勢に入り、その攻撃を耐えきった。


「さすが、龍種ってわけか」


ボロボロになった服を見ながら言った。

そんな俺に残りの四体も攻撃を仕掛ける。

北の方角に雷龍、南の方角に飛龍、東の方角に地龍、西の方角に氷龍がいた。


「やばっ!」


俺は思いっきり空間を足蹴りし、氷龍に一撃を加えようとする。

だが、間合いに入れてもらえず、龍種八体の魔法をまともに食らう。

思わず気絶しかける。


「うわぁぁぁ」


「これでどうだ?さすがに死んでるか?」


亜空間に八岐大蛇の声が響き渡る。

そして、少女の元に向かおうとした。


「ちょっと待てよ!俺はまだ生きているぞ」


少しかすり傷を負ったイグリスが八岐大蛇たちの歩みを止める。


「あの攻撃を受けて死なないのか?お前、本当に何者だ」


驚いた顔でイリスを見る八岐大蛇。

しかし、このままじゃ勝てるかどうか分からないぞ。あの少女が助けを求めていたから助けたものの妖刀がなきゃ何も出来ないのか。


『〖権能 超速再生イシス〗』


「権能だと!?

‥‥‥‥‥‥‥よく見ればその青黒い目。もしかしてお前、500年前に亜空間に閉じ込めた神殺しか!?死んだと思っていたがまだ生きていたのか?」


八岐大蛇は標的をイリスに変えたようだ。


「あの人が幾度も神々を倒し、創造神アザゼルを追い詰めた人…………………この人しかいない」


すると、八岐大蛇の言葉を聞いた少女が何か呟きながらこちらに向かってくる。


「君、こっちに来るな」


俺の忠告を無視し、少女は止まる様子はない。

八岐大蛇たちは少女が走って来ようがお構えなしに八体同時に魔法を撃ってくる。


俺はこちらに向かってくる少女、庇う。

その時、少女が光に包まれて刀に変貌へんぼうした。

俺はその刀を使って魔法を斬った。


「〖権能けんのう 憂鬱アスタロト〗」


刀の権能が発動し、魔法がちりのように消えていく。その様子に下唇を噛んだ八岐大蛇が言う。


「なるほど、そいつが妖刀だから我に回収を命じたのか。厄介なことを」


そう言い、俺から離れる。

イリス・ロードの真の強さは妖刀を扱っている時だということを感じ取ったのであろう。


「あの、これ契約してくれるってことでいいですか?」


「うわっ」


妖刀がいきなり喋りだしたので素っ頓狂すっとんきょうな声を出す。


「どうしたんですか?早く契約してアイツらを倒しましょう」


「………君は本当に妖刀なのか?」


今までの妖刀は喋る事など無かった為この妖刀と思わしき刀に俺は疑問を投げかける。


「一応、妖刀です。ただ、神に作られた妖刀ですが」


「何か深い事情がありそうだがまずは八岐大蛇を倒してからにしよう」


「はいっ!剣先に血を垂らし、自らの名前を述べてください」


俺は言われるがまま妖刀で指先を切り、血を垂らす。


「我が名はイリス・ロード」


「そして妖刀 アスタロト」


「「ここに契約の契りをかわす」」


その瞬間、身体に馴染むように膨大な力が流れるような感じがした。


「三回戦目、始めるか」


俺は八体の龍種に向かって走った。


「はぁっ」


俺は間合いを詰め、短いかけ声で赤龍に向かって刀を振り下ろす。


「〖技法 虎凪とらなぎ〗」


しかし、それを避けてまた間合いを取る。

ちっ、やりづらいな。


『主様、さっき八岐大蛇たちの魔法を斬った時みたいに私の権能を使ってください』


「主様って俺のことか?というか、さっきはなんとなく使ってしまったがいったいどんな権能をなんだ?」


「それは空間支配スペースジャックです」


「‥‥‥‥‥‥‥面白い権能じゃないか!」


俺は興奮気味に言う。

じゃあ、こんな使い方もできるそうだな。


『権能 憂鬱アスタロト


アスタロトに言われるがまま権能を使った。

その瞬間、目の前に赤龍が現れた。

俺は驚きながらもす刀を振りかざす。


「グハッ」


俺が剣撃を与えると赤龍は短い声を漏らし、地面に倒れ込んだ。

それに連動するように他の龍たちも悲痛な表情を一瞬したのを俺は見逃さなかった。


「お前、もしかして八体の痛覚を共有しているのか?」


試すように権能を使い、次は飛龍を剣撃を加える。

今の俺には距離はあるようでないので簡単に当たった。

またもや悲痛な表情を見せたので確信する。

そんな俺を八岐大蛇は恨めしそうに見て言う。


「くっ…………………空間を支配する権能か、例え、我がこの空間を支配下に置いているのにも関わらずそれを無視して攻撃できるとはな」


「戦うのをやめないか?」


辛そうな顔をしている八岐大蛇を見かねてそう問いてみると目を丸くする。


「それはどういう意味だ?」


