第22話 平和の到来

 林サミコは,また,涙が出て来た。


 というのも,同席している軍隊のトラックの座席で,一影たち9名は当然のこと,ツバメと,一歳児の女の子の姿をしたルリカ(メリル)も一緒にいる。


 それは,いいとして,ツバメから,銀次は,ずーっと部屋の片隅で,死んだように立っていると説明を受けたからだ。


 林サミコは,ルリカになんらかの罰を受けてそういう状態にさせられたのだろうと思った。


 林サミコは,銀次と一緒になれる日は,もう来ないのではないかと感じて,涙がさらに溢れてきた。


 ・・・

 どうして,林サミコは,こんな軍隊のトラックの中にいるのか? それは,クララからの依頼だ。つまり,クララの身代わりに,ツバメとの模擬戦をしなさいという依頼だ。


 林サミコは,クララの依頼は断れない。林サミコは,クララから魔力ベストと魔装服を渡された。林サミコは,その使い方をよく知っている。だって,幸千子が旧タイプの魔力ベストや魔装服を使っていたかだ。尚,当のクララは,ノンビリと自宅でお産の準備をしている。


 それに,同じトラックの中に,なんで敵となるツバメやルリカがいるのか? それは,ツバメが,千雪組の仲間として認識しているからだ。つまり,政府側の人員だ。ルリカが同行していることは,まったくの予想外だ。もし,同行していると事前にわかったら,こんなアレンジはしなかったかもしれない。


 ・・・

 数時間後,


 解体が決定している第8火力発電所の敷地内に到着した。ツバメの役目は,この発電所の完全破壊だ。一影たち9名と林サミコは,それを阻止するため,ツバメに攻撃することが許されている。一方,ツバメは,一影や林サミコには攻撃することが許されていない。


 初回の模擬戦ということもあり,ツバメの能力が未知数のためだ。


 ツバメは,ルリカに声をかけた。


 ツバメ「ルリカ様,目的地に着きました。観戦方法は,どうしますか?わたしの背中にいますか? それとも,一影たちのほうに行きますか? わたしは,彼女らを攻撃しませんので,一影たちにいるほうが安全だと思います」

 ルリカ「・・・,林サミコの背中がいい」

 ツバメ「了解しました。では,彼女に依頼します」


 ツバメは,林サミコにルリカをお願いした。だが,彼女は,断った。恐怖の存在であるルリカを背中に背負うなど,絶対に有り得ない。一影たちにも依頼したが,ダメだった。


 已むなく,ツバメの背中にいるしなかった。


 ツバメ「ルリカ様,すいません,わたしの背中で我慢してください。攻撃されますが,たぶん,防御可能だと思います」

 ルリカ「期待しているわ」

 ツバメ「はい,万難を排してお守りします」


 ツバメは,いずれルリカと戦うことになる。でも,ツバメにとって,ルリカは強者であり,敬うべき存在であることを充分に理解している。


 第8火力発電所の大広間に,ツバメが陣取った。そこから,50メートルほど離れて,一影たちと林サミコが陣取った。


 試合開始の合図は,一影が天に向けて中級爆裂弾を発射することでスタートする。


 一影「皆さん,準備はいいですか?」

 二影たち「OKです!」

 林サミコ「わたしもOKです!」


 一影は,天に向けて中級爆裂弾を発射した。


 パキューーーン! ドーーン!


