第21話 暗殺執行

 森タミコは,林サミコの霊体を支配している。森タミコは,そう思っていた。しかし,所詮,霊体の抜け殻だ。本体の霊体と接触してしまうと,徐々にその抜け殻は溶解してしまい,新しい殻が構築されていった。


 森タミコは,林サミコと完全に融合してしまい,本来の林サミコが目覚めた。


 林サミコは,相変わらず超爆乳を揺らしながら,いつも通りに警視庁本部に出勤して,美味しいデザートを食べていた。


 プルプルーー!


 電話がなった。その電話は,警視庁から貸与されたものだ。この電話番号を知っているものは限られている。α隊,まな美,幸千子くらいしかない。でも,非通知でかかってきた。


 どうせ,暇だから,電話に出ることにした。


 林サミコ「だれですかー?」

 電話「フフフ,サミコ,ずいぶん偉くなったもんだな。警視庁長官直属の最高顧問? まったく,世の中,わからないものだ」

 林サミコ「え? もしかして,ご主人様?」


 林サミコが言うご主人様とは,暗殺業を仲介する直輝のことだ。10分暗殺者の横行で,暗殺業がまったくできなくなり,仕事を失ってしまった。娼婦をするにも,母乳が男性のあの部分を破壊してしまうので,それさえもできない。折角,ザビルから,『ザビルの楽々殺しのテクニック100』を伝授されたのに,それを発揮する機会がほとんどなかった。


 直輝「そうだ。この電話番号を発見するのに,ずいぶんと時間がかかってしまった。フフフ」

 林サミコ「わたしに電話するって,もしかして仕事でも入ったんですか?」

 直輝「そうだ。その部屋も,この携帯も監視されているんだろう。いったん,警視庁の建物から出なさい」

 林サミコ「はい,ご主人様」


 林サミコにとって,直輝は,やはり恩義がある。2ヵ月だけだったが,禄に仕事もしないで,マンションをあてがってもらい,専門学校まで行かせてもらった。まだ,その恩義を返せていないと思っている。


 直輝「では,次に,左の道路に先にある公衆電話に行きなさい」

 林サミコ「はい,ご主人様」


 林サミコは,その公衆電話に来た。そこには,ひとりの若者がいた。彼は,林サミコに近づいて,1枚の紙を示した。彼女は,その紙を見た。


 『本日の午後2時に,我が国を訪問中のKC国の第三書記が,警視庁本部を表敬訪問する。彼の暗殺をお願いしたい。成功報酬は1億円。以上』


 その紙には,第三書記の顔写真が3枚ほど印刷されていた。


 その若者は,すぐに,その紙をライターの火で焼いて燃やして,その場から去った。


 林サミコは,初めて,組織的な暗殺の依頼を受けた。


 ふと,警視庁本部の周囲を見ると,警備がいつもよりも厳重だった。しかも,SART隊の魔装部隊も,要所要所で警備している。


 そんな厳重な警備でも,今も林サミコはフリーパスだ。一応,警視庁本部に入るためには,ボディチェックを受ける。林サミコは,携帯と身分証しか持っていないので,もちろん,スムーズに中に戻ることができた。誰も,林サミコが暗殺を受けるなど思ってもいない。


 林サミコは,どうやって,暗殺するかを考えた。いいアイデアがないので,いつも寝ているザビルを強制念話で起こして聞いてみた。


 林サミコ『ご主人様! 直輝様から暗殺の仕事が入りました。この警視庁本部に,午後2時に,KC国の第三書記が表敬訪問します。彼の暗殺です』

 ザビル『なるほど,,,暗殺だけなら簡単だろうが,容疑者としてサミコがすぐにリストアップされてしまうな。容疑者リストから排除する必要がある。魔法で殺すにしても,魔法とバレてはいけない。見かけ,毒殺に見せる必要がある,,,となると,,,』

 

 ザビルは,林サミコの頭の中に,ある魔法陣を出現させて,それを林サミコに覚えさせた。次に,ふぐ毒のテトロドトキシンの構造式を,林サミコに覚えさせた。


 ザビル『サミコ,最初に覚えた魔法陣の核に,テトロドトキシンの構造式を投影させなさい』

 林サミコ『はい,ご主人様』


 林サミコにとって,命令者はすべてご主人様だ。ザビルしかり,直輝しかり。


 ザビル『よし,次に,その魔法陣の古代文字の反射回数を2回としなさい』


 ここに来て,林サミコは,魔界語の古代文字など理解していない。


 林サミコ『あの,古代文字ってなんですか?』


 ザビルは,ガックリ来た。一から教えてもいいが,時間がかかりすぎるし,ザビルの考えている『反射』が間に合わない可能性がある。でも,今さら,他の暗殺手段では,林サミコを危険にさらしてしまう。やむを得ない。一から教えることにした。


 ザビルは,古代魔界語の文字列を教え込んだ。林サミコはその文字列をすぐに覚えた。かつ,反射,回数という単語や,数詞も覚えた。ザビルが思っていたほど,時間はかからなかった。


 ザビル『よし,ここからが,最大の問題だ。警視長官は,必ず,第二書記に会う。警視長官が,第二書記に会う直前に,サミコが警視長官に会いなさい』

 林サミコ『え?でも,直前って,午後2時の前ですか?』

 

 ザビルは,反射2回は,リスクがあると思った。この魔法陣は,面と向かう人に魔法陣が移り,その回数分移った後に,発動するというものだ。もし,警視庁長官がターゲット以外の人物に会ってしまったら,目も当てられない。でも,この魔法の不便な点は,反射回数は2回からだ。1回はない。


