第20話 新生千雪

 ー 助産婦のアパート ー


 助産婦の部屋は,一部屋しかない。その一部屋に,ルリカ,銀次,水香が居候している。

 

 その内,水香が忽然と消えてしまい,かつ,銀次の頭部も消失した。


 リルカは,まず,水香の対応をした。水香の標的魔法陣を発動した。しかし,赤い糸は切れていた。


 リルカ「え? これって,次元転移?」


 リルカは,水香が,この世界にいないことを理解した。

 リルカは,次に銀次の対応をした。その魔体を詳しく調べた。首が強いちからによって引きちぎられていた。頭部に銀次の霊体があるのに,銀次の霊体もここに存在しない。


 可能性があるのは,水香が銀次の頭を持ていった可能性が高い。


 ルリカは,銀次も水香も失ってしまい,もう,月本国にこれ以上いる必要性を失いつつあった。


 それでも,首なし胴体をこのままにしておくのも恰好つかないので,霊力で銀次に似せた頭部を構築して,部屋の片隅に立たせることにした。


 コンコン!


 ドアがノックされた。助産婦がドアを開けると,ひとりの女性が立っていた。魔体のツバメだった。


 ツバメ「あの,,,まな美さんの紹介でここに来ました。ここで,家事手伝いをしなさいって言われて」

 

 外見が1歳の女の赤ちゃんであるルリカが,しっかりと口ぶりで答えた。


 ルリカ「あら?ちょうどよかったわ。水香がいなくなったから,あなたに,家事,料理,すべてお願いするわ」


 リルカは,そう言ったものの,ツバメの魔体が,さほど良くないことに気がついた。


 ルリカ「ちょっと,ここに来て,手を見せなさい」

 

 ツバメはわけがわからず,手を見せた。


 ルリカ「なんとも粗悪な魔体ね。一目で人間の皮膚でないとわかる。これでは,客商売は無理ね」

 ツバメ「わたし,まな美さんから,銀次さんたちの家事手伝いをするように言われました。バイトは,仕事に含まれていません。それに,この魔体,3週間しか持ちません」

 ルリカ「・・・,つまり,俺たちの監視役に来たわけ? まな美に電話しなさい」

 

 ツバメは,まな美に電話して,スピーカーをオンにした。


 ルリカ「まな美? わたしよ。このツバメの魔体では,ぜんぜん金かせげないわ。もっと,ましな魔体にしてちょうだい」

 

 まな美「メリル様,では,数日待っていただけますか? もっとマシな魔体を,サミコに作成してもらうように依頼しますので。

 ツバメ,あなたに,もっといい魔体を準備しますので,そこで待っててください」

 ツバメ「まな美さん,了解しました。お待ちします」

 

 ルリカ「じゃあ,お願いね」

 

 ルリカは,電話を切った。


 ルリカ「ツバメ,当面,新しい魔体が手に入るまで,ここにいていいです。とりあえず,料理を作ってくれますか? 間もなく助産婦のミルミさんが帰ってきますから」


 ツバメは,どうやら,この部屋で一番偉いのは,助産婦のミルミさんだと思った。


 ツバメは,冷蔵庫を開けた。野菜が少々,卵が少々,釜には,ご飯が少々あった。彼女は,パッパと焼きめしを作った。後,オニオンスープも準備した。


 ミルミ「ただいまー」


 助産婦のミルミが仕事から帰ってきた。彼女が卓袱台に座ると,すぐにツバメが先ほど作った焼きめしとスープをテーブルに並べた。ツバメは,次にコーヒーを準備した。


 ミルミは,ツバメの行動を眺めた。


 ミルミ「あなた,合格よ。やっと,まともな人がやってきたわね。あなた,名前は?」

 ツバメ「ツバメといいます。よろしくお願いします」

 ミルミ「わたし,ミルミ,助産婦しているわ。ツバメは,なにしにここに来たの?」

 ツバメ「銀次さんやルリカさんと一緒に生活するように言われました」

 ミルミ「フフフ,そうなの? 今日,あなたが来なかったら,彼らを追い出していたわ。ツバメさんが,毎日,料理を準備してくれたら,彼らを追い出すの止める。ツバメさん,どう? 毎日,ここに居て,料理してくれる?」