訝しげな目でイリスを見る。


「言葉の意味だ……………これ以上戦う意味はない。現にお前の目的の妖刀は俺の手の中にある」


「ちょっと主様!」


口を挟んで来ようとしたアスタロトを制止して八岐大蛇の言葉を待つ。

だが、俺の言葉とは裏腹に八岐大蛇は首を横に振る。


「我の心臓には神の刻印が刻まれておる。どうせ何も成果なしで戻ったら刻印で心臓を潰される。だったら戦死した方がマシだ」


「そうか」


俺はその言葉を聞いて、刀を構える。


やっぱりこいつは神みたいに性根が腐ってねぇみたいだな。戦い方も真っ向勝負で自分の全身全霊をかけて俺と戦っている。

だから、神みたいに本気で殺しにいくことが出来ない。

それにこいつはそこらの神よりは強いしな。

俺も覚悟を決めて、斬り込む。


「我も易々とやられないぞ?」


青龍と地龍がたいあたりをしてきて吹き飛ばされる。だが、すぐに体勢を立て直し、もう一度突っ込む。


再度攻撃を仕掛けようとしている俺に追撃をするかのように氷龍が氷の矢を空中に生み出し、放ってきた。


俺は氷龍と間にある空間を縮めて、背後へと向かう。


「これで一体」


刀を心臓部に突き刺し、動きを止める。

氷龍は力を尽き、倒れた。


「やっぱり一体一体倒した方が確実だよね」


「チっ………………こ、これならどうだ!」


悲痛な表情で地面にへばりついている赤龍と飛龍が魔法を放った。

そして赤龍と飛龍の魔法が混ざりあって炎の竜巻ができ、こちらに向かってくる。


「〖技法 虎凪〗」


俺は炎の竜巻を斬り、赤龍と飛龍に接近する。


「〖技法 八咫烏やたがらす〗」


短く呟いて刀を一振すると、八つの剣撃が二体の龍を襲う。


「これで三体」


二体の龍が動かなくなったのを確認して他の五体に視線を向ける。


一気に三体もやられて五体の顔に汗が滲にじむ。


「次はどいつが相手だ?」


その時、水の玉が周りに無数に現れ、こちらに向かってくる。


俺に触れた瞬間、分散し、まとわりつく。


「なんだ?これは…………………うわぁぁぁ」


いきなり電撃が走り、困惑する。


周りを見渡すと雷龍が魔法を放っていた。


「なるほど…………………水は電気を通す。青龍が水で俺を濡らし、雷龍は電撃を放ったってところだな」


「その通りだ、人間は電気に弱い。流石の神殺しのお前でもこれで……………」


「すぅー、はぁ



息を吸って、吐いた瞬間、イリスは『憂鬱アスタロト』で青龍の近づき、最速の居合の型を繰り出す。


「悪いな、俺は雷耐性が高いんだ」


「〖技法 雷切らいぎり〗」


大きな光に包まれて雷龍と青龍は倒れる。


「これでもダメか、なら!」


八岐大蛇がそう言うと頭上にブラックホールみたいなのができ、俺を吸い込もうとしている。

これは多分、紫龍と白龍の技だろう。

俺はブラックホールに気を取られて死角から岩石が飛んでくるのに気づくのが遅れた。


「おらよっと」


岩石を弾いた瞬間、ブラックホールの吸引力が強すぎて吸い込まれる。


「や、やったか」


「いや、戻ってきたぞ」


「そこは感傷に浸る前に戻るところじゃないと思うんだが」


八岐大蛇は苦笑混じりに何故か背後にいる俺に向かって言った。


「これで勝てると思ってたのか?」


「…………………いや、まったく」


次は満足そうな笑みで八岐大蛇は八体なら元通り一つになって倒れた。


「早くトドメを刺せ」


「分かってる………………最後に聞きたいことがある。もしも、生まれ変われるなら何がしたい?」


「生まれ変われるとしたらか?そうだな、またお前みたいなやつと戦ってみたいな。お前みたいな優しくて強いやつと」


そう答えた八岐大蛇にトドメを刺す気にならなかった。


「どうした?早くトドメを刺してくれお願いだ」


「だが…………………」


「お前は本当に優しいやつだな………………しかし、我とお前は敵同士だ。決着をつけて欲しい。それに早く我を倒してここから出た方がいい。亜空間の崩壊が始まっている」


周りを見渡すと空間の歪みが目視できるほどはっきりしている。

俺は好敵手のお願いを聞くことにした。


「またな」


「ああ」


八岐大蛇に願いを込めて技法を使った。


「〖技法 逆転転生リカバリー〗」


俺の拳は八岐大蛇を貫き、瞬殺する。


そして、呟く。


「また会えるといいな」と

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混沌の神殺し 神港 零 @masa2e

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