第2話

午後1時頃。太陽はぎらぎらと僕の真上に憎らしく輝いていた。降りかかる太陽の光線は全く僕を苛苛もさせるし、僕の体力も奪っていった。


今僕は、長く続く国道を適当に歩いている。もう長い間メンテナンスもされていない道なので、車道も歩道も所々凸凹になっている。歩きづらいことこの上ない。かれこれもう2時間ほど歩いているが、僕の好みに合うような良い家はちっとも見つからなかった。


ぜぇ、はぁ、とあがる息。滲む汗を僕は腕で拭う。ふと下がっていた目線を前へやると数メートル先にバス停とベンチがあった。バスなんて来るはずもないが、僕はとりあえずそのベンチにて暫し休憩を摂ることにして、やや小走りでそこへ向かった。


バス停へ到着し、ベンチへ腰掛ける。背負っていたバッグをわきに置いて一段落した。ふぅ、と熱くなった息を吐くと、少しばかり頭がすぅーっとした。


改めて落ち着いてみると当然と言えば当然だが、なんの音もしない。1年ほど前からこんな調子だ。遠くで聞こえた飛行機の音も、迫ってくる車の音も、それどころかこの暑い時期に嫌でも聞こえて来たはずの虫の音だって聞こえやしなくなった。


理由は分からない。ある日朝起きたらこうなっていた。街にも駅にもどこにも人は消えて、音もしなくなった。それでも、建物とかは全く何も変わっていなかった。生き物だけが急に居なくなってしまったのだ。

もしかしたらこうなる前にニュースになってた戦争云々の話題と関係あるのかもとかと考えたり、困惑もしたし、不安にもなったが、考えても仕方ないと考えることもやめた。

むしろ、この世界では考える必要もなかった。良い人も悪い人も、好きだった人も嫌いだった奴も消えちゃったのだから考えるのも馬鹿馬鹿しくなって、やめた。


バッグからペットボトルを取り出す。さっき立寄ったコンビニからとってきた炭酸飲料。蓋を掴んで力を入れる。ぐるるっ、と鈍い音をさせて蓋は開いた。僕はそれをぐっ、と飲み込む。グレープの甘みと炭酸の刺激を喉に感じる。まだ各所の電気は生きているのでこの飲み物もしっかり冷たく、火照ったからだに癒しをくれた。


もうこの生活に慣れきってしまって以前まであった道徳とかそういうのも感じなくなってしまった自分が時々怖くなる。色々気負いしなくなったのは大変嬉しいが、自分が変容していくのを自覚するというのはやはり怖かった。


ふと、視線を左の方へやる。何かがあった。身を乗り出してそれを覗いてみるとそれは人だったものだった。下半身はなく、頭もとれている。ちょうどベンチの影で近づいた時には見えなかったのだろう。生きてる人は見なくなってもこんな感じで死体を道端で見かけることは割とあった。もう何も感じなくなったが、この無惨さを見る限りやはり何かがあったのだろうと感じる。気分が悪くなった僕はペットボトルをバッグにしまって立ち上がると、バス停を後にした。頭のない死体はどこを見ているのだろうと変なことを僕は考えた。

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カタストロフィー キリシマ レアン @rean4500

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