第8話
「ねえ、
「ん?」
「なんか飲み物飲みたい。」
疲れた。だるい!もう何にもしたくない!
「自販機あるから買ってくるわ。希望はある?」
「コーヒー牛乳かミルクティー」
俺は疲れた時、乳飲料しか飲まない。これは決まりだ。飲んだら落ち着く気がする。
「了解!ちょっと待っとって!寝てて良いからね」
優乃は軽い足取りで去って行った。
いつもありがとな。相棒。もっと強くなるから。君は俺以上に耐えて必死に頑張ってる。いつか、君よりも強くなって、君の音楽を脅かす汚いものから守りたい。
戻ってくるまで一眠りして一気に回復してやる。
「だから、辞めてください、って言ってるんですけど!しつこいです。私には彼氏がいるんです!離してください!」
女性の声がする。うるさいな。痴話喧嘩は別の場所でやれよ。
「嫌がるところも唆られるね」
うわ、きっも。
右を見たら、茂みに男が女を押し倒していた。
「辞めてください!ほんとうに辞めて!誰か助けて!」
「つれないなあ。楽しもうよ!」
男は舌舐めずりをした。おおよそ、この後何をしようとしているのかは予想がつく。
最低じゃん。見てられねーわ。
「おい、お前辞めろよ。無理矢理襲おうとするとか神経大丈夫?脳味噌モーツァルトのオペラブッファかよ。伯爵か?」
男が振り向いた。
あ。
終わった。
「ねえ、今なんて言った?」
その男は
入学時に理事長から聞いている。生徒会の偉大さを。
「あー、いやえっと、モーツァルトを否定してるわけではなくて...寧ろモーツァルトよりも全然気色悪いっ...がは!!」
こいつ、殴りやがった。
口内に血の味が広がる。
というか僕も弁明するつもりがモロ本音言っちゃったよ。気分悪い。頭痛い。
「君、誰に向かってその口聞いてるの?」
八神は僕の目の前にしゃがみ込んで来た。無駄にキラキラした顔面に腹が立つ。
「言うまでもなく、お前だよ。俺、しんどいんだよ。本当に目障りだ。消えろ。」
あーあ。俺。なんで本音しか言えないのかな。でも元はコイツが悪いし。なんでこんな頭の悪い生徒会が牛耳ってるの。頭痛い。もう、ここで寝たい。
「俺たちに歯向かったらどうなるかわかってるよね?」
僕の胸ぐらを掴みながら優しく、そう言った。逃げたいのに、頭と身体が痛すぎて何もできない。これ以上口滑らせたくない。
「世ー瑠、何遊んでるのー!女の子逃げてったけど君の?持ってこようか?」
「いや、アイツはどうでもいい。それよりこいつね、俺に指図したから教えてあげようと思って。」
誰か来た。うつ伏せによくわからないけど多分生徒会。俺殺されるのかなぁ。
「えー。最近の馬鹿は
「しゃおみーみー?まあ、どうでもいい。それじゃあ、まず左腕から折りまーす!」
「辞...め...ろ。」
八神が俺を床に押さえつけて左腕を掴んだ。
俺の腕は生命に等しい。月末のオケが控えてる。絶対壊したくない。最悪だ。心は動きたがっているのに。身体が追いつかない。痛い。苦しい。逃げないと。どうすれば。ああうるさい。
「何やっとんじゃボケ!」
ちょっとビブラートを帯びた威勢の良い声とともに間抜けな音がした。どうやら、声の主が何か八神の頭に当てたらしい。
「痛って!」
八神が俺の腕を離した。
花と旋律 井伊琴陸 @shiroiKotori
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