なちぽめらにあにょーるど

星色輝吏っ💤

第1話 ごめんください

冷たい雨が降る夜に、おばさんがやってきた。


「ごめんください」

「あ、どうぞ中へ入ってください」

「ありがとうございます」


おばさんを客間の椅子へ案内したわたしは、言った。


「最近、普通の人がやらないような奇抜なことをしたいなあと常日頃思ってる系の変人なんです、わたし。だから、埋めてもいいですか?」

「だめです」

「埋めます」

「だめです」

「そうですか。じゃあお茶淹れますね」


わたしはカップにコーヒー豆を淹れ、おばさんに差し出した。


「はい、ババア。コーヒーだよ」

「うん。なんかもう、色々と違うし、普通に悪口言われたから、どうでもよくなってきた」

「そうですか。じゃあ埋めます」

「だめです」

「埋めます」

「はい」

「じゃあ死ね――え、いいんですか⁉ ありがとうございます!!」

「え。私、ちょっとふざけて了承してなかったら死んでたの⁉ いや埋められても死ぬけどさ⁉」

「はぁ……」


わたしはこのうるさいおばさんを黙らせようと、「ちょっとガムアンドテープを持ってきますね」と言って、工具室にガムテープを取りに行った。


その時におばさんが、「それガムテープなのか、ガムとテープなのかはっきりしてほしい!」と叫んでいてうるさかった。


工具室にガムテープが見当たらなかったので、そのまま何も持たずに帰った。すると、先程よりも部屋の甘い匂いが強くなっている気がした。


わたしは気になったことをおばさんに尋ねてみる。


「おばさん、そういえば何しに来たの?」

「ごめんくださいって言ったでしょ」

「は?」

「麺類が欲しいのよ」

「わかった」


わたしは『あるもの』をリビングから持ってくる。


「はい、オーガニックコットンクッション」

「いや綿類じゃないのよ。麺類なのよ」

「ツッコミうまいね。だから帰れ」

「その『だから』の意味は分からないけれど……まあ帰るわね。さよなら、私の息子」

「へ?」

「…………」


おばさんはそのまま何も言わずに玄関を抜けて帰――


「――るとでも思ったかボケェェェィ!!」


おばさんが振り返って叫ぶ。


「読者を驚かせる嘘に決まってるじゃん」

「あ、なんか実は親子みたいなハッピーエンド的なヤツではないんだ。じゃあ見る価値なかったわ~。あ、読者の意見を代弁してます」


その後、おばさんは「じゃ」と言って帰ろうとする。


「待って!!!」


わたしはおばさんを引き止めた。


「衝撃の告白をします!」

「え?」

「昨日、ひじを曲げてよく見たら『ぬれせんべい』みたいだったので自分のひじに噛みつきました! あぁ~恥ずかしい!」

「ぶちのめすぞ」

「嘘です!本当は、本当に言いたかったことは……」

「………………」

「控えめに言って結婚してください!!」

「…………あ、ネタ切れか」

「そっすね。一応もうちょっとあるんですけど、シチュ的に厳しいかなと」

「じゃあさようなら」

「あ、雨気を付けてくださいね。酸性強いので溶けるかもしれないので」

「あ、OK。君の家もチョコレートの家だしすぐ溶けそうだから気を付けてね」

「あ、はい」


おばさんは帰った。おばさん、あの風貌的に……多分二十代かな。

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