 ツバメ「はい,喜んで」

 

 ツバメは,助産婦のミルミに認められた。



 ーーー 

 翌日,まな美は,警視庁本部に出勤して,林サミコのいるスィートルームに移動した。


 そこには,森タミコが,高級デザートを享受していた。


 まな美「サミコ,ちょっと,お願いがあるんだけど。また,魔体を一体,生成してほしいんだけど,いい?」


 林サミコ「はあ?何寝言,いっているの? バカじゃないの? あんた,水香を時間加速で産んであげたことのお礼,わたし,まだ貰っていないわよ。そうね,1億円でいいわ。それ持ってきたら,魔体,生成してあげる。フフフ,魔法因子ないから,この林サミコの外見だけどね」


 森タミコは,感情的にそう言ったものの,先日の青龍の言葉を思い出した。


 森タミコ「でも,他ならぬまな美からのお願いだから,ちょっと,面白い情報,提供してあげる。

 実は,メリルを,新魔大陸に送り返してやろうというアイデアがあるのよ。あと数日で,新魔大陸に次元転送できる装置が手に入るわ。それを使って,メリルを送り返してほしいの。そのためなら,わたしと師匠の持っている魔体生成能力,いくらでも使ってもいいわ」

 まな美「メリルを新魔大陸に送り返す? ふーー,ちょっと,大げさになってしまうわね。大統領まで話しを通すか,それとも,内輪で対応するか,,,悩ましいわね,,,でも,サミコ,情報,ありがとう。わたしも,いろいろ動いてみるわ。また,相談するわね」


 まな美は,頭の中で,いろいろと考えを巡らした。


 結局,メリルは,殺したことになっているし,事を荒げたくないのは,まな美も多留真も同じだ。


 それに,札幌決戦では,メリルは,本気を出していないと,多留真は言っていた。ということは,メリルは,まだ暴れたりないのではないか? そこをうまく突けば,つまり,本気のバトル状態を準備すればいいのではないか? そこに活路があるとまな美は思った。


 となると,林サミコが生成する魔体では役不足だ

 

 まな美はハルトに電話することにした。


 まな美「ハルト,あなた,宦官から卒業したくない?」 

 ハルト「何? まな美,お前,治せるのか?」

 まな美「たぶん,大丈夫だと思う。わたし,回復魔法,かなりうまくなったのよ。すでに,上級レベルを超えていると思うわ。だから,ハルトのあそこ,治せるわ。絶対に」

 ハルト「フフフ,つまり,俺に何かをさせたいのだな?」


 まな美「ご名答! 魔体でも何でもいいから,人間そっくりな体がほしいの。しかも,千雪組の持つ戦闘能力に匹敵できるほどのものがほしいの。どう,できそう?」

 ハルト「はあ? 何言っているんだ?」


 まな美「もう一度言うわ。ハルト,宦官,卒業できるのよ。いいでしょう?」

 ハルト「・・・」


 宦官を卒業できる方法は,メーララにお願いすれば一発で治る。でも,大金を持っていかないと直してくれない。ホーカにお願いしても,霊力の捜査レベルがまだ不十分だと言われて,取り合ってくれない。ならば,,,まな美の口車に乗ってもいいのではないか?