 試合開始の合図だ。試合と言っても,ツバメは,一影たちを攻撃できない。なんとも,不便な試合だ。


 ツバメの視界には,第8火力発電所の施設の設計図がある。10箇所の目標地点を指定して,中級爆裂魔法陣を起動して,10連発の爆裂弾10回繰りかえしを指定した。弾の軌道は,アーチ状にした。射程距離が長く取れるためだ。尚,魔法攻撃の射程距離は,せいぜい100メートルが限界だ。


 この攻撃は,一影たちが,初級針状氷結弾によって,目標地点に到着する前に破壊された。もっとも,一発の爆裂弾を破壊するのに,5,6発の氷結弾が発射されている。


 一影たちの目的は,ツバメを攻撃できるが,発電所を守るという役目もある。そのため,ツバメを攻撃するよりも先に爆裂弾の破壊を優先した。


 一影は,このままでは,ツバメに攻撃できないと判断,林サミコに爆裂弾の破壊を中止して,ツバメに攻撃するように指示した。多少の被害が出たところで,已むなしとの判断だ。


 林サミコは,初級氷結弾を,ツバメに向けて発射した。


 ツバメの周囲10メートル先には,魔力の消費が少ない網状感知結界が構築されている。1時間くらいの連続使用が可能だ。そこで感知すると,自動で防御結界がツバメの周囲1メートル先に構築される。

 

 林サミコ『師匠,ダメです。氷結弾では防御されます。威力を上げても効果ないと思います』

 師匠『では,奥の手だな?』

 林サミコ『はい,どんな奥の手があるのですか?ワクワク!』

 師匠『S級氷結弾に,範囲3メートルの5倍時間遅延魔法を付与して発射しなさい。2発目以降は,範囲10cmだけの5倍時間加速魔法を付与したS級氷結弾を連射しなさい。それでゲームオーバーだ』


 林サミコ『了解でーす』


 時間魔法が付与された氷結弾が感知結界を通過したとき,ツバメの視界では,アラームが発動した。


 『時間魔法が付与されています。加速100倍状態を発動します。体表に,ダイヤモンドの20倍の硬度をもつ霊力の層を構築します。かつ,5重の防御結界を発動します』


 師匠の発案した5倍程度の時間遅延魔法では,加速100倍状態にしたツバメの前では,まったく効果はなかった。1枚の結界を破壊されると,すぐにまた新しい結界が構築された。まったく時間遅延の影響がないようだった。


 林サミコ『師匠,まったく時間遅延の効果ありません』

 師匠『なんと!どういうことだ? 結界を構築する速度が速すぎるってことか? ならば,時間遅延100倍に引き上げなさい』

 林サミコ『了解です』


 だが,時間遅延100倍でも,まったく効果なく,1枚目の結界が破壊されると,すぐに次の結界が構築された。


 林サミコ『100倍遅延でも効果ありません!』

 師匠『なんと! 敵は100倍以上の動作を可能にするか?! これ以上,時間魔法を使うと,帳尻合わせの副作用が大きくなる。この作戦は中止だ』


 この師匠の意見に,林サミコは反対した。こんなことくらいで,この作戦を中止したくない。たとえ,あとで過去に飛ばされたとしても,,,


 林サミコ『師匠,1万倍の遅延を使わせてください!』

 師匠『・・・,よし! やってみろ!帳尻りの件は,あとで考える!』

 林サミコ『了解!』


 林サミコ『S級氷結弾に,範囲3メートルの1万倍時間遅延魔法を付与しました。有効時間5分間です。発射します。次に,範囲10cmの1万倍時間加速魔法を付与したS級氷結弾を連弾連射します』


 1発目で,相手側に1万倍の遅延時間軸の範囲内に留めて,その後,その時間遅延を相殺したS級氷結弾が,5重の防御結界を襲った。


 バリン,バリン,バリン,バリン,バリン!


 ツバメの構築した5枚の防御結界は,S級氷結弾の連続攻撃によって破壊された。もともと,防御結界の強度をS級レベルに設定したため,さほど強固な結界にしていなかった。無駄な魔力消費を抑えるためだ。


 時間遅延の効果が効いている以上,ツバメは,なすすべはない。攻撃を受け続けるしかない。


 1万倍時間加速魔法を付与されたS級氷結弾が,ツバメの体にクリーンヒットした。しかし,その氷結弾は,ツバメの体を貫くことは出来なかった。


 林サミコ『師匠! S級氷結弾が効果ありません!』

 師匠『では,最高強度に上げなさい!』

 林サミコ『了解!』


 林サミコは,魔力ベストからどんどんと魔力を吸収していって,SS級,US級,さらに,TU級にまでレベルをあげて,氷結弾を生成していった。そして,1万倍時間加速魔法を付与して発射した。


 パピューン!