 ザビル『・・・,よし,予定変更だ。タイマー魔法陣を6時間後に設定して,この魔法陣と連結しなさい』

 林サミコ『それはいいのですが,わたし,何の名目で第二書記に会えば,いいのでしょう?』

 ザビル『意思があれば,なんとでもなる。それに,制服を着ているから,それは,正装にもなる。着替える必要もない。ただし,コブラはダメだ。胸の中に隠せ』

 林サミコ『わたし,魔法が使えるのは,みんな知っています。魔法発動を阻止されるような装置を付けられたら,手も足も出ません。それに,ご主人様だって,魔法が使えないんでしょう?』

 ザビル『フフフ,そのための反射魔法陣だ』

 

 ・・・

 警視庁長官室


 林サミコは,警視庁長官と面談した。

 

 林サミコ「あの,,,KC国第二書記との公式会議では,わたしも同席させていただけないでしょうか?」

 警視庁長官「どうしてかね? 何か,思うことでもあるのかな?」

 林サミコ「あの,,,できれば,サインをもらいたいんです。公式会議の後の時でも結構です」

 警視庁長官「林サミコ君は,魔法も使えるし,その気になれば,殺人行為だって容易にできてしまう。さすがにそれはできないな」

 林サミコ「では,魔装部隊の方にお願いして,わたしが魔法使えないように,魔法ブロックバンドをしてもいいです。もしくは,魔法による宣誓契約で,決して,魔法を使わない,第二書記に対して,危害,殺害をしないと明言してもいいです」


 この言葉に,警視庁長官は折れた。α隊隊長とクララを呼んで,林サミコに,魔法による宣誓契約を施した。さらに,念のために,S級以下の攻撃魔法をブロックする魔法ブロックバンドもすることになった。



 ー 公式会議 ー

 公式会議では,林サミコは,警視庁長官直属の最高顧問という肩書きでもあるため,この会議に参加してもまったく問題ないし,本来,参加すべき人物のひとりだ。


 ただし,彼女の年齢があまりに若いため,序列6番目として,会議の座席に座った。


 会議が始まる前,マスコミが一斉に入って写真を撮った。写真撮影が終わって,マスコミ連中を追い出してから,正式な会合が開催された。


 会議は,1時間程度で終了した。所詮,差し障りのない,言葉の応酬だった。


 林サミコの胸の大きさは,KC国の参加者にも,特別な眼で見られた。林サミコは,警視庁長官経由で,第二書記のサインを貰うようにお願いした。


 警視庁長官「第二書記,大変失礼かもしれませんが,わたくしどもの最高顧問が,あなた様のサインをお願いしております。サインをいただくことは可能でしょうか?」


 第二書記は,林サミコを見た。彼女の豊満すぎる胸を見た。彼は,ニヤっと微笑んだ。


 第二書記は,通訳を経由して返事した。


 第二書記「もちろん結構ですよ。わたしも彼女にサインをしてあげるのは光栄というものです」


 第二書記は,サインをして,なんと,自ら,林サミコの前に来て,そのサイン色紙を林サミコに渡した。


 林サミコは,感激して,喜びの顔をして,深々と第二書記の前で頭を下げた。彼女の頭には,保護色のザビルがいる。ザビルと第二書記の距離は,30cmほどにもなった。


 林サミコは,ザビルから『もう頭を上げていい』との指示を受けたので,ゆっくりと笑顔のまま顔をあげた。

 

 林サミコ「第二書記,ほんとうにほんとにありがとうございます。一生,大事にします。我が家の家宝にします!」

 

 第二書記は,ニコニコとして,その場を去った。


 ザビルは,林サミコに念話した。

 

 ザビル『第二書記には,なんの恨みもないが,きっと,誰かに大きな恨みを買ってしまったのだろうな』

 林サミコ『はい,なんか,可哀想になってきました』

 ザビル『まあ,暗殺業とは,そういうものだ』

 林サミコ『でも,ほんとうにバレないのでしょうか?』

 ザビル『サミコが立っている位置と,お辞儀をした位置は,ちょうど,監視カメラの死角になっている。隠蔽魔法陣を識別する装置があっても,発見するのは無理だろう』

 林サミコ『さすがは,ご主人様ですね。あの反射魔法陣を,わたしがご主人様に1回目として移し,ご主人様が,第二書記の胸に2回目として移してしまう』

 ザビル『わたしが,赤ちゃんの形態で保護色になれたから出来たことだ。もう,こんなことはできないだろう』

 林サミコ『そうですね。では,スィートルームに戻ります。残りのデザートを食べに行きます』


 林サミコの後ろから,クララが着いてきた。クララは,林サミコから魔法ブロックバンドを回収しながら,小声で林サミコに言った。


 クララ「まさか,保護色のカメレオンさんが隠蔽魔法陣を展開するとは思ってもみませんでした。魔獣族の赤ちゃんは魔法が使えません。いったい,どうしたら,そんな芸当ができたのでしょう。今度,じっくり聞かせてくださいね?」

 林サミコ「え? クララ,あなた,カメレオンの保護色を認識できるのですか?」

 クララ「出来るようになりました。たぶん,このお腹の子の出産が近いからだと思います。出産には,あなたも立ち会ってくだいね? フフフ,このことは内緒にします。貸し,ひとつですよ」


 クララは,重たいお腹をしながら,去っていった。


 ・・・

 7時間後,第二書記がフグ毒で死亡したとニュースで大々的に報道された。


 ーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る