 

 ハルト「・・・,わかった。ちょっと,動いて見よう。その体の霊体はどうするんだ?」

 まな美「そうね。わたしの方で準備するわ。素人の霊体よ。今は,しょうもない魔体で生活しているわ。だから,素人の霊体が扱っても,超,超一流の戦闘能力にしてほしいの。それが条件よ」

 ハルト「・・・,ok,なんとか動いてみよう」


 ・・・

 ハルトは,早速,ミサキ探偵事務所を訪問した。そこには,ホーカがいる。ホーカは,日々,自分の体を霊体で作成中だ。かなりの部分を完成させている。そろそろ,次の段階に入ろうという時だった。


 ハルト「ホーカ様,実は,ホーカ様にとって,耳寄りな話があります」

 ホーカ「何? おいしいものでも手に入ったの?」

 ハルト「実は,新鮮な霊体が手に入ります。今は,魔体で生活しています。彼女は,ホーカ様が造る霊体の体を,ぜひ試したいと希望しています。

 その使用感,使い勝手,機能性,霊力行使時の反応性など,しっかりとモニターしてくれます。どうです? 1ヶ月か2ヵ月ほど,彼女に霊体の体をモニターさせてはいかがでしょう? 今後の改良点がよくわかると思いますよ」

 ホーカ「そうね,それも悪くないわね。わたしも,そろそろ,次の段階に移行しようと思っていたのよ」

 ハルト「それはよかった。ホーカ様,どうせなら,戦闘能力で,最高レベルの体を作りませんか? それを素人の霊体がどれだけうまく操作できるのか,ホーカ様にピッタリなテーマだと思いますよ」

 ホーカ「なるほどね。それも悪くないわね。素人が操作するとなると,あらかじめ,魔法陣を準備しないといけないわね。それに,霊力も,霊力の核に操作してもらう必要があるから,,,霊力の核を2分割しないといけないか,,,となると,4日くらいは必要かな?

 ハルト,じゃあ,4日後に,その魔体の彼女を連れてきてちょうだい。霊体の体をそれまでに準備するわ」

 ハルト「かしこまりました。では,その時に」


 ハルトは,してやったりとニコニコした。


 3日後,ホーカは,外見が千雪とそっくりな,霊力の体による肉体を生成した。新生千雪の肉体と言うべきものだ。


 次に,ホーカは,カロック,サルベラ,メーララの3名を非常召集した。


 ホーカ「ここに霊力の帯を3本用意したわ。それぞれ,自分の知っている魔法陣を,その帯に転写してちょうだい。かつ,その機能を念話で,その霊力の核に伝えなさい。200種類の魔法陣を記憶できる容量を持っているから,容量的には間に合うと思う」

 メーララ「ホーカ,してもいいけど,報酬は?」

 

 ホーカは,メーララにじろっと睨んだ。


 ホーカ「メーララ,わたしがこうなったの,もともとは誰が原因なのか,うすすす分かっているのよ。でも,これをしてくれたら,まあ,今回は,黙っててあげる」

 メーララ「・・・」


 今のホーカに勝てる者など,どこにもいない。カロック,サルベラ,メーララの3名は,次々に魔法陣を繰り出して,それを霊力の帯に転写していき,その機能を霊力の核に伝えていった。


 2時間後,,,


 その作業が終了した。


 ホーカは,自分の霊体を,ホーカの体から出て,その新生千雪の体に入った。


 さきほど,3名の魔法士が転写した3本の霊力の帯と霊力の核を自分のあの部分から吸収して,子宮部分に定着させた。


 この新生千雪は,膣や子宮と同じ構造はあるものの,卵子を生成する機能はもちろんない。


 この新生千雪の体の修復機能は,大変優れている。この体を10分割されても再生可能だ。だが,それ以上,分解されてしまうと,再生不能となり,霊力の核に集約されてしまう。


 ホーカ『さて,この体,加速レベルを確認しましょう。5倍速,,,OK。10倍速,,,OK。30倍速,,,OK。50倍速,,,OK。100倍速,,,OK。300倍速,,,OK。1千倍速,,,ちょっと無理か,,』