 ガガガー!


 その氷結弾は,ツバメの表皮にある霊力の層を貫いた。貫いた距離は,僅か1cm程度だった。ツバメに幸いしたのは,その氷結弾には,1万倍時間加速魔法が付与されていた。その範囲10cmの範囲で,時間遅延が相殺された。


 その場所は,霊力の核のそばだった。


 霊力の核『1万倍時間加速魔法陣の存在を確認,解析します。解析完了,当該魔法陣のコピー完了。体全体に1万倍加速魔法を展開します。展開完了,遅延魔法を相殺しました』


 ツバメに念話連絡があった。


 霊力の核『現在,1万倍加速魔法を展開して,遅延魔法を相殺中です。損傷した霊力の層は修復完了しました。反撃完了です』

 ツバメ『時間遅延魔法は,解析できないの?』

 霊力の核『できます。霊力の触手を展開して,遅延魔法陣の所在を探査します。少々,お待ちください』


 ツバメの体から何本もの触手が繰り出されて,魔法陣の所在を探した。


 霊力の核『時間遅延魔法の所在を発見,解析します。解析完了,コピーします』

 

 ツバメ『では,TU級爆裂魔法に,時間遅延魔法を付与して,10ヶ所の目標地点を破壊しなさい』


 ツバメは,的確に念話で指示した。念で視界のモニター画面にタッチするよりも,念話指示のほうが楽だった。


 やられたことはやり返す! ツバメは,少し戦士的に変化した。

 

 パピュウーン! ーーー


 半径3メートルの範囲で1万倍時間遅延を展開できる10発のTU級爆裂弾が反射された。完全なる回避不能な爆裂弾だ。一影たちの迎撃攻撃は,まったく意味をなさなかった。


 「ええ? まったく効果ないわ!」

 「われわれの攻撃が,途中で止まってしまった!」

 「あれ,時間遅延魔法よ!」

 「うそーー!」


 ドドドドドドーーー!


 10ヶ所の施設が木っ端微塵に粉砕され,その爆風は,半径10kmメートルにまで及んだ。一影たちや林サミコだけでなく,その魔法を放ったツバメさえも,その爆風のために,何百メートルも吹き飛ばされてしまった。


 空中に吹き飛ばされたツバメに念話が聞こえた。


 霊力の核『霊力の翼を展開,空中浮遊します。高度を徐々に下げます』

 

 ツバメは,安全に地表に着地した。


 一影たちは,なんとか,周囲に風魔法を展開して,地面への直撃を避けた。


 空中に吹き飛ばされた林サミコは,師匠の指示が聞こえた。


 師匠『すぐに,この魔法陣を覚えて,展開しなさい』

 林サミコ『はい,覚えました。すぐに魔法展開します』


 ビューーン! 

 

 林サミコ『え? なんで空中に浮かんでいるのですか?』

 師匠『反重力魔法だ。失われた魔法のひとつです。有効時間は3分間。ツバメの場所を探知しなさい』

 

 林サミコは,すぐに熱探知魔法を周囲に展開した。

 

 林サミコ『発見しました。赤ちゃんサイズの熱源です』

 師匠『では,この魔法陣収納魔法陣を覚えて,すぐに展開しなさい!』

 林サミコ『了解です。はい,覚えました。展開します!』

 師匠『よし! そこに,魔力ベストの魔力すべてを込めて爆裂魔法陣を投入しなさい』

 林サミコ『了解です!』


 魔法陣収納魔法陣に,TU級爆裂弾魔法陣を10体詰め込んだ。この魔法陣収納魔法陣,この魔法陣は,師匠が独自に編み出したもので,オリジナルの魔法陣だ。


 林サミコ『師匠!魔力ベストの魔力がもうありません!』

 師匠『では,魔法陣収納魔法陣を,赤ちゃんの熱源に瞬間転移させて,その魔法陣を発動させなさい!』

 林サミコ『了解です!』


 その魔法陣はツバメの眼前に現れた。


 ツバメ『え?何?』


 ドドドドドドーーー!


