第2話 亜空間での出来事

「ちっ、次から次へと神獣が湧いてきやがって!」


俺ことイリス・ロードが亜空間に来てから数百年。

未だに亜空間から出られていない。

それもそのはずだ。亜空間は魔法世界マジックスペースと完全に切り離されている別次元の世界だ。本当に出られるか分からない。

それに俺が亜空間から出よう素振りをしよう物なら神獣が大量に湧いてきて襲ってくる。


「ほんと面倒な所に閉じ込めてくれたよな、神の野郎!」


俺は嫌味混じりに言い、空気中にある微量な魔力を身体中にまとわせた。


「〖技法 覇王拳〗」


右手をすばやく突き出し、神獣を粉々に粉砕する。

それを何度も何度も繰り返し神獣たちの数を減らす。


「なんで妖刀置いてきたんだよ、俺」


こうなると分かっていれば妖刀の一本くらい持ってきていたのに。


「とはいえ、ない物をねだっても仕方ないな」


「〖技法 雷神拳〗」


次はドッカーンと音とともに神獣たちが吹っ飛ぶ。すかさず追撃を加え、確実に息の根を止める。


「ち、まだ湧いてくるのかよ‥‥‥‥‥めんどくさい」


これじゃキリがないな。

しゃあない、少し本気出すか。

「はぁ〜」とため息を漏らし、周りにいる神獣を見渡す。数は300って所だろう。


「さっさと倒してここから出る方法を本気で考えないと…………………それにミゼラたちが心配だ」


あいつは俺に心酔しているところがあるからな。まぁ、たぶん。数百年経っているから生きているかどうかは分からないが竜人族の血が入っているから長生きはすると思う。その上、ミゼラには不死鳥と契約している。生命力に関しては勝てるものはいないだろう。あいつが生きている内に「絶対戻る」という約束は守れるはずだ。


「〖技法 砲撃ほうげき〗」


大地に思いっきり拳を振り下げた。

すると、大地が崩壊して神獣たちが立ち待ち消えていった。


「これでザコの掃除は終わった。しかし、やっぱりこれは疲れるな」


この場で尻もちをついて呟く。

ここでは空腹は感じないし、眠くはならないが疲労は感じる。

その時、真っ暗な世界に声が響き渡った。


「誰か、助けて」


それは明らかに切羽詰まった様子の声色で俺を急いで立ち上がる。


「誰か、来て」


「また聞こえた‥‥‥‥‥どこだ?」


周りを見渡し、声の主を探す。

しかし、辺りは真っ暗で何も見えない。

俺は目をつぶり、神経を研ぎ澄ました。


「誰か、助けて!」


「左の方か!」


俺は足を思いっきり蹴りあげて助けの声がする方に向かった。



助けが聞こえた方に向かうと銀髪の少女と八つの頭を持った蛇みたいな神獣が睨み合っていた。


「助けを呼んでも無駄だ、ここには誰もいない」


「そんなことは分かってる!」


少女が目の前にいる神獣に言い放った。

どう見ても神獣が無抵抗の少女を襲そおうとしている。

早く助けに入った方が良さそうだ。

俺は冷静に状況を判断し、双方の間に割って入った。


「な、なんだ!?」


いきなり目の前に現れた俺に驚き、神獣は一歩引く。銀髪の子も尻もちをついて、目を見開いてこちらを見ている。

本当に誰かが来ると思っていなかっただろう。

俺は蛇の神獣の方を睨み、口を開く。


「そっちこそ何なんだよ。その巨体でか弱い少女に襲いかかろうとして………」


そう言うと蛇の化け物は口から炎を放ち、こちらに攻撃してくる。

俺はすぐさま少女を抱きかかえ、それをかわした。


「おいおい、いきなり攻撃してくるなんてひどいじゃないか?」


「お前、本当に何者なんだ?なぜお前のような人間がいる?」


「知るかよ」


俺は八岐大蛇の問いにはぐらかすように答えた。


「あの八岐大蛇ヤマタノオロチの攻撃をいとも簡単に避けるなんて」


後ろではブツブツと少女がなにか呟いている。


「大丈夫か?怪我してないよな?」


気遣った言葉をかけると彼女は激しくうなづいた。俺は抱きかかえていた彼女を離して八岐大蛇と対峙する。


「なぜこの子を狙っている?」


「……………神にソイツを連れて来いという命を受けたからだ。神々の考えていることは我には分からん」


また神絡みか……。

この子には神が欲しがる何かあるのか?


