俺らは友達

TK

俺らは友達

今日も男は退屈な講義を受けに、僻地にあるキャンパスまで足を運ぶ。


「よっ!」

「よっ!」


よっ友に遭遇したので、男は軽く挨拶を交わした。

「よっ友」の定義は、かなり曖昧だ。

本当に「よっ!」と言い合うだけで終わってしまうケースもあれば、多少言葉を交わすケースもあるし、

頻度は少ないもののプライベートで交流する時間を設けるケースもある。

ただ、やはり「よっ友」と言うと、よそよそしい関係を示すのが一般的な感覚だ。

ちなみにこの2人は、先に上げたいくつかの定義全てに該当するような関係だ。

「よっ!」と言い合うだけで終わってしまう日もあれば、ある程度話し込む日もあるし、お互いが暇を持て余していれば休日に遊ぶこともある。


「俺さぁ、今日一限の授業出れなかったんだよね。ノート見せてもらえる?」

「うん、いいよ。」

「写し終わったら返すわ。じゃ、またね」

「・・・うん、じゃあね」


男はよっ友が時間と労力を費やして作成したノートを無償で借りたが、特に感謝の言葉は述べなかった。

でも、わざわざ感謝の言葉なんていらないよね!

なんてったって俺らは友達なんだから!


「あっ、昨日の簿記の授業なんだけど、ちょっと分からないところがあったんだよね。お前、たしか簿記の資格持ってたよね?今度ちょっと教えてほしいんだけど・・・」

「いやいや、分からないことは自分で調べるなり先生に聞くなりしてさ、自分で解決しようよ。簿記の資格は持ってるけど、取得するには時間も労力も必要なんだよ?その俺の苦労にタダ乗りしようとしちゃいけない」

「そ、そうだね。」

「うん、じゃ、また今度ね」


***


今日男は、よっ友とドライブに行くみたいだ。

中学とか高校の友達と遊ぼうと思って連絡しても、なぜか予定が合わないみたい。

だから、微妙な関係のよっ友を誘ったんだね。

ただ、なんか待ち合わせ時間に遅れているみたい。どうしたんだろう?

あっ、やっと男が来たみたいだ。


「よっ!じゃ、行こうか」

「・・・待ち合わせ時間から30分遅れてるけど、どうしたの?」

「ん?電車が遅延してたんだよ」

「・・・そっか。じゃあさ、遅延してるって連絡してよね」

「え?仕事じゃないんだからさ、いちいち連絡しなくていいでしょ。もっと気楽にいこうよ、今日は遊びに行くんだから」

「そ、そうだね。」

「うん。じゃ、行こうか!」


男は待ち合わせ時間に遅れちゃったけど、電車の遅延だったら謝る必要はないよね!だって男は悪くないんだから。

あと、遅れちゃうことも分かってたけど、いちいち連絡しなかったよ。

だって、仕事じゃないんだもん。そこまで神経質になる必要はないよね!

こんな感じで、テキトーな扱いをしてもOK!

なんてったって俺らは友達なんだから!


「いやぁ、今日は楽しかったなぁ」

「そうだね!また暇な時にドライブするか」

「OK!じゃ、帰るわ。また今度」

「あっ!待って。実は今日のドライブで、ガソリン代と駐車場代で3,000円かかってるんだよね。悪いけど、半分払ってもらえるかな?」

「は?そんなのいちいち計算するなよ。友達なんだからさ、そういうのは普通請求しないんだよ」

「そ、そうだね。」

「うん、じゃ、また今度ね」

「・・・」


男は車を出さなかったし、運転もしなかった。

だけど、いちいちお礼なんてしなかったよ。

それに、ガソリン代も駐車場代も払わなかったけど、そんなことに神経質になるほうがおかしいよね。

仕事上の付き合いじゃないんだから、テキトーな対応でOK!

なんてったって俺らは友達なんだから!


***


「よっ!」

「・・・よっ」

「俺さぁ、今日も一限の授業出れなかったんだよね。ノート見せてもらえる?」

「・・・いや、見せない」

「は?なんでだよ」

「お前と付き合ってると、なんかモヤモヤするから」

「なにモヤモヤって?意味わかんねーよ」

「じゃあ、ちゃんと説明してやる。お前、俺からノート借りても一切感謝の言葉を言わないよな。そんな奴にノートを貸したいって思えるわけないだろ?」

「いやいや、もちろん感謝はしてるって」

「だったら、それを言動で示せよ。」

「俺らは友達の関係だから、めちゃくちゃ丁寧な感謝を述べる必要はない。サンキューの一言でも構わないんだよ。だけど、お前は感謝の気持ちを一切表現しない。それは俺からすれば、感謝していないのと一緒なんだよ。」

「・・・」

「それに、この前遊びに行った時、遅刻したのに一切謝らなかったよな」

「いや、あれは電車が遅延したからだろ。俺は悪くない」

「そう、お前は何も悪くない。だけど、問題はそこじゃないんだよ。お前が遅れた30分間、俺は待ちぼうけを食らっているわけだ。待ちぼうけを食らうことで、多少なりとも俺のテンションは下がっているわけ。その気持ちの落ち込みを、無視しないでほしいんだよ。「悪い、待たせた」とかの一言でいいんだ」

「・・・」

「それに、電車が遅れていることを一切連絡しなかったよな。なぜ連絡しない?俺はなんでお前が遅れているか分かってないわけ。当然その間、俺は不安な気持ちになるよな。その不安を軽視するな。たった一言「電車が遅延してるから遅れそう」って連絡してくれればいいんだよ」

「・・・」

「あと、ガソリン代も駐車場代も一切払わなかったよな。俺も、いちいち友達に代金を請求したくないんだよ。だから、こういうことは本当はお前から言い出すべきなんだ。別に、キッチリとした料金を払わなくたっていい。運転終わりに感謝の言葉を述べるとか、ランチ代はお前が奢ってくれるとかして、なんとなく帳尻を合わせてくれればいいんだ。なのに、お前はなにもしない」

「これが、モヤモヤの正体だ。友達だからってな、雑に扱っていいわけねーだろ」

「・・・うるせぇ。ダルいわお前。じゃあな」


「はあ、なんなんだよアイツは。女々しい説教を繰り広げやがって。友達なんだから、そこまでの配慮なんていらねーだろ」

「・・・いや、よく考えたら、それが中高の奴らと連絡とれねー原因かも。勉強を教えてもらえるのが当たり前だと思ってたし、家で飯食わせてくれるのも当たり前だと思ってたなぁ。そのくせ俺は、勉強を教えてやったことはないし、家に招いてもてなしたことなんて無かったなぁ」

「・・・アイツたしか、簿記を教えてほしいって言ってたよな」


***


「・・・よっ!」

「・・・よっ」

「・・・あ、あのさあ、お前たしか簿記でわからないことがあるって言ってたよな。後で教えてあげようか?」

「え!?いいの?」

「うん、もちろん。あ、あと、この前ドライブで車出してもらったから、今日の昼飯奢るよ」

「・・・!そうか、ありがとうな。あっ、この前の授業なんだけど、お前欠席してたよな。ノートまとめてあるから、見せてあげるよ」

「・・・マジか!ありがとう!」

「おう。あと、今度家に遊びに行っていい?住んでる場所教えてよ」


男はそれからも、「よっ友」だった彼に勉強を教えてあげたり、家に招いてご飯を振る舞ったりしたようだ。

なんでそんなことをするかって?

当たり前でしょ。


なんてったって俺らは友達なんだから!



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俺らは友達 TK @tk20220924

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