 その爆破地点を中心に,直径2kmもの範囲で,大きなクレーターが出現してしまった。


 折角,風魔法でなんとか地面に直撃を避けた一影たちは,また再び,はるかかなたへ吹き飛ばされてしまった。


 林サミコも,吹き飛ばされたが,瞬間移動と,反重力魔法を組み合わせて,さほど苦も無く,地面に着地した。


 この林サミコとツバメの勝負,いや,正確には,林サミコと師匠のペアチームとツバメの勝負は,林サミコチームの勝ちだった。


 林サミコチームの攻撃力・防御力は,すでにトップレベルに達していると言っても過言ではない。


 しかし,ツバメにはメリル(ルリカ)がいた。メリルは,札幌決戦と同じ回避技を直前で構築した。亜空間防御結界だ。かつ,発動と同時に,事前にマークしておいた避難場所に高速転移した。

 

 ・・・・

 1時間後,周囲の状況が明らかになった。第8火力発電所の施設は,跡形も無く消滅していた。それ以外に,直径2kmもの範囲で,大きなクレーターが出現してしまった。ミサイル攻撃何十発分もの破壊力だ。


 待機していた軍用トラックは,ほぼ壊滅状態になった。幸い,運転手は重傷を負ったものの無事だった。


 さらに1時間後,はるか遠くに飛ばされた一影たちが,三々五々集合してきた。林サミコは,彼女らに手を振った。


 一影「サミコ,あなた,クララに負けず劣らずの化け物ね。びっくりしたわ」

 林サミコ「えー? わたし,師匠の指示通り動いただけですぅー」

 一影「ところで,ツバメはどうしたの? 死んだの?」 

 林サミコ「さっきから熱源探知しているのですが,探知できません。もっとも,魔力ベストに魔力がないので,自分の魔力で戦うことになりますけど」

 一影「でも,メリルが背中についているんだから,死んだとは思えないわ。もう模擬戦は,終了よ」


 一影は,ふたたび天空に向けて,中級爆裂弾を発射した。


 ドーーン!


 模擬戦の終了の合図だ。


 しばらくして,メリルを背負ったツバメが彼女らのところにやって来た。


 林サミコ「ツバメ,どうして,あの最後の攻撃,防げたの?」

 ツバメ「わたしは,防げませんでした。もうダメかと思いました。あの試合,サミコさんの勝ちです」

 林サミコ「なるほど。ということは,メリルさんが,回避したってことね?」

 ツバメ「はい,メリル様に感謝です。助かりました」

 

 林サミコは,師匠に念話した。


 林サミコ『師匠! 悔しー-ですぅー! 銀次さんを奪われて,銀次さんを消滅させられて,しかも,模擬戦で勝てないなんて,,,もう泣きたいですぅーー!』

 師匠『あの最後の攻撃を躱されては,今のままでは,手の打ちようがない。しかも,われわれに反撃しないというハンディキャップをつけてもらってこの有様だ。もし,反撃されていたら,手も足も出なかったと思う。われわれは,まだまだ弱者なのかもしれない』

  