「お前、神に歯向かうのは辞めた方が良い。殺されるぞ?」


「はははっ………今更、何を言っているんだか」


八岐大蛇がいらない忠告をしていたので思わず笑ってしまった。


「忠告はしたからな」


そう言って俺に襲いかかってきた。

それをバックステップで避けて攻撃した。


「あまり戦闘はしたくないんだが…………」


「だったらその娘をこっちに渡せ」


「‥‥‥‥‥それは出来ない相談だ」


「ならば消えろ」


八岐大蛇は炎を放ち、俺に接近してくる。


どうやら少女を助けるにはこいつと戦わないといけないらしい。それに神が絡んでいるならこいつに聞きたいことがある。


イリスは炎を跳ね除け、八岐大蛇に一撃加わせた。


「〖技法 覇王拳〗」


急所に決まったと思いきや硬い鱗で俺の攻撃を受け止めた。


「へぇ〜、俺の攻撃を簡単に受け止めるなんてすごいな」


俺は素直に賞賛の声を漏らす。


「お前こそ我の攻撃を避け、なおかつ強烈な一撃を浴びせる奴は初めてだ。少し痛かったぞ」


「それはどうも」


イリスと距離を取りながら八岐大蛇が言う。

さすがにただ神獣みたいにはいかないか。


「お前、ここから出る方法を知ってるか?」


距離を詰めながら俺は聞く。


「お前、もしかしてこの亜空間から出たいのか?それは無理な話だな、なんせここは我の支配下にあるからな」


「そうか」


俺は容赦なく殴り掛かる。

だが、八岐大蛇はその攻撃を受け止め、俺に絡みついてきた。


「捕まえたぞ!」


俺のことを拘束し、強く|縛(しば)りつける。


「これなら我の炎は外さないぞ」


「さすがにまずいな」


この状況はまずいと判断したイリスは身体中に酷く絡まっている尻尾を引きちぎろうと試みる。

しかし、自分の力じゃこの頑丈の尻尾から抜け出せなかった。

イリスはまともに炎を浴びる。


「うわぁぁぁぁ」


灼熱の炎を受けた俺は丸焦げになる。

危ねぇ死ねかと思った。


「これでも死なないのか!お前、どんな身体をしているんだ!?」


炎を受けて無事だったイリスにそう言う。

こいつ確かに強いな。亜空間を支配下に置くほどのことはある。


「………………………今、お前にもうひとつ質問が出来た。お前を倒したらここは崩壊するのか?」


丸焦げになったものの肉体的ダメージはそこまで食らってない俺は聞いてみる。


「それは当然だろ、我はここの主。我が滅びればこの亜空間が崩壊するのは当たり前だ」


「へぇぇ」


適当に相づちをうって少し考え込んだ。

ということはこいつを倒したら亜空間が消滅してあの子は助からないかもしれないってことか。やっぱり半殺しにするしかないか。


「まずはここから脱出しないとな」


俺はもう一度、力を入れる。


「何度同じことをしても無駄だぞ」


「それはどうかな?」


身体中に魔力を巡らせてあの技法を放つ。


「〖技法 砲雷ほうらい〗」


イリスの身体から電撃が放出され、八岐大蛇を襲う。


「な、な、な、なんだこれは!?」


八岐大蛇はいきなりの電撃に驚き、俺の拘束を解いてしまう。


「〖技法 覇王拳〗」


解放された俺は八岐大蛇に一発入れる。


「………………さて、二回戦を始めるか」


電撃と打撃で苦しんでる八岐大蛇に向かってそう言った。

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