 ホーカは,加速試験を止めた。


 ホーカ『でも,機関銃の速度よりもかなり早いから,機動隊を倒すくらいはなんとかなるわね。次は,霊力以外に,魔力補充もしないといけないわ』


 千雪組は,政府からの優遇政策として,精製魔力結晶を優先的に提供される。その代わり,犯罪は起こすなという意思表示だ。


 テニスボール大の精製魔力結晶を丹田の位置に格納させた。TU級(S級の千倍レベル)の攻撃魔法100発分を放つことができるほどの魔力量に相当する。


 ホーカ『では,霊力の核,わたしの記憶,能力をコピーしなさい』

 霊力の核『了解しました。ご主人様』

 

 霊力の核は,数時間かけて,ホーカの記憶,能力をコピーしていった。



 ・・・

 翌日,ハルトは,魔体の体をしているツバメを連れて,ミサキ探偵事務所を訪問した。


 ハルト「ホーカ様,新鮮な霊体を連れて参りました。彼女の名前は,ツバメと言います」


 ホーカは,ツバメを見た。


 ホーカ「まあ,一般人の霊体だわね。確かにモニターとしては,ちょうどいいかもね。


 では,ツバメ,そこに横になってちょうだい。霊体を移植するわ」

 ツバメ「わかりました。よろしくお願いします」


 ツバメは,その場で横になった。ホーカは,収納指輪から,細かく調整した新生千雪の体をその隣に置いた。


 ホーカは,ツバメの魔体の体に霊力を流して,ツバメの霊体の場所を特定して,その霊体を新生千雪の霊体格納魔法陣の中に移植した。この霊体格納魔法陣は,ホーカーが改良したもので,誰の霊体の形状でもピッタリ合致するようにできている。ただし,一度,合致してしてしまうと,その人専用になってしまう。


 ホーカ「ツバメ,起きなさい。それが,あなたの新しい体よ」

 

 ツバメは,目を覚ました。ゆっくりと体を起こした。なんともしっくりと来る体だった。


 ツバメ「え? 生前の体と,まったく遜色ありません。これ,,,最高です」

 ホーカ「フフフ,そうでしょう? 現在,できる最高の技術を投入したのよ。でも,強敵と戦うには,練習不足よ」

 ツバメ「強敵と戦う?」

 ホーカ「そうよ。視界の上の方に,戦闘モードってあるでしょう。それを,『念』で押しなさい」

 ツバメ「はい,ちょっと試して見ます」

 

 ツバメは,意識を集中して,そのボタンを押すイメージをした。


 ピューーーン!ピューーーン!ピューーーン!ピューーーン!


 ツバメ「ええーーー?!」


 視界が横に3分割されて,上部の視界に2層,下部の視界にも2層の帯が並んで,幾多の魔法陣がズラーと勢揃いした。


 上からホーカの帯だ。霊力の機能ボタンが並んでいる。加速は,2倍から500倍まで。霊力の防御ボタン,隠蔽ボタン,変身ボタン,飛翔ボタン,などなど,,,

 2番目の層は,サルベラだ。氷結弾,火炎弾,爆裂弾などの基本魔法は当然として,風魔法を中心として,物体上昇,横風,縦風,竜巻,台風魔法などなどが並んでいる。

 3番目の層は,カロックだ。火炎魔法に特化した魔法陣が,延々と並んでいる。圧倒的なのは,業火の火炎魔法だ。

 4番目の層は,メーララだ。回復魔法を中心として,心臓さえ動いていれば,すべてを回復できそうな魔法陣ばかりだ。


 さらに圧巻なのは,自動防御機能もついてる。それは,常に発動中だ。パワー削減のため,霊力の編み目状の結界を新生千雪の半径5メートルの範囲内で展開している。異常行動が生じた場合,すぐに本格的防御が発動する。