 師匠『サミコ君,泣くのは早い。われわれには,まだ,隠し球がある』

 林サミコ『え? 何ですか?』

 師匠『まあ,待て,もっと,作戦を練ってからだ』

 林サミコ『はい!師匠!』


 まだ隠し球があると聞いて,林サミコは少し気分を回復させた。


 一影は,ツバメにあの時間遅延について聞いた。


 一影「ツバメさん,あの爆裂弾,わたしたちの迎撃攻撃を無効化したの,あれ,時間遅延魔法ですよね?」

 ツバメ「はい,そうです。サミコさんが,わたしに攻撃してきたのですが,幸い,魔法陣が発動していました。解析・コピーをさせていただきました」


 その話を聞いて林サミコが驚いた。


 林サミコ「ええーー? ツバメさん,時間遅延魔法陣をコピーしたの??」

 ツバメ「はい,この体には,その能力があるようです。時間加速魔法陣もコピーしました」


 ガーーン!


 林サミコだけの得意技と思っていたのに,こうも簡単に解析・コピーされてしまうとは!


 林サミコ『師匠! 悲しいです。時間魔法,,,奪われてしまいました,,,』

 師匠『心配するでない。奪ったのは,ツバメだ。千雪組が総力を結集して造った最強の体のツバメだ。彼女が奪ったのであれば,他者に伝わる可能性はまずない。それに,使用する度に,帳尻を合わせるつけが大きくなる。心配無用だ』

 林サミコ『はい,師匠,クスン,そうですね。そういうことにしておきます』


 その後,監視衛星を使って,彼女らの模擬戦をモニターにしていたα隊5号は,別の軍用トラックの手配をしていた。

 

 その後,間もなくして,軍用トラックが来たので,彼女らは,それに乗ってこの地を後にした。


 ーーー

 その後,第8火力発電所の被害状況と,直径2kmにも及ぶクレーターの破損状況を見て,今後の模擬戦は,陸上ではなく海上に変更することになった。


 ルリカ(メリル)は,自分が,この月本国にいると,ルリカを倒すために,どんどんと魔法レベルを引き上げてくるのをヒシヒシと感じた。


 それに,銀次もいないし,水香もいなくなった。もう,この世界に未練などまったくない。


 ルリカ『そろそろ潮時かもしれないわね。ツバメと真剣勝負をしましょうか,,,』


 ルリカは,ツバメとの真剣勝負をする覚悟を決めた。


 ーーー

 数日後,ルリカとツバメは,海上の上空10メートルほどの高さにいた。お互い,全力の勝負をするためだ。


 実は,ルリカは,ツバメの背中にいるときに,こっそりと霊力をツバメの体内に流して,ツバメにバレないように,ツバメの霊力の核内にある,あらゆる情報をコピーしていた。何時間もかかってしまったが,その時間は充分にあった。


 その結果,この勝負,戦わずして,ルリカの勝ちは目に見えていた。でも,そのことは,ツバメには内緒だ。


 ルリカは,収納指輪から剣を取り出した。新魔大陸でさんざん修行した『神羅万象消滅剣』を再現するためだ。


 一方,ツバメの視界モニターでは,数々のシミュレーションを行っていた。

 

 霊力の核『ルリカは,すでに,周囲に1万倍の時間遅延魔法を展開中。1万倍の時間加速魔法を付与した攻撃が有効と思われます。ルリカは,加速100倍から200倍は可能と推測されます。そのため,あらゆる魔法攻撃は回避されます』

 ツバメ『じゃあ,どうすればいいの?』

 霊力の核『ルリカを倒すには,周囲に1万倍の時間加速魔法を展開して,時間遅延を相殺し,かつ,霊力の加速300倍を持って,肉弾戦にもっていくことをお勧めします。マニュアルモードに移行します。検討を祈ります。ただし,自動防御機能は維持されます。霊力による浮遊操作も自動で行います。陸上と同じ感覚で行動可能です』


 ガーーン!


 ツバメは,肉弾戦などしたこともない。武芸など,これっぽちも経験していない。いくら,この体が300倍を達成できるにしても,どうやって敵を倒すの?


 ツバメ『ねえ,自動で,武芸を行うモードはないの?』

 霊力の核『設計されていません。ホーカ様に進言されることをお勧めします』

 

 ツバメは,敵を倒すことを諦めた。ただし,300倍で動けるのなら,攻撃を躱すことはできるはずだ。本当の強者との戦い,最終的には,剣術や武芸のレベルで決まると思った。


 ツバメの視界モニターに,アタームが鳴った。


 霊力の核『ピー!ピー! 周囲の空気が数度減少しました! 空気の流れがルリカ様に流れて行きます!』


 霊力核は,ルリカを様付けした。強者への敬称だ。


 霊力の核『魔法とは異なる破壊技が放出されます。自動防御結界構築しました。TU級防御結界1枚目完成,2枚目完成,3枚目完成,4枚目,,,』


 ピッキューンー!ピッキューンー!


 4枚目を構築する途中で,ルリカの『神羅万象消滅剣』は放たれた。しかも,十字切りによる,2重の超ウルトラ風刃だ。


 バババー! 


 霊力核の構築するすべての防御結界が破壊された。そして,勢いを維持したままツバメの体を十字状に,完膚なきまでに切断した。


 ルリカ「ふーー! やったわね。ツバメの霊体が,武芸をマスターしてなくて助かったわ」


 4分割されたツバメの体は,その後,切断部分を自動で修復していった。1分も経たずに,完全に元の姿に戻った。


 ルリカ「なるほど,十字切りの『神羅万象消滅剣』でも,ツバメの体を破壊できないのね」


 霊力の核『ツバメ様! ボケーッとしてないで,回避するなりしてださいよ!これでは,ホーカ様にどやされますよ! この映像は,あとでホーカ様に見てもらんですから!!』


 霊力の核は,ツバメの霊体に怒ってしまった。


 この怒りの言葉に,ツバメはハッとした。


 ツバメ『そっ,そうね,せめて回避するなり,攻撃すればいいのね?』

 霊力の核『そうですよ! あっ! また,周囲の温度が下がりました!間もなく,次の攻撃が来ます!』

 

 ルリカ「『神羅万象消滅,3重十字剣!!」

 

  ピッキューンー!ーーー


 ルリカの3重にもなる十字剣が放たれた。もし,ツバメの体にヒットすれば,10分割以上に分断されてしまい,自動回復が不能になる。


 ツバメ『300倍加速! 回避!』


 ツバメは,300倍加速技で,その3重十字剣を回避した。その加速状態で,ルリカの間合いに入った。


 ルリカは200倍速が可能だった。だが,ツバメの速度には勝てなかった。


 ツバメは,気が弱いので,赤ちゃん形態のルリカを殴るなんてとても出来ない。300倍の加速状態を維持したまま,収納指輪から次元転移魔法装置を取り出して,それを稼働させて,すぐにその場から離れた。


 ヒュィーーーン!


 ルリカは次元転移装置によって,その場から消失した。


 その刹那,ルリカの赤ちゃん顔は,少し微笑んでいるようだった。


 ツバメが出来るのは,このくらいだった。


 霊力の核『ツバメ様,攻撃はできませんでしたが,次元転移装置を起動したのは評価できます。ホーカ様も,これで少しは怒りが収まると思います』

 ツバメ『そうならいいけど。それに,まな美様の依頼を実行したことになるから,わたし,もう自由なのかな?』

 霊力の核『あとは,ホーカ様と相談ごとになります』



 ・・・

 その後,ツバメは,ホーカとの義務を果たした。その後,ツバメの肉体から霊力の核を取り除かれたが,霊力で構成された体を手に入れることができた。


 ツバメは,完全な自由の身になって,数ヶ月有効な霊力の体を手に入れた。


 ルリカの消失は,すぐに政府側に伝わった。そのニュースは,公開されることはなかった。


 世の中,一見平和に戻ったように見えた。

 

 ーーー

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第8節 林サミコの哀愁 @anyun55

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