 ホーカ「戦闘モードでは,最大5通りの性能を同時発動ができます。同時並列思考ができるように日頃から訓練しなさい。それが,あなたに課すモニターの役目です。

 改良点,不備な点など,キチッと,報告書にまとめること。尚,攻撃目標は,追って,その体に直接指示します。視界に現れます。その指示を受けたら,12時間以内に攻撃しなさい。それがあなたのモニターとしての役目です。履行できない場合,あなたの霊体は,即刻,消去します。まあ,完全な死亡ってことね。

 モニター期間は2ヵ月。攻撃目標は,1週間に1回指示します。それまでは,好きにしなさい。

 質問は,受け付けません。敵に殺された場合は,そうね,万難を排しても,この場所に戻ってきなさい。霊体のままでもいいです。わたしの近くに来たら,霊体をある程度感知できますから」

 

 ホーカは,近場にいるアカリに命じた。


 ホーカ「アカリ,攻撃目標と,住民避難,敵の配備など,準備はいいわね?」

 アカリ「はい,順次,α隊,SART隊と調整しています。敵の魔装部隊の第2陣も準備中だと聞いています。初回のバトルは,6日後を予定しています」

 

 ツバメは,ハルトを睨んだ。


 ハルトは,ツバメに顔を合わせなかった。まさか,こんな展開になるとは,,,


 ツバメは,戦闘モードをオフにした。この状態だけだったら,なんと,最高の体なのか?


 ハルトは,ツバメの顔を合わせずに,彼女を連れて,まな美のいるマンションに向かった。時間は,すでに,夜の11時を過ぎていた。



 ー 多留真のマンション ー


 まな美は,ハルトとツバメを部屋に入れた。多留真は,グッスリと寝ている。それもそのはず,まな美は,多留真に強力な睡眠薬を飲ませた。


 ハルト「まな美,彼女がツバメだ。新しい体だ。これで文句ないだろう?」

 

 まな美は,マジマジとツバメを見た。その体は,千雪そのものだった。Bカップで,かつ,超がつくほどの美人顔だ。


 まな美「もしかして,この体,千雪? 霊力でできているの?」

 ハルト「そのようだ。現在,可能な最高レベルの戦闘能力を持っている。TU級魔法100発を発動できる。加速は,300倍をクリアしている。もっとも,週に一度,政府側と戦闘をする義務を生じる。まあ,模擬戦みたいなものだ。それについては,気にしなくていい」

 

 まな美「TU級魔法100発,さらに,加速300倍をクリア,,,すごいわね。これなら,メリルに勝てるかもしれない。でも,霊体は素人か,,,そこが問題だわね。でも,いい取り引き材料になるわ」

 ハルト「では,さっそく,宦官から卒業させてくれ」

 まな美「了解,やったことないけど,試すわね」


 まな美は,多留真のあの部分をハルトに移植する施術を行った。移植手術は成功した。


 しかし,問題は,多留真のその部分の再生施術だ。まな美は,自分が可能な最高度の回復魔法を発動した。


 まな美の回復魔法は失敗した。多留真のあの部分は再生できなかった。


 まな美は,自分の甘さに気づいた。


 まな美「多留真には申し訳ないけど,当分,宦官になってもらうしかないわね」


 そのとき,新生千雪の体を支配しているツバメが声をかけた。


 ツバメ「あの,わたしがしましょうか?」

 まな美「え? あなた,出来るの?」

 ツバメ「はい,心臓さえ動いていれば,すべての部位を再生可能です」

 まな美「・・・」


 まな美は,まさか,この新生千雪に,そこまでの回復魔法ができるなんて,思ってもみなかった。


 ツバメは,いとも簡単に,多留真のあの部分を再生させた。


 まな美「ツバメ,あなた,いったい,どんな能力持っているの?」

 ツバメ「いろいろありすぎて,まだ理解できていません。でも,千雪組の,ホーカ,サルベラ,カロック,メーララ,この4人の能力をほぼ,この体に移植したと説明受けました」

 まな美「え? なに? それ,ほんと? 」


 まな美は,驚愕の眼でツバメを見た。彼女は,千雪組の作る『体』は,まったく次元のレベルが違うとつくづく思った。


 ハルトは,意気揚々として帰っていった。


 部屋には,まな美とツバメだけになった。


 まな美は,次元転移装置をツバメに渡した。その次元転移装置は,森タミコからまな美に渡ったものだ。


 まな美「ツバメさん,大事な任務をしてもらいます。この次元装置は,新魔大陸に戻る装置です。つまり,メリルを,自分の古里に戻す装置です。それを,メリルに渡して,メリルが,自分で納得してその装置を起動してほしいのです」

 ツバメ「ええ? そんなこと,どうやって,すればですか?」


 まな美「簡単なことです。ルリカは,まだ,この月本国で暴れ足りないんです。だから,その場を提供してあげればいいだけでしょう。


 ツバメは,1週間に一度,政府側と模擬戦をする予定なのでしょう?その模擬戦を見学してもらえばいいだけです。ツバメの能力を理解してもらいましょう。


 ルリカのことですから,ツバメと勝負すると思いますよ。なんせ,暴れることができるのですから。


 その勝負で,メリルが勝てば,ツバメは,メリルの奴隷になりなさい。ツバメが勝てば,次元転移装置で新魔界陸に帰ってもらう。その掛けをメリルとしてください」

 

 ツバメは,少々腑に落ちないものの,まな美の依頼を引き受けて,ルリカいる部屋に帰っていった。



 ー 助産婦のアパート ー

 もう,夜の12時を廻っていた。助産婦のミルミは,まだ帰っていなかった。ときどき,帰って来ないときがある。仕事柄,やむを得ない。


 翌朝,


 ツバメは,ルリカに声をかけた。


 ツバメ「ルリカ様,わたし,新しい魔体を手に入れたツバメです。外見は,千雪様と同じだと言われました。

 実は,わたし,千雪組のホーカという女性によって,この体を与えられました。千雪組の,ホーカ,サルベラ,カロック,メーララ,この4名の能力を,この体に移してもらいました。


 わたしは,まな美さんに恩義があります。それで,恩義を返すために,ここでメイドとして仕事することになりました。


 まな美さんが言うのは,ルリカ様にわたしと勝負してほしいそうです。ルリカ様は,まだ暴れたりないので,思いっきり暴れる機会を与えたいという親切心があるようです。


 掛けの内容ですが,ルリカ様が勝てば,わたしを奴隷にできます。もし,メリル様が負ければ,新魔大陸に帰ってほしいそうです。新魔大陸への次元転移装置は,わたしが持っています」

 

 メリル「・・・,つまり,わたしひとりで,千雪組の,ホーカ,サルベラ,カロック,メーララの4人を相手にするってこと?」

 ツバメ「はい,そうなるかと思います」

 

 メリル「ところで,あなたは,生前何をしていたの? どんな魔法が使えるの?」

 ツバメ「わたしは,生前は,普通のOLをしていました。魔法なんてまったく使えません」

 メリル「・・・,つまり,あなたは,ド素人なの? どうやって,ホーカたちの能力を発揮するの?」

 ツバメ「画面にあるボタンを念で押すだけです。もしくは,念話で対応します。この体は,ロボットのようなものです」


 メリル「つまり,ロボットと対決するのか,,,一度,あなたの能力を見てみたいわ。それから判断するわ」

 ツバメ「わたし,週に一度,政府軍と模擬戦をします。まな美さんも,ルリカ様にぜひその模擬戦を見学してほしいと言っていました。それでわたしの戦闘能力を理解できると思います」

 メリル「フーーン,そうなの? じゃあ,その時,また起こしてちょうだい。わたし,このまま寝るわ」

 

 メリルは,なんとも緊張感なく,また,寝入ってしまった。


